湖南(省)(読み)こなん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「湖南(省)」の意味・わかりやすい解説

湖南(省)
こなん / フーナン

中国、華中(かちゅう/ホワチョン)地区南西部の省。長江(ちょうこう/チャンチヤン)(揚子江(ようすこう/ヤンツーチヤン))中流部にあり、大部分は洞庭湖(どうていこ/トンティンフー)南方に位置するので湖南と称する。洞庭湖に流入する諸河川のうち最大で省東部を貫流する湘江(しょうこう/シヤンチヤン)の名をとり、湘と略称する。面積21万1800平方キロメートル、人口6515万4655(2000)。13直轄市(地区クラス)、1自治州に分かれ、16県級市、65県、7自治県からなる。省都は長沙(ちょうさ/チャンシャー)市。漢民族のほか、ミャオ族、トウチャ族、トン族、ヤオ族、回族、ウイグル族、チワン族などが居住する。春秋戦国時代は楚(そ)の地の一部で、秦(しん)代に長沙郡と黔中(けんちゅう)郡となり、漢代は荊州(けいしゅう)に属し、唐代は江南西道、山南東道および黔中道に分属、764年湖南観察使が置かれた。宋(そう)代には荊湖南路、荊湖北路に分かれ、元代に湖北とともに湖広行中書省を形成、明(みん)代も湖広布政使司に属し、清(しん)代以後湖南省となった。

 東は幕阜(ばくふ/ムーフー)山脈と羅霄(らしょう)山脈、南は南嶺(なんれい/ナンリン)諸山地、西は巫山(ふざん/ウーシャン)山脈と貴州(きしゅう/コイチョウ)高原などの山地により三方を取り囲まれ、北に向かって開いている馬蹄(ばてい)形の盆地をなす。省内にも武陵(ぶりょう)山、雪峰(せつほう)山などの山地や広大な丘陵が分布し、その間を湘江、沅江(げんこう/ユワンチヤン)、澧水(れいすい)、資江(しこう)などの諸河が貫流して洞庭湖に流入する。洞庭湖を中心とする沖積平野湖北省の江漢(こうかん)平原と連続し、標高50メートル以下、水路が縦横に走り、無数の湖沼が分布する水郷地帯で、江南デルタとともに中国の穀倉を形成する。洞庭湖はもと中国最大の淡水湖であったが、長江の増水を調節する遊水池とされたため、泥の堆積(たいせき)が甚だしく、北半は陸化した。また湖岸干拓が進んだため現在は鄱陽湖(はようこ/ポーヤンフー)に次ぐ面積となったが、なお中国最大の淡水養殖基地である。

 気候は温暖で、夏には40℃を超すこともあり、年降水量は1300~1700ミリメートル、4月から6月にかけて雨が多い。しかし丘陵地は干魃(かんばつ)の危険も大きかったので、韶山(しょうざん/シャオシャン)、欧陽海(おうようかい/オウヤンハイ)の二つの灌漑(かんがい)区を設け、ダム、水路の大規模な建設が行われた。

 農産物は米が穀物の80%以上を占める。商品作物としては苧麻(ちょま)(全国第2位)、綿花、茶があり、臨湘(りんしょう)の老青茶、安化(あんか/アンホワ)と漢寿(かんじゅ)の黒茶、平江(へいこう)の紅茶が銘柄品である。林産物には椿油(つばきあぶら)、桐油(とうゆ)、スギ材がある。また本省は中国屈指の養豚地域で、淡水魚養殖も洞庭湖で盛んである。地下資源は冷水江(れいすいこう/ロンショイチヤン)市錫(すず)鉱山のアンチモン、常寧(じょうねい)県水口山(すいこうざん/ショイコウシャン)の鉛・亜鉛をはじめ、南嶺一帯にタングステンを産し、石炭も豊富に埋蔵されるが多くはストーン・コール(石煤(せきばい))でカロリーが低い。工業は金属、機械、化学、建築材料、紡織、食品、製紙、陶磁器など多岐にわたるが、とくに長沙、株洲(しゅしゅう/チューチョウ)、衡陽(こうよう/ホンヤン)が重化学工業の中心である。伝統工芸も長沙の湘綉(しょうしゅう)、邵陽(しょうよう/シャオヤン)、桃江(とうこう)の竹細工、醴陵(れいりょう/リーリン)の磁器、瀏陽(りゅうよう)の花火、菊花石細工など各地に発達している。本省は古来南北交通の要(かなめ)であり、湘江上流と珠江(しゅこう/チューチヤン)水系の間には秦代に早くも霊渠(れいきょ)運河がつくられたが、現在も灌漑用に活用されている。鉄道は東部を京広(けいこう)鉄道、西部を枝柳(しりゅう)鉄道が南北に縦貫し、また衡陽で湘桂(しょうけい)鉄道、株洲で浙贛(せっかん)鉄道と湘黔(しょうけん)鉄道が京広鉄道より分岐する。

[河野通博]

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