演習/ゼミナール(読み)えんしゅう/ゼミナール

大学事典 「演習/ゼミナール」の解説

演習/ゼミナール
えんしゅう/ゼミナール

演習」とは,大学設置基準21条に定める大学の授業方法の一つで,多人数集団方式の教授=学習(講義)教師1対学生1の教授=学習(個別指導)中間に位置し,2人以上から20人程度の学生と教師からなる小集団による教授=学習形態を指す。大学のシラバスや履修基準で演習をゼミナール(セミナー,ゼミ)と称する事例もあるが,歴史的起源からは別なものである。

 中世大学は講義をおもな方法にしていたが,教師による註釈に加え,解釈に対する賛否を問う討論が行われ,とくに論理学の学習は命題への反論,等値,換位などの手続きを討論で学んでいた。中世大学の講義は正当とされた教義に基づくものであったが,19世紀に科学革命が進み,ドイツの大学は真理探究のための教師と学生の共同体と考えられ,研究の過程と成果を提示し,批判的検討を行うことで,学生が自主的に学習する場となるゼミナールが盛んに行われるようになった。ゼミナールでは,学生は受け身の学習者ではなく,学習と研究に携わるとされ,ベルリン大学で1812年に開設された言語学ゼミナールは,選抜を通じて採用された8名の学生に古典学研究の訓練を行った。ゼミナールは演習と報告検討会から構成され,演習では論文や著書の批判的検討が行われ,報告検討会では参加者の論文発表・討論・検討が行われた。これは今日の大学院で行われる研究指導を核にしたゼミの原型といってよい。

[近代日本の様相

近世日本においても,塾や藩校などで討論を含む学習形態として会読・輪講があり,明治期に創設された官立学校でも「演習」は教育課程に組み込まれていた。1877年(明治10)の東京大学法学部には「日本現行法律(擬律(日本))」という科目があり,法令の適用について検討するもので,79年には「訴訟演習(日本)」と改称された。しかし,これらの演習は,あらかじめ教師の定めた課題に取り組むためやテキストを理解するための練習であり,ドイツ大学に起源を置くゼミナールとは理念も内容も違う。

 ゼミナールを日本の大学に紹介したのは,1897年から1900年までイギリス・ドイツに留学した京都帝国大学教授高根義人であり,学生に研究させるドイツのゼミナールを紹介し(「大学ノ目的」1902年),演習科の設置を提案した。東京帝国大学法学部外国人教師ヴェンティッヒ,H.は機械的暗記と試験に縛られた学生に,独立した思考力を育成するため演習の設置を提案した(1910年)。また,1912年に来日したハーヴァード大学総長エリオット,C.W.は,硬直的な日本の大学教育を批判し,選択の自由の拡大とともに,講義の一部を小集団に分け,助手の担当のもとで学生の自主的学習の時間とすることを提案した(成瀬仁蔵『大学教育法改善案』1916年)。このように,演習の拡大は,大人数講義と試験による知識注入主義の大学教育改革の手段として主張された。東京帝国大学法科大学は1914年に演習を選択科目にし,東京商科大学では1年生でプロ・ゼミナールに属し,2,3年で教官の開くゼミナールに申し込んで選抜されれば,研究指導を受けることができた。単なる科目としての演習ではなく,ドイツ型のゼミナールは,研究大学のいくつかに定着していたのである。

[戦後日本の様相]

しかし,戦後大学の教育課程編成を定めた大学基準(1947年)は,講義毎週1時間15回で1単位,演習は週2時間15回で1単位としたため,教員配置や演習を行う施設の貧弱な新制大学での演習の拡大は困難を抱えた。とくに大学教育の入口となる一般教育は,教員不足のために,ほとんどが大人数講義で行われ,学生の多くは学部教育(専門教育)になって初めてゼミナール(演習)の経験を持つのが普通であった。

 大学教育においてゼミナールが拡大したのは,1970年以降である。大学紛争(日本)が貧弱な教育条件に対する異議申し立てであり,教師と学生との人間関係構築がうまくいかなかったことの反省も含め,一般教育における教養ゼミナールが拡大した。またマークシート方式による共通一次試験(日本)を契機に,すでにある答えを求める思考が強くなったという反省から,1980年代にもゼミナールが拡大した。1991年に大学設置基準が改正され,講義と演習の単位の換算が大学の判断で行えるようになったことも,ゼミナールの拡大を促進した。1990年代には,高校での科目選択により,大学での学習とのミスマッチが顕在化し,リメディアル科目とともに,大学での学習方法やスキルを身に着け,主体的な学習への転換を促し,大学での適応を促進するために,名古屋大学・広島大学・東北大学など研究大学でも教養教育のゼミナールが設置された。

 ゼミナールは,専門教育の中で自律的な学習を促進する方策としてだけではなく,初年次教育・導入教育において学生の主体的学習を進める教育手段として広がっており,留学生との国際共修,現地調査や訪問を含めた実物教育,サービスラーニングなど多様な方法を取り入れながら進められている。
著者: 羽田貴史

参考文献: 潮木守一『京都帝国大学の挑戦―帝国大学史のひとこま』名古屋大学出版会,1984.

参考文献: ロンドン大学教育研究所大学教授法研究部『大学教授法入門』玉川大学出版部,1982.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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