海運政策(読み)かいうんせいさく

改訂新版 世界大百科事典 「海運政策」の意味・わかりやすい解説

海運政策 (かいうんせいさく)

海運業というひとつの産業の成果の最適水準を達成するために,国家が自国海運業に対して行う施策をいい,その具体的内容は,国内立法に体現される。海運政策は海運市場経済に対するいわば国家の干渉介入)であるが,この干渉のしかたには財政的に支援をする直接間接の補助と,このような財政的支援をともなわない規制との二通りがある。補助は,自国海運の育成,拡大または維持を目標として行われるあらゆる財政的支援措置を指し,建造補助,運航補助,航路補助,公的または政府保証による融資(利子補給を含む),老朽船の政府買取りなどの直接補助と,税制優遇措置,各種料金や手数料の免除または軽減などの間接補助とから成る。一方,規制の内容は,たとえば国内船主の外国用船や便宜置籍を容易にする政策的措置,船舶取得や代替船建造を容易にする諸種の奨励策,あるいは外国船員配乗規制の緩和などの促進的なものと,沿岸航路の自国船留保,自国貨自国船主義に基づく国旗差別海運同盟活動に対する規制,あるいは海外売船,便宜置籍,外国用船の禁止などの阻止的なものとの,二通りに分けられる。また,この規制には,たとえば海上安全や環境保護などの政策目的から導入される入港船舶の設計基準や航行制限あるいは乗組員に関する規制,さらに海運同盟規制に見られるように,内外の船舶に対して無差別に行うものと,国旗差別政策のように外国船のみを意図的に差別するものとの,二通りの形態がある。後者の差別規制は,自国海運の保護育成を目標としているので,補助と同じ性格のものであり,いわゆる助成概念に含まれる。

 古今を通じて,多くの海運国が自国海運業を直接間接に助成してきた。しかし,海運業の国民経済的貢献が大きいとしても,特定の産業部門や企業集団に対する国家補助は,国民一般の負担において行われるのであり,また国旗差別規制は外国船社や内外の荷主不利益を及ぼすので,助成の導入とその程度は国民一般を納得させるだけのいわゆる国家的合理性をもたなければならない。海運助成は,国民経済的またはその他社会的利益を維持・向上させる上で,一定の海運力の保有が不可欠であると国家的に判断される場合にのみ,導入されるのである。たとえば,国際競争力の減退によって引き起こされる自国商船隊の縮小または伸び悩みによる国際収支の悪化,輸出貿易上の不利,または輸入資源の安定輸送に対する不安などの国民経済的不利益が,あるいは競争力喪失船の海外売却と代替船建造意欲の減退による船員の大量失業といった社会的矛盾が,国家的見地からがまんできない状態にまで高まったときに,はじめて国家がこの不利益や矛盾の克服をめざして助成策を導入するのである。

 いかなる政策内容であろうと,その実施は自国海運業に変化をもたらし,外国海運にもなんらかの影響を及ぼす。たとえ政策の働きかける領域が一国内に限定されているとしても,助成はその成果として当該国海運に船腹の拡大,国際競争力の強化,あるいは積取比率の向上などをもたらし,この結果として外国海運にマーケット・シェアの縮小あるいは相対的競争力の劣勢などの波及効果をもたらす。まして政策の働きかける領域が海外にまで及ぶ場合,それらのほとんどは利害関係において外国と直接対立する。たとえば,国旗差別措置による外国船に対する貨物積取規制などは,外国船の積取比率を低下させて収益活動に圧迫を加えるばかりでなく,外国荷主の利用船舶の選択の自由をも奪う。また,海運同盟活動に対する一国政府の規制は,往々にして外国船主の意図する能率的な運航活動を妨げる。さらに,入港船舶に対する諸種の制限なども,外国船主の利害に直接影響をもたらす。諸外国に直接犠牲や損失を強いるこうした政策措置は,当然,海外に強い反発を生起させ,ときとして外国に対抗的な政策を呼び起こす。発展途上国の国旗差別政策を主因とするかつての海運における南北問題や,定期航路におけるソ連船の大幅な運賃切下げを武器とする盟外運航政策を原因とする東西問題などは,こうした海運政策の本来的な対立性なり相克を表す典型的事例といえる。多くの先進海運国は,これら両問題に対処する策として対抗立法を制定している。
海運業
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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