浮世柄比翼稲妻(読み)うきよがらひよくのいなずま

日本大百科全書(ニッポニカ) 「浮世柄比翼稲妻」の意味・わかりやすい解説

浮世柄比翼稲妻
うきよがらひよくのいなずま

歌舞伎(かぶき)脚本。時代世話物。9幕。4世鶴屋南北作。「うきよづか~」とも読む。通称鞘当(さやあて)」「稲妻草紙」「稲妻表紙」。1823年(文政6)3月江戸市村座で、7世市川団十郎、3世尾上(おのえ)菊五郎、5世岩井半四郎、5世瀬川菊之(きくのじょう)らにより初演。山東京伝(さんとうきょうでん)作の読本(よみほん)『昔話(むかしばなし)稲妻表紙』から不破伴左衛門(ふわばんざえもん)、名古屋山三(なごやさんざ)の物語に、白井権八(しらいごんぱち)と三浦屋小紫(こむらさき)、幡随院(ばんずいいん)長兵衛を絡ませて脚色。複雑な構成だが、なかでも、傾城葛城(けいせいかつらぎ)をめぐって争う伴左衛門と山三が吉原仲の町で刀の鞘を当てたことから切り合いになる「鞘当」と、お尋ね者の権八が江戸へきて長兵衛と出会う「鈴ヶ森(すずがもり)」は、ともに古くからの趣向を現在の形に完成させたもので、いずれも演出が洗練され、歌舞伎の代表的名場面になっている。

 また「鞘当」の前幕の「山三浪宅」は、痣娘(あざむすめ)お国の山三に寄せる悲恋を描いた場面で、むさ苦しい浪宅へ葛城の豪華な道中姿(お国と同じ俳優が早替りで演じる)を見せるという南北らしい奇抜な描写がおもしろく、ほかに伴左衛門と葛城が兄妹で畜生道に陥る話や、権八と小紫が敵(かたき)同士と知らずに契る話なども織り込まれている。 
[松井俊諭]

『『鶴屋南北全集9』(1974・三一書房)』

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精選版 日本国語大辞典 「浮世柄比翼稲妻」の意味・読み・例文・類語

うきよづかひよくのいなずま うきよづかヒヨクのいなづま【浮世柄比翼稲妻】

歌舞伎。時代世話物。九幕。四世鶴屋南北作。文政六年(一八二三)江戸市村座初演。名古屋山三がのかたき不破伴左衛門を討つと、白井権八が鈴ケ森幡随院長兵衛に出会い、江戸で小紫になじむ筋とを仕組む。前者の「鞘当(さやあて)」、後者の「鈴ケ森」が独立して演じられる。

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デジタル大辞泉 「浮世柄比翼稲妻」の意味・読み・例文・類語

うきよづかひよくのいなずま〔うきよづかヒヨクのいなづま〕【浮世柄比翼稲妻】

歌舞伎狂言時代世話物。9幕。4世鶴屋南北作。文政6年(1823)江戸市村座初演。現在では、一部が「鈴ヶ森」「鞘当さやあて」として独立上演される。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「浮世柄比翼稲妻」の解説

浮世柄比翼稲妻
うきよずか ひよくのいなずま, うきよがら ひよくのいなずま

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
作者
鶴屋南北(4代) ほか
初演
文政6.3(江戸・市村座)

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世界大百科事典 第2版 「浮世柄比翼稲妻」の意味・わかりやすい解説

うきよづかひよくのいなずま【浮世柄比翼稲妻】

歌舞伎狂言。別訓〈うきよがら〉。時代世話物。9幕19場(うち最後の1幕5場は未上演)。4世鶴屋南北作。1823年(文政6)3月江戸市村座初演。世界は〈不破名古屋〉で,〈権八小紫〉と〈幡随院長兵衛〉をからめる。直接の材料が山東京伝の読本(よみほん)《昔話稲妻表紙》なので通称《稲妻表紙》または《稲妻草紙》。名古屋三左衛門と白井兵左衛門を殺した不破伴左衛門(7世市川団十郎)は三左衛門の子山三(3世尾上菊五郎)と相愛の腰元岩橋(5世瀬川菊之丞)に恋慕して失敗し,山三もろとも浪人する。

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世界大百科事典内の浮世柄比翼稲妻の言及

【権八小紫物】より

…その最初は1779年(安永8)5月江戸森田座の《江戸名所緑曾我(えどめいしよみどりそが)》で,7月江戸肥前座には人形浄瑠璃の《驪山比翼塚(めぐろひよくづか)》が登場した。その後初世並木五瓶作《思花街容性(おもわくくるわかたぎ)》,初世桜田治助作《契情吾妻鑑(けいせいあづまかがみ)》,4世鶴屋南北作《霊験曾我籬(れいげんそがのかみがき)》,福森久助作《比翼蝶春曾我菊(ひよくのちようはるのそがぎく)》(作中の清元《其小唄夢廓(そのこうたゆめもよしわら)》は今も流行)などを経て,1823年(文政6)3月江戸市村座の南北作《浮世柄比翼稲妻(うきよづかひよくのいなずま)》が決定版。通し上演のほか,〈鈴ヶ森の場〉は通称《鈴ヶ森》として上演される。…

【鶴屋南北】より

…幕府当局からの狂言差止めは1812年(文化9)1月市村座《色一座梅椿(いろいちざうめとしらたま)》でも惹起し,その年中不当りが続いたが,翌13年3月森田座での《お染久松色読販(うきなのよみうり)》(半四郎のお染の七役)は大当りを占めた。 後期の代表作には,半四郎の〈女清玄〉の《隅田川花御所染(すみだがわはなのごしよぞめ)》(1814年3月市村座),お六・八ッ橋(二役,半四郎)と願哲(幸四郎)の《杜若艶色紫(かきつばたいろもえどぞめ)》(1815年5月河原崎座),公卿の息女が宿場女郎に転落した巷説を舞台化した《桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしよう)》(1817年3月河原崎座),俳優の日常生活を舞台化した〈世話の暫〉の《四天王産湯玉川(してんのううぶゆのたまがわ)》(1818年11月玉川座),菊五郎,幸四郎の亀山の仇討《霊験亀山鉾(れいげんかめやまぼこ)》(1822年8月河原崎座),菊五郎,半四郎,団十郎の不破名古屋と権八小紫の《浮世柄比翼稲妻(うきよづかひよくのいなずま)》(1823年3月市村座),清元《累(かさね)》を含む《法懸松成田利剣(けさかけまつなりたのりけん)》(1823年6月森田座),その最高傑作である《東海道四谷怪談》(1825年7月中村座),深川五人斬事件を劇化した《盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)》(1825年9月中村座),また番付にみずから一世一代と銘うった最後の作《金幣猿嶋郡(きんのざいさるしまだいり)》(1829年11月中村座)などがある。その年11月27日没し,葬礼に際しては《寂光門松後万歳(しでのかどまつごまんざい)》と題する正本仕立ての摺物を配らせ,自分の手で死を茶化した。…

※「浮世柄比翼稲妻」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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