漕舟の(読み)こぐふねの

精選版 日本国語大辞典 「漕舟の」の意味・読み・例文・類語

こぐふね‐の【漕舟の】

[1] 舟を漕ぐのに絶え間のない意から、「忘れず」にかかる。
万葉(8C後)一四・三五五七「悩ましけ人妻かもよ許具布禰能(コグフネノ)忘れはせなないや思(も)ひ増すに」
[2] 〘連語和歌で、序詞の一部としてさまざまな語を引き出すのに用いる。
① 漕ぐ舟に乗るの意で、「のる(乗)」と同音の「告(の)る」「法(のり)」などを引き出す。
※万葉(8C後)一一・二七四七「あぢかまの塩津をさして水手船之(こぐふねの)名は告(の)りてしを逢はざらめやも」
※新千載(1359)釈教・八九九「数ならぬ関の藤川こぐ船の法(のり)のためにや世に仕へまし〈雲禅〉」
② 舟が浮く意で、「浮きたる」「浮き沈み」などを引き出す。
※後撰(951‐953頃)恋三・七六八「玉津嶋深き入江をこぐ舟のうきたる恋も我はするかな〈大伴黒主〉」
③ 舟の帆の意で、「ほ(帆)」と同音を含む「まほ」「かたほ」「ほに出づ」「ほの」「ほのか」などを引き出す。
源氏(1001‐14頃)早蕨「しなてるや鳰(にほ)の水海にこぐ舟のまほならねども逢ひ見しものを」
※新拾遺(1364)恋二・一〇三二「逢ふことは波間はるかにこぐ舟のほの見し人に恋ひや渡らむ〈徽安門院一条〉」
④ 舟を漕ぐ音から「音立つ」「静め」などを引き出す。
※新勅撰(1235)恋一・六五一「みなと入りの玉つくり江にこぐ舟の音こそ立てね君を恋ふれど〈小町〉」
⑤ 舟を漕いで遠ざかっていくことから、「へだつ」を、また近付いてくることから「寄す」などを引き出す。
※新古今(1205)恋一・一〇四八「み熊野の浦よりをちにこぐ舟の我をばよそにへだてつるかな〈伊勢〉」
[補注](一)の例は比喩とする説がある。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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