洪範(読み)コウハン

デジタル大辞泉 「洪範」の意味・読み・例文・類語

こう‐はん【洪範/×鴻範】

手本となるような大法模範
(洪範)「書経」の周書の編名。天下を治める大法を伝説上の夏の王の名に託して述べたもの。戦国時代儒教立場からまとめられた政治哲学の書と考えられている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「洪範」の意味・わかりやすい解説

洪範
こうはん

儒家経典である五経の一つである『書経』(尚書(しょうしょ)ともいう)のなかの一篇(ぺん)。儒家の世界観に基づく政治哲学の書で、「鴻範(こうはん)」とも書く。洪は大、範は法という意味で、伝説では、夏(か)国の禹(う)が洛水(らくすい)から出てきた神亀(じんき)にあった図によって、九類の政治の大法としたという。洪範九疇(きゅうちゅう)といわれるのがそれで、五行(ごぎょう)、五事、八政、五紀、皇極(こうぎょく)、三徳稽疑(けいぎ)、庶徴(しょちょう)、五福六極の九つからなっている。すべて政治の要道を項目をたてて説いたものである。なかにおいて五行は、水、火、木、金、土に順序してその特質を述べている。中国思想のものの考え方の根幹となる五行思想はここに始まるとして、洪範の源流春秋時代、あるいはそれ以前に置く説もあるが、一般的には戦国時代の鄒衍(すうえん)の五行説に影響を受けた思想家が、武王と箕子(きし)に仮託してつくったものとされている。『漢書(かんじょ)』の「五行志」は、この洪範の五行説によって災異説をまとめている。洪範をいつごろのものとみるかによって、『書経』の成立問題は大きく左右される。

[安居香山]

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普及版 字通 「洪範」の読み・字形・画数・意味

【洪範】こうはん

大法。〔書、洪範〕我聞く、在昔、鯀(こん)洪水を(ふさ)ぎ、其の五行を陳(こつちん)す(乱す)。乃ち震怒し、洪範九疇(きうちう)を(あた)へず、彝倫攸(もつ)て(やぶ)る。

字通「洪」の項目を見る

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改訂新版 世界大百科事典 「洪範」の意味・わかりやすい解説

洪範 (こうはん)
Hóng fàn

中国,《書経》の一編。洪は大,範は規範の意。天下を治める大法を述べた書。その大法は五行,五事,八政,五紀,皇極,三徳,稽疑,庶徴,五福・六極で,洪範九疇と称される。伝承によれば,殷の箕子(きし)が作って周の武王に授けたというが,戦国時代の人の仮託であろう。漢代には《易》と《春秋》とともに天人相関説の根拠づけに用いられ,宋代には哲学の体系化に寄与した。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「洪範」の意味・わかりやすい解説

洪範
こうはん
Hong-fan

書経』の一編。大法則の意。周の武王が革命に成功したとき,禹 (う) が整理した上帝の啓示を,殷の箕子 (きし) が武王に授けたとされる。実際は戦国時代の作。五行思想をもとに,政治,道徳の九疇 (九大法則) を示している。漢代には,この思想をかえって災異説に結びつけるものが多かった。

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