減速材
げんそくざい
中性子の速度を遅くするために原子炉で使われる物質。ウラン235やプルトニウム239などの核燃料物質の核分裂反応は、そのほとんどが速度の遅い中性子でおこる。原子炉では、核分裂で発生する速度の速い中性子を、減速材の原子核に衝突させて運動エネルギーを失わさせ、速度を熱運動と同程度まで減速させることにより連鎖反応をおこしやすくする。減速材としては、1回の衝突による運動エネルギーの減少を大きくするため、中性子の質量に近い小さな質量数の物質で、中性子の吸収の少ないものがよい。一般に液体では、軽水(普通の水)、重水、固体では黒鉛、ベリリウムなどが使われる。軽水は中性子を減速させる能力がもっとも大きく、冷却材との兼用もできるので多く使われるが、中性子の吸収はやや大きい。重水は減速能力も大きく、中性子の吸収も軽水より小さいので、天然ウラン燃料の炉に利用されることが多い。黒鉛は比較的中性子の吸収が少ない物質で、ガス冷却炉に多く使われる。
[青柳長紀]
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減速材【げんそくざい】
モデレーターとも。低速中性子(熱中性子)を使う原子炉で,ウラン235の核分裂で生じた高速中性子を減速して熱中性子にするため使われる物質。高速中性子と熱中性子の間にウラン238に吸収されやすい速度領域があるので,減速材中で中性子を減速して吸収を避ける。中性子が減速材の原子核に衝突しエネルギーの一部を渡して減速するので,原子量が中性子の質量に近い,なるべく原子番号の低い元素がよい。また中性子を吸収しにくいことが必要。重水が最もすぐれ,黒鉛,酸化ベリリウムがこれに次ぎ,普通の水(軽水)も使われる。
→関連項目軽水炉|重陽子
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減速材
げんそくざい
moderator
核分裂によって生じた中性子で核分裂連鎖反応を起こす際,他の原子核に吸収されやすいよう中性子の速度を遅くするために使われる物質。核分裂で放出される高速中性子は吸収断面積が小さく反応しにくい。このため,他の物質と衝突させて減速させ,より遅く吸収断面積の大きな熱中性子にすることが必要である (→中性子の減速 ) 。原子炉に使うためには中性子の吸収が小さいものが望ましい。水 (軽水) ,重水,黒鉛 (石墨) などが用いられる。軽水は減速能力が高いが中性子吸収が大きいので,濃縮ウランに使う必要がある。重水,黒鉛では天然ウランでも使える。
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減速材
ゲンソクザイ
moderator
熱中性子炉では,燃料物質が核分裂すると高速中性子が飛び出すが,これを減速させて熱中性子にする必要があり,その目的を果たす材料をいう.熱中性子炉ではできるだけ減速能が大きく,中性子吸収の小さい減速材を必要とし,減速作用は軽い核の弾性散乱が利用される.減速材は,通常,燃料物質の近くにあり,重水,黒鉛,ベリリウムが使用され,濃縮ウランを使用する場合には軽水も使用される.重水や軽水は放射線によって分解されるので再結合させる必要がある.[別用語参照]熱中性子化
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げんそく‐ざい【減速材】
〘名〙 原子炉で、核分裂によって放出された高速中性子を熱中性子にまで減速させるための物質。軽水、重水、黒鉛、有機材、酸化ベリリウム、ナトリウムなどを用いる。〔現代の
科学(1957)〕
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デジタル大辞泉
「減速材」の意味・読み・例文・類語
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げんそくざい【減速材 moderator】
減速材は熱中性子による核分裂を利用する原子炉(熱中性子炉)の炉心を構成する主要材料の一つである。核分裂で発生する中性子は平均2MeVのエネルギーをもつ。核分裂性核種の核分裂断面積は,エネルギーが2MeVの中性子に対しては数バーンにすぎないが,1eV以下に減速された中性子に対しては数百バーンに達する。主として1eV以下の中性子によって核分裂を起こさせる原子炉を熱中性子炉という。熱中性子炉では,核分裂によって発生した中性子を炉心に配置した減速材の原子核と何回も衝突させ中性子のエネルギーを低下させる。
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世界大百科事典内の減速材の言及
【原子炉材料】より
…原子炉の炉心で核燃料物質を含み,その核分裂によって熱を発生するのが燃料体であり,この燃料体から熱を受け取り炉心の外へ運び出すのが冷却材である。炉心には核分裂を制御するために中性子吸収能の大きな制御材を挿入し,軽水炉など熱中性子炉では核分裂によりつくられた中性子のエネルギーを下げるために減速材がおかれる。また炉心の周りには発生した中性子をむだに逃がさないように反射体がおかれる。…
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