化学辞典 第2版 「混成軌道(関数)」の解説
混成軌道(関数)
コンセイキドウカンスウ
hybridized orbital
原子の原子価状態にある電子軌道関数を,原子に固有な原子軌道関数の一次結合で表したもの.この場合,原子軌道関数の一次結合によって,混成軌道関数を表す操作を混成とよぶ.メタンの炭素原子は,それを中心とする正四面体の各頂点に向かう四つの等価な電子軌道をもち,エテンでは各炭素原子に三つの等価な電子軌道があって平面内で互いに120°の角度をなし,また,アセチレンの各炭素原子は180°の方向を向く等価な二つの電子軌道をもっている.これらの電子軌道は,炭素原子に固有な2sおよび2p原子軌道の混成によって形成される.2s軌道関数を φs,三つの2p軌道関数を φpx,φpy,φpz とすれば,メタンの炭素原子の原子価状態にある四つの電子軌道は上の一次結合によって次のように表される.
ψ1 = (1/2)(φs + φpx + φpy + φpz)
ψ2 = (1/2)(φs + φpx - φpy - φpz)
ψ3 = (1/2)(φs - φpx + φpy - φpz)
ψ4 = (1/2)(φs - φpx - φpy + φpz)
ψ1,ψ2,ψ3,ψ4 を混成軌道とよぶ.これら四つの軌道は,1個のs軌道と3個のp軌道からつくられていることから sp3 混成とよび,または前記のように正四面体に関係があるから正四面体混成ともよぶ.同様な操作で1個のs軌道と2個のp軌道から三つの等価な sp2 混成軌道がつくられる.この混成は三方混成ともよばれる.1個のs軌道と1個のp軌道からは等価な二つのsp混成軌道ができるが,この混成は二方混成ともよばれる.このほかに,d軌道の参加する混成も考えられ,正八面体の中心から各頂点に向かう六つの等価な混成軌道関数を表すd2 sp3混成などが知られている.これについてはSF6分子の硫黄原子に認められ,そのほか多くの金属錯塩についても知られている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報