源氏供養(読み)げんじくよう

精選版 日本国語大辞典 「源氏供養」の意味・読み・例文・類語

げんじくよう ゲンジクヤウ【源氏供養】

[1] 〘名〙 紫式部が「源氏物語」を作ったため、狂言綺語の罪で地獄に堕ちたという伝承から、その霊を供養すること。
※談義本・艷道通鑑(1715)一「一水四見は、おのれおのれがあやまり、源氏供養の廻向発願の文々句々」
[2] 謡曲。三番目物。各流。作者不詳。安居院(あごい)の法印が石山寺に参拝すると、里の女が現われて「源氏物語」の供養を頼み、自分が紫式部であることをほのめかして消える。やがて式部の霊が現われ、源氏表白(ひょうびゃく)に合わせて舞を舞う。

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デジタル大辞泉 「源氏供養」の意味・読み・例文・類語

げんじくよう〔ゲンジクヤウ〕【源氏供養】

謡曲。三番目物石山寺参詣安居院あぐいの法印に、里女が源氏物語の供養を頼み、紫式部の霊が感謝の舞をまう。
三島由紀夫戯曲モチーフとする1幕の近代劇。昭和37年(1962)、雑誌「文芸」に発表。「近代能楽集」の九つめの作品として書かれたが、のちに著者自身が廃曲として上演や作品集への収録を禁止した。初演は著者没後の昭和56年(1981)、吉田喜重の演出による。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「源氏供養」の意味・わかりやすい解説

源氏供養
げんじくよう

能の曲目。三番目物。五流現行曲。作者不明。古くは『紫式部』ともいった。安居院(あごい)の法印(ワキ)と従僧が石山観世音(かんぜおん)に参詣(さんけい)する途上、1人の里女(前シテ)が呼びかけ、『源氏物語』を書いたが、その作中人物の供養をしなかった罪で浮かばれないと回向(えこう)を訴えて消える。法印の供養に紫式部の亡霊(後シテ)が現れ、願文を捧(ささ)げ、舞を舞い、式部は実は石山観世音の化現(けげん)で、『源氏物語』は夢の世を人に知らせる方便であったと告げて終わる。紫式部が地獄に落ちたとする伝承に加え、安居院法印の作と伝える54帖(じょう)の名称を詠み込んだ『源氏物語表白』を導入して舞うところに主眼がある。なお、近松門左衛門の浄瑠璃義太夫節(じょうるりぎだゆうぶし)に『源氏供養』があり、三島由紀夫作『近代能楽集』のなかの「源氏供養」では、流行女流作家の亡霊が観光客の前に登場する筋立てとなっている。

[増田正造]

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百科事典マイペディア 「源氏供養」の意味・わかりやすい解説

源氏供養【げんじくよう】

源氏物語》を書いた紫式部狂言綺語の罪で死後に地獄に堕ちたとされ(式部堕地獄説話,《今物語》38・《宝物集》巻6),その罪を救うためになされた法会のこと。《藤原隆信集》の和歌,《新勅撰集》の藤原宗家〔1139-1189〕の和歌にもあって,実際に行われていたことが知られる。今日に残る安居院の澄憲の《源氏一品経》や聖覚の《源氏表白》はそうした法会の場で用いられたらしい。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「源氏供養」の解説

源氏供養
げんじくよう

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
作者
近松門左衛門(1代)
初演
宝永2(大坂・坂田兵七郎座)

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