浮出(読み)うかびでる

精選版 日本国語大辞典 「浮出」の意味・読み・例文・類語

うかび‐・でる【浮出】

〘自ダ下一〙
① 水面に現われ出る。また、ものの表面に現われる。
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「微笑が口頭(くちもと)に浮び出て」
② 下地や背景から区別されてはっきり見える。
※二老人(1908)〈国木田独歩〉上「消えゆく煙の末に浮び出た洋服姿の年若い紳士を見て」
意識に現われる。思いだす。
※狂歌・大団(1703)一「はたらきし狂歌の趣向ありそ海のおきつしほあいにうかび出(デ)て候」
春潮(1903)〈田山花袋〉二「凜(りん)とした眉などがさながら眼に見ゆるやうに浮び出て」

うかび‐い・ず ‥いづ【浮出】

〘自ダ下二〙
※古今(905‐914)物名・四三一「み吉野の吉野の滝にうかびいづる泡をか玉の消ゆと見つらん〈紀友則〉」
舞姫(1890)〈森鴎外〉「半天に浮び出でたる凱旋塔の神女の像」
※「遊蕩文学」の撲滅(1916)〈赤木桁平〉四「この疑問とともに、直(ただち)に予の脳裏に浮かび出づるものは」

うかれ‐い・ず ‥いづ【浮出】

〘自ダ下二〙
一定場所に落ち着かず、ふらふらと離れる。どこというあてもなしに家を出る。
山家集(12C後)中「うかれいづる心は身にも叶はねば如何(いか)なりとても如何にかはせん」
② おもしろさなどで、心が浮き立ってくる。浮き浮きする。浮かれだす。
※浮世続絵尽(1682)「見るより心もうかれ出、むなさはがしくときめきて」
③ 浮き浮きして出かける。浮かれ出る。
※読本・雨月物語(1776)蛇性の婬「心のいそがしきに朝食も打ち忘れてうかれ出ぬ」

うき‐い・ず ‥いづ【浮出】

〘自ダ下二〙
万葉(8C後)一六・三八七八「梯立(はしたて)の 熊来(くまき)のやらに 新羅斧(しらきをの) 落し入れ わし あけてあけて な泣かしそね 浮出流(うきいづル)やと 見む わし」
※文づかひ(1891)〈森鴎外〉「あつめたまひぬる国々のおほ花瓶〈略〉蔭になりたる壁より浮きいでて美はし」

うかみ‐い・ず ‥いづ【浮出】

〘自ダ下二〙
※聞書集(12C後)「うけがたき人のすがたにうかみいでてこりずやたれも又しづむべき」
※浄瑠璃・平家女護島(1719)四「なんなく千鳥法皇を肩に引かけうかみ出れば」
② 良い状態になる。また、解脱する。成仏する。
※重家集(1178)「うかみいでしかひこそなけれあまをぶね猶このきしをこぎもはなれで」

うき‐だ・す【浮出】

〘自サ五(四)〙
① 表面に浮いて出る。意識に表われる。
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉九「吸ひ取られた鼻の膏(あぶら)が丸るく紙の上へ浮き出した」
文字模様、形などが、下地や背景から区別されてはっきり見えるようになる。
虞美人草(1907)〈夏目漱石〉一「無辺際に浮き出す薄き雲の翛然(いうぜん)と消えて入る大いなる天上界

うき‐だし【浮出】

〘名〙
① 表面に浮いて現われること。浮き出すこと。
③ 装束類の浮線綾(ふせんりょう)のこと。のちには浮き出し織りをいう。
※虞美人草(1907)〈夏目漱石〉一五「窓掛海老茶の毛織(けおり)に浮出(うきだ)しの花模様」

うき‐・でる【浮出】

〘自ダ下一〙
① 表面に現われる。浮かび出る。
※森の絵(1907)〈寺田寅彦〉「粗末な額縁の中にはあらゆる幼時の美しい幻が畳み込まれて居て、折にふれては画面に浮出る」
② 文字、模様、形などが、下地や背景から区別されてはっきり見える。
※春潮(1903)〈田山花袋〉四「奇巖の屹(きっ)と亮(あきら)かなる空気の中に黒く浮き出て居る向ふに」

うかれ‐だ・す【浮出】

〘自サ五(四)〙
① 心が浮き浮きと調子づきはじめる。
※西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉九「ビイルのきげんにうかれだし」
② 女遊びを始める。
※真景累ケ淵(1869頃)〈三遊亭円朝〉五四「今迄堅い人が急に浮れ出すと是は又格別でございまして」

うかれ‐・でる【浮出】

〘自ダ下一〙 うかれ・づ 〘自ダ下二〙 どこというあてもなしに家を出る。また、浮き立った気持で外へ出る。
※班子女王歌合(893頃)六〇「うらみつつ留むる人のなければや山時鳥うかれでてなく」
※俳諧・桃青三百韻附両吟二百韻(1678)「唐人も夕の月にうかれ出て〈芭蕉〉 古文真宝気のつまる秋〈信章〉」

うかみ‐・でる【浮出】

〘自ダ下一〙 =うかびでる(浮出)
※俳諧・武玉川(1750‐76)五「うかみ出る時乗物の酔」
※咄本・蝶夫婦(1777)泥亀の立腹「池よりすつほんうかみ出て」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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