湿田(読み)しつでん

精選版 日本国語大辞典 「湿田」の意味・読み・例文・類語

しつ‐でん【湿田】

〘名〙 水はけが悪く、水稲を栽培していないときでも過湿な状態水田。また、麦などの裏作のできない水田。⇔乾田

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デジタル大辞泉 「湿田」の意味・読み・例文・類語

しつ‐でん【湿田】

水はけが悪く、水がきれることのない田。→乾田

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「湿田」の意味・わかりやすい解説

湿田
しつでん

水田の灌漑(かんがい)を行わない期間も過湿、滞水のために農作業が困難で、また麦などの裏作ができない排水不良田をいう。湿田は地下水位が高く一年中乾燥することがない。地温が夏は乾田より低く酸素不足の状態で、有機物の分解が遅く腐植含量が高い。水稲は根系障害をおこしやすく、下葉の枯れ上がりが激しい。倒伏や病害生育遅延などで収量は不安定である。湿田の改良には暗渠(あんきょ)をつくるなど土木工事による排水が必要である。日本では湿田の乾田化が事業化され、湿田は減少傾向にあるが、一方において重量機械の導入により作土下の圧密層が形成され、これによる湿田が増加している。

[小山雄生]

『木下忠編『湿田農耕』(1988・岩崎美術社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「湿田」の意味・わかりやすい解説

湿田 (しつでん)

非灌漑期間にも土壌を乾かすことのできない水田。乾かして畑作物の栽培に利用できる乾田に対する用語で,非灌漑期間も湛水たんすい)状態にとどまる強湿田から,やや湿った状態にまで排水できる半湿田まで,土壌水分の状態にはさまざまなものがある。湿田の多くは,排水不良で地下水位の高い低湿地に分布するが,天水田のように,降水などを貯留して用水として利用しなければならない水田は,高所にあっても湿田となる。湿田では土壌が常時還元的条件下におかれるため,有機物の分解はゆるやかであり,また水の動きが少ないため十分な地温上昇が起こらない。これらの条件は水稲の生育に好適なものといえず,湿田の生産性は概して低い。また湿田は機械力など近代的諸技術の導入や,耕地の高度利用にも大きな障害となっている。日本では明治以降,国家的事業として灌漑排水の工事が行われ,湿田の乾田化が進められてきている。
水田
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山川 日本史小辞典 改訂新版 「湿田」の解説

湿田
しつでん

排水が悪いために稲の作付期間以外にも湛水状態となる田地。田地はその水分状態によって乾田・半湿田・湿田にわけられる。湿田は年中湿気が多いために牛馬農業機械の導入が難しく,二毛作も不可能である。弥生後期頃から西日本で湿田から乾田への開発が始まり,水稲農業の進展がみられたと考えられる。日本農業の発展にとって湿田の乾田化は大きな課題であり,そのための用排水整備・耕地整理・土地改良が行われている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「湿田」の意味・わかりやすい解説

湿田
しつでん

低湿な平野部で常に湛水している水田。一般には一毛作で,裏作を行うとすれば高畝 (たかうね) の必要がある。酸素の供給が十分ではないので,作物の生育には悪く,農作業も困難,機械化もむずかしい。日本では暗渠排水などの土地改良によって乾田化が進んでいる。特に排水が不良で,常時足,腰まで没してしまう水田を深田,沼田と呼んでいる。 (→乾田 )

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世界大百科事典(旧版)内の湿田の言及

【水田】より

…水稲作を農業の根幹とする日本では,耕地の過半は水田によって占められており,その分布は平野部から山間部にまで広がっている。
[湿田,乾田]
 水田は,古くは河川流域などに広がる湿地を利用して造成されたものと考えられ,初期の水田は,年間を通じて土壌が湿潤状態にある湿田を主体とするものであった。現在の日本でも,排水施設がととのわなかったり排水の容易でない地域,あるいは灌漑水が得られないため雨水や湧水を貯留しなければならない地域(このような地域の水田は天水田といわれる)には湿田が残っている。…

【農業】より

…《万葉集》にうたわれるところからは,苗代を作り,田植をし,早生稲(わせ),晩稲(おくて)があり,多くの沼田のあったことが知られる。沢合の湿田が主たる耕地であった時代を想定することができる。伊勢神宮の予祝行事に田植の作業のないことは,湿田の多いこと,大和国の正税を納める正倉に稲穀のほかに穎稲(えいとう)(穂首刈りの稲)のあること,近世においても直播田のあることなどと考え合わせると,古い稲作方法に直播(じかまき)のあったことを推定させる。…

※「湿田」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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