消化薬(読み)ショウカヤク(英語表記)digestant

デジタル大辞泉 「消化薬」の意味・読み・例文・類語

しょうか‐やく〔セウクワ‐〕【消化薬】

食物の消化を助ける薬。消化酵素に、胃酸分泌を促進する苦味剤、あるいは胃酸を中和する制酸薬を併用する。
[類語]胃薬健胃剤健胃薬胃散

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改訂新版 世界大百科事典 「消化薬」の意味・わかりやすい解説

消化薬 (しょうかやく)
digestant

過食,食欲不振,消化不良などの状態において,食物の消化を助け食欲を亢進させる薬物。胃腸の運動を亢進させ,胃液,膵液など消化液の分泌を高める薬物と,消化液の分泌不足を補う消化酵素剤があり,両者を合わせて健胃消化薬と呼ぶこともある。消化薬の中心となるのは消化酵素剤で,それに加えて酸剤,胃液分泌刺激薬,苦味薬,芳香薬などが併用される。

 動物のエネルギー源は,炭水化物,脂肪,タンパク質の三大栄養素であり,これらは食物として摂取される段階では高分子であり,そのままの形で体内に吸収することはできない。吸収は,これら高分子化合物が消化酵素により低分子に分解されてはじめて可能となる。デンプンなどの炭水化物はブドウ糖などの単糖類になり,タンパク質はアミノ酸,脂肪は脂肪酸とモノグリセリドの形で吸収される。この分解過程を触媒する消化酵素はアミラーゼプロテアーゼタンパク質分解酵素),リパーゼに三大別され,それぞれ,炭水化物,タンパク質,脂肪を分解する酵素の総称である。健康人では通常,消化酵素が不足することはないといわれるが,過食時や病態における衰弱者,老齢者では消化障害が起こりやすいので,消化酵素剤の補給は有用である。

現在多数の製品が市販されているが,これらは次のように大別することができる。(1)動物性消化酵素 ペプシンパンクレアチンなど,(2)植物性消化酵素 ジアスターゼ,パパインなど,(3)微生物性消化酵素 タカヂアスターゼ(商品名),サナクターゼなど,(4)配合消化酵素剤 各種のタンパク質分解酵素,炭水化物分解酵素,脂肪分解酵素の組合せ,ならびに健胃薬や胆汁酸を配合した製剤。

 (1)動物性消化酵素のペプシンは,胃に存在するプロテアーゼで,消化薬としてはウシまたはブタの胃粘膜から抽出したペプシンに乳糖を混合した含糖ペプシンが用いられる。タンパク質をポリペプチドにまで分解する。胃内の強酸性で作用する酵素で,その至適pHは約2である。通常希塩酸を併用し,食前に服用する。同じく動物性消化酵素のパンクレアチンは主としてブタの膵臓から抽出され,アミラーゼ,プロテアーゼ,リパーゼを含むので,炭水化物,タンパク質,脂肪のいずれもの消化を促進する。本品は中性から弱アルカリ性で活性を示し,酸性では失活する。胃内での失活を防止するため,腸溶製剤またはアルカリ剤の併用が必要である。(2)植物性消化酵素のジアスターゼはおもに麦芽を原料とする消化酵素である。ジアスターゼという名称はデンプンを加水分解する酵素の総称として用いられている。デンプンを麦芽糖にまで分解する。至適pHは5付近で,胃酸により失活するので,アルカリ剤と併用することが多い。パパイアの果実に含まれるパパインはタンパク質分解酵素である。(3)微生物由来の消化酵素は,薬物としての消化酵素の最も多彩な種類の提供源となっている。とくにアスペルギルス属Aspergillusから抽出された消化酵素は種類が多く,アミラーゼ,プロテアーゼ,リパーゼの作用を併せもつものもある。しかもタンパク質消化の至適pHが酸性領域にあるものが多く,耐酸性の消化酵素として実用価値が高い。タカヂアスターゼ,ベルナーゼ(以上,商品名),サナクターゼなど多数がこれに属する。(4)配合消化酵素剤は,上記のような各特性をもった酵素を組み合わせて,長い消化過程で,できるだけ多くの種類の食物を長時間にわたって能率よく消化できるようにくふうされた製剤で,いろいろのものが作られている。植物の細胞膜や繊維成分まで消化できるようにセルロースを消化するセルラーゼを配合した製剤,リパーゼの作用を促進する胆汁酸を配合した製剤,また,アルカリ剤を配合しても保存中に酵素が変質しないようにくふうされた多重錠剤など,製剤上のくふうも種々こらされている。
胃腸薬
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「消化薬」の意味・わかりやすい解説

消化薬
しょうかやく

胃腸の消化機能を高め飲食物の消化を助ける薬剤で、胃腸障害、消化不良、食欲不振に用いられる。消化酵素製剤を主とするが、消化液の分泌を促進する胃腸機能賦活(ふかつ)剤もある。

 消化酵素として医薬用に使用される酵素は、デンプン分解酵素(アミラーゼ)、タンパク分解酵素(プロテアーゼ)、脂肪分解酵素(リパーゼ)、繊維素分解酵素(セルラーゼ)である。その起源は、ジアスターゼ、パパインに代表される植物性のもの、パンクレアチンやペプシンに代表される動物性のもの、タカジアスターゼやビオジアスターゼに代表される微生物性の3種に大別される。

 酵素には至適pHがある。たとえば、ジアスターゼは6.2であるが、胃液のpHは1.0と強酸性であり、ジアスターゼは胃液内では不活性であるため、制酸剤の併用を必要とする。このため耐酸性の酵素製剤が微生物を起源として開発された。サナクターゼ(至適pH約4.3)がその最初のものである。一方、膵臓(すいぞう)酵素であるパンクレアチンは、至適pH6.8~8.5とアルカリ側にある。酸性の胃で働く酵素と、アルカリ性の腸で作用する酵素をいっしょに服用することの不合理を改善するため、アルカリ性で作用する酵素に腸溶皮膜を施し、胃と腸の両方で作用するようにした製剤が開発された。これが総合消化酵素製剤とよばれるもので、消化薬の主流を占めるようになった。カプセル、錠剤および顆粒(かりゅう)剤が市販されている。市販の消化酵素製剤は、ペプシンとパンクレアチン、ジアスターゼを除き、微生物由来のものである。総合消化酵素製剤には「コンビチーム」「フェスタール」「ベリチーム」「タフマックE」「エーザイム」「ポリトーゼ」などがある。

[幸保文治]

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百科事典マイペディア 「消化薬」の意味・わかりやすい解説

消化薬【しょうかやく】

食物の消化を促進し食欲を亢進させる薬剤。消化酵素薬や,内服により反射的に消化液分泌を促す健胃薬がある。酵素製剤にはジアスターゼ(炭水化物消化),含糖ペプシン(タンパク質分解),リパーゼ(脂肪分解),その他パンクレアチンなどがあり,また胃内異常発酵抑制,唾液(だえき)の分泌促進などの作用をもつ酸剤として,塩酸リモナーデ,乳酸などがある。

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