清水三男(読み)しみずみつお

改訂新版 世界大百科事典 「清水三男」の意味・わかりやすい解説

清水三男 (しみずみつお)
生没年:1909-47(明治42-昭和22)

日本中世史研究者。京都に生まれ,三浦周行,中村直勝に学び,京都大学の史風を身につける。1931年京大卒業後,共産主義運動に入り,38年雑誌《世界文化》に対する弾圧に関連して逮捕され,翌年釈放された。逮捕以前の清水は東寺領・東大寺領荘園を個別的にとりあげ,マルクス主義的視点からその内部構造,諸階層の矛盾を究明することを通して,日本の封建制度の研究を進めていた。その独自な見方は荘園の中の村や座・市への着目にすでに現れていたが,〈転向〉後の清水はそれを全面的に展開,主著《日本中世の村落》を完成した。荘園をマナーと比較する当時の主流的見解を批判,制度としての荘園にとらわれぬ村落生活に農民の真の姿を追究した清水は,民俗学,地理学との協力の必要を強調する一方,荘園よりも国衙領に,在地領主の私的な支配よりも公的機能をもつ守護に注目し,荘園制国制ととらえる観点を確立した。それは1955年以後の戦後歴史学にも強い影響を与えたが,清水の真摯な追究が当時の軍国主義,天皇崇拝の積極的な肯定につながっていった点に大きな問題が残されている。清水自身は敗戦後シベリアに抑留され,そこで死亡した。著作集3巻(校倉書房刊)がある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「清水三男」の意味・わかりやすい解説

清水三男
しみずみつお
(1909―1947)

第二次世界大戦前の日本中世史研究者。京都に生まれる。1931年(昭和6)京都帝国大学文学部卒業。中世史、とりわけ東寺(とうじ)文書を史料とした東寺領の個別荘園(しょうえん)研究に従事する。『日本中世の村落』(1942)、『上代の土地関係』(1943)などの著書で、それまでの中世史研究で荘園が過大視されていることを批判、国衙(こくが)領の相対的重要性を論じるとともに、日本の荘園が西欧のマナーmanorのように独立した経済体をなさず、経済体としての村落が別に存在することを主張、戦後の中世史研究に大きな影響を与えた。38年、京都の「世界文化」グループへの弾圧事件に連座。その後43年に召集を受け、千島で終戦を迎えたが、抑留中の47年(昭和22)シベリアで病死した。

[千々和到]

『『清水三男著作集』全3冊(1974~75・校倉書房)』

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百科事典マイペディア 「清水三男」の意味・わかりやすい解説

清水三男【しみずみつお】

日本中世史研究者。京都生れ。1931年京都帝国大学卒業後,共産主義運動に入り,1938年に逮捕され,翌年釈放。《日本中世の村落》に代表される研究では,荘園制を国制としてとらえる観点を確立するとともに,村落生活に農民の真の姿を追究し,戦後歴史学の先駆的な成果となった。敗戦後,シベリアに抑留され,病死した。《清水三男著作集》全3巻がある。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「清水三男」の解説

清水三男 しみず-みつお

1909-1947 昭和時代前期の日本史学者。
明治42年12月生まれ。和歌山商業でおしえるかたわら,荘園研究をつづける。昭和13年雑誌「世界文化」グループの治安維持法違反事件に連座。のち「日本中世の村落」「上代の土地関係」を発表。18年召集され,千島で終戦をむかえる。シベリア抑留中の昭和22年1月27日病没。39歳。京都出身。京都帝大卒。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「清水三男」の意味・わかりやすい解説

清水三男
しみずみつお

[生]1909. 京都
[没]1947. シベリア
歴史家。京都大学文学部史学科卒業。唯物史観に立ち日本荘園史を研究,かつ中世村落のもつ文化的役割を重視したが,1943年陸軍補充兵として召集され,45年千島列島守備の任についているときソ連に抑留され,37歳で死去したと伝えられる。主著『日本中世の村落』 (1942) 。

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世界大百科事典(旧版)内の清水三男の言及

【荘園】より

…伝領関係とともに荘民の多面的な生活を解明しようとした中村直勝,牧野信之助,荘園を律令制以前の田荘(たどころ)と結びつけ荘園絵図,倉庫,港湾にまで視野をひろげた西岡虎之助は後者に属する。その両者を結びつけたのが清水三男であった。清水は国衙領,守護制度の研究に力を注ぎ,民俗学,地理学などとの協力によって村落生活の実態を追究し,荘園を国制とみる観点を打ち出したが,それが天皇支配の積極的肯定につながっていった点も見のがすわけにはいかない。…

【中世社会】より

…他方,西田直二郎の提唱した文化史学の潮流のなかで,中村直勝は文化・思想・経済の大きな転換期としてこの動乱をとらえ,やや異なった観点に立って先の立場を押し出した。この中村の見方は〈転向〉後の清水三男によって受けつがれ,清水は領主の私的な支配下におかれない百姓とその村落に目を注ぎ,中世社会の公的な側面を明らかにしようと試みたのである。 敗戦後,マルクス主義史家のなかで石母田に対してやや批判的立場に立つ松本新八郎は,平泉らとまったく逆の立場から南北朝の動乱を古代と中世とを分かつ画期ととらえ,永原もその見方の影響をうけている。…

※「清水三男」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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