準粒子(読み)ジュンリュウシ

デジタル大辞泉 「準粒子」の意味・読み・例文・類語

じゅん‐りゅうし〔‐リフシ〕【準粒子】

相互作用をもつ多粒子集団的な運動形態の中で、振動波動量子化され、あたかも一粒子のように振る舞うもの。エネルギーは離散的な値をとり、フォノンマグノンプラズモンなどが知られる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「準粒子」の意味・わかりやすい解説

準粒子
じゅんりゅうし

多粒子の集団における粒子の運動形態の一つで、一粒子的なふるまいを示すものをいう。金属中の伝導電子液体のような多数の粒子(電子または分子)の集団においては、粒子間に力が働くため、個々の粒子は独立に運動できない。そこに生じる運動は、多数の粒子の絡み合った複雑なものになる。しかし、温度が十分低いときは、粒子系の状態は全体としてもっともエネルギーの低い量子状態(基底状態)に近く、基底状態からの小さな外れは比較的単純な見方で理解できる。すなわち、1個の粒子が基底状態から外れて動きだすと、その影響で周囲の粒子の状態に変化が生じ、中心の粒子が動くと周囲の変化もそれについて移動する。このような運動は一見、1粒子の運動のようにみえるので、準粒子とよばれる。物体水中を動くとき、周りの水は物体に道をあけるように流れる。準粒子は、周囲に水の流れを伴って動く物体のようなもの、と思えばよい。

 準粒子の運動は、周りに多数の粒子の運動を伴っているため、単純な1粒子の運動とは異なる性質をもつ。たとえば、準粒子の見かけ上の質量や準粒子間に働く力は、元の粒子の質量や力と異なる。低温では、励起される準粒子の数が少ないので、各準粒子は独立に運動するとみてよい。金属電子の場合、電子はクーロン力により互いに強く反発しあう。このため、各電子の周囲には他の電子の入り込めない領域が生じる。周りにこのような領域を伴って運動する電子が、この場合の準粒子である。準粒子は独立に運動するため、金属電子は比熱などの性質について、相互作用のない粒子系に似たふるまいを示す。

[長岡洋介]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「準粒子」の意味・わかりやすい解説

準粒子
じゅんりゅうし
quasiparticle

擬粒子または素励起ともいう。量子力学的な物性論において,粒子系が強く相互作用しながら複雑な運動をしてエネルギーの低い状態から高い状態に励起されるのを,種々の運動状態の仮想粒子が生成されるとみなす描像で表わすとき,これらの仮想粒子を準粒子という。準粒子はこれらの運動を波動の重ね合せとみなして量子化したときに現れる量子であって,運動の種類に応じて種々ある。たとえば,結晶の格子振動に対するフォノン (音子) ,伝導電子の運動に伴う格子変形に対するポーラロン,強磁性体中のスピン波のマグノン,絶縁体における励起子 (エキシトン) ,液体ヘリウム中のロトン,プラズマ振動のプラズモンがある。準粒子は素粒子の励起に対しても用いる場合がある。

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世界大百科事典(旧版)内の準粒子の言及

【素励起】より

…相互作用している多数の粒子よりなる巨視的物体の励起状態は,ある種の粒子の集りとみなすことができるが,この粒子を素励起という。粒子といっても真空中の粒子とは異なり,相互作用の効果をとり入れたいわば仮想的な粒子であって,この意味で準粒子quasiparticleとも呼ばれる。素励起のもつ運動量qとエネルギーwの間に一定の分散関係ww(q)があり,通常の粒子と同様,フェルミ統計,あるいはボース統計に従い量子化される。…

※「準粒子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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