日本大百科全書(ニッポニカ) 「浮標(三好十郎の戯曲)」の意味・わかりやすい解説
浮標(三好十郎の戯曲)
ぶい
三好十郎(みよしじゅうろう)の戯曲。五幕。1940年(昭和15)『文学界』6~8月号に連載、同年桜井書店刊。同年3月、八田元夫(はったもとお)演出、丸山定夫・日高ゆりえ主演により新築地(つきじ)劇団が初演。戦争が拡大する時期、転向した画家久我(くが)五郎は貧乏と闘い、画業を捨てて、肺を病む妻美緒(みお)を看護する。美緒の母親などの利己的な言行に打ちのめされるが、周辺の人々の好意にも支えられ、ついに絵筆をとり始める。しかし、美緒の病は急変し、五郎が朗読する『万葉集』の歌を聞きながら息を引き取る。33年に病死した作者の妻操(みさお)との体験を踏まえて発表されたもので、作者自身「イッヒドラマ(私戯曲)」というが、絶望に直面した人間の救済を見つめた力作である。
[祖父江昭二]
『『三好十郎の仕事2』(1968・学芸書林)』