精選版 日本国語大辞典 「涼」の意味・読み・例文・類語
すずし・い【涼】
〘形口〙 すず
し 〘形シク〙

① 暑苦しくなくて気持がよい。ほどよく冷ややかである。《季・夏》
※万葉(8C後)二〇・四三〇六「初秋風須受之伎(スズシキ)夕(ゆふべ)解かむとそ紐は結びし妹に逢はむため」
※新古今(1205)夏・二六四「おのづから涼しくもあるか夏衣日も夕暮の雨のなごりに〈藤原清輔〉」
② つめたい。また、寒い。
※書紀(720)雄略即位前(前田本訓)「孟冬(かむなつき)の作陰(ススシキ)之月(つき)」
※龍光院本妙法蓮華経平安後期点(1050頃)二「冷(ススシき)水を以て、面に灑(そそ)きて」
③ 物のさまがすっきりとしていて、さわやかである。いかにもすがすがしく感じられる。見た目にあざやかである。
※源氏(1001‐14頃)常夏「秋の夜の月影すずしき程」
※義血侠血(1894)〈泉鏡花〉一「色白く、鼻筋通り〈略〉見るだに涼(スズシ)き美人なり」
④ ことばや動作がはっきりしていてすがすがしい。
※日蓮遺文‐上野殿後家尼御前御書(1280)「みめかたちも人にすぐれ、心もかいがいしくみへしかば、よその人々もすずしくこそみ候しに」
※浄瑠璃・出世景清(1685)三「ゆくゑにおいては存ぜぬとことばすずしく申さるる」
⑤ 心がさわやかである。心中にわだかまるところがなく快い。わずらいがない。
※拾遺(1005‐07頃か)哀傷・一三三六「さざ波や志賀の浦風いか許(ばかり)心の内の涼かるらん〈藤原公任〉」
※源氏(1001‐14頃)明石「思ふ事かつがつかなひぬる心地してすすしう思ひ居たるに」
⑥ 目もとがはっきりしている。目にけがれがない。
※京大二十冊本毛詩抄(1535頃)四「清は目のすすしい本揚はまゆのあがった体ぞ」
⑦ いさぎよい。
※太平記(14C後)二五「事の賾(おぎろ)、実(まこと)に思切たる体(てい)哉と、先づ、涼(スズ)しくぞ見えたりける」
⑧ 潔白である。無実である。
※浄瑠璃・淀鯉出世滝徳(1709頃)上「おそらくすずしいこの新七に、ない難(なん)つけてひま出させ」
⑨ 厳然としている。いかめしい。
※海道記(1223頃)鎌倉遊覧「魯般、意匠を窮めて成風天の望に冷(すずし)く、毗首(びしゅ)、手功を尽せり」
⑩ つめたくさめている。興のないさま。
※万葉(8C後)三・三四七「世のなかの遊びの道に冷(すずしき)は酔泣(ゑひなき)するにあるべかるらし」
[語誌]上代では「秋の風」に対して用いられ、中古では、多くの場合、暑さが去った後の快い低温を表わす。中古・中世を通じて、感覚主の状態だけでなく、対象の状態を表現して、②に挙げた訓点資料例にある「すずしき水」のように用いられることもあった。しかし、こういった対象の状態を表わす用法は、漢文訓読体や、漢文調の強い文章に偏って見られる傾向があり、おそらく「涼」の字義に引きずられた特別な用法で、和語としての「すずし」には、対象の状態を表わす用法は本来無かった可能性が高い。
すずし‐げ
〘形動〙
すずし‐さ
〘名〙
すずみ【涼】
〘名〙 (動詞「すずむ(涼)」の連用形の名詞化)
① 涼むこと。涼しい空気にあたって暑さを忘れること。納涼。《季・夏》
※宇津保(970‐999頃)祭の使「あつき日ざかりには人々すずみなどし給ふに」
※俳諧・続猿蓑(1698)夏「立ありく人にまぎれてすずみかな〈去来〉」
② 涼しい環境にひたるために出かけること。避暑。
※俳諧・五車反古(1783)夏「弟子僧と寺住かへて避暑(すずみ)哉〈維駒〉」
③ 京都市下京区高倉通仏光寺上ルにあった当道職屋敷清聚庵(せいじゅあん)に、六月一九日、盲人が会して行なった法会。その儀は二月一六日の積塔会(しゃくとうえ)に同じく、般若心経を読誦し、酒を酌み、巧みな者を選んで平曲を語らせ、夜ふけて四条川原に出て石を積んで塔を造り、これを拝する。六月二〇日は雨夜皇子(あまよのみこ)の母后の命日に当たり、その追善のために行なうという。座頭の涼み。涼みの会。涼みの塔。
※教言卿記‐応永一二年(1405)六月一九日「座頭・撿校等すすみと号会合〈八十一人〉」
※俳諧・鷹筑波(1638)五「撿校(けんぎょう)のすずみにくむや一夜酒〈永良〉」
④ 近世、六月七日より一八日までの間、毎夜京都四条川原に茶店が出て、河中に床を設け、足をひたして涼をとったこと。茶店の提灯が並び、音曲・曲芸・物真似・猿芝居・軽口咄(かるくちばなし)なども人を集め、色町の女たちを交えて歌舞遊宴が行なわれた。天候によって日延べの行なわれることもあった。涼み川。川原の涼み。川原涼み。四条涼み。四条川原の涼み。
※日次紀事(1685)六月七日「四条河原水陸不レ漏二寸地一並レ床設レ席而良賤般楽東西茶店張二挑燈一設二行燈一恰如二白昼一是謂レ凉」
すずし【涼】
「宇津保物語」に登場する男性。源氏。紀伊の国の長者神南備の種松の娘と、時の帝との子。琴をはじめ、才芸が豊かで藤原仲忠と優劣をつけがたい。吹上行幸のときは、琴の賞に貴宮(あてみや)を賜わる話が出るほどであった。貴宮をめぐる求婚争いに加わるが、貴宮入内のため、さまこそ君と結婚。中納言に至る。涼と仲忠の優劣論は王朝貴族女性の好個の話題であった。
※枕(10C終)八三「すずし・なかただなどがこと、御前にも、おとりまさりたるほどなど仰せられける」
すず・む【涼】
〘自マ五(四)〙
① 暑さを避けて、清涼な空気にあたる。涼しい風にあたって、暑さをしのぐ。《季・夏》
※書紀(720)仁徳三八年七月(寛文版訓)「高台(との)に居(ま)して避暑(ススミ)たまふ」
※俳諧・曠野(1689)六「涼めとて切ぬきにけり北のまど〈野水〉」
② 目立たぬ所で冷遇されて過ごす。
※玉塵抄(1563)一「王位からも引もだされずして時世にあわいですずんですぐるぞ」
りょう リャウ【涼】
[1] 涼しいこと。涼しさ。涼しい風。《季・夏》
※海道記(1223頃)序「手の中に扇あれば涼を招くに最やすし」 〔傅咸‐神泉賦〕
すず
し【涼】
〘形シク〙 ⇒すずしい(涼)
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