注意欠陥・多動性障害(読み)ちゅういけっかんたどうせいしょうがい(英語表記)Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder

家庭医学館 「注意欠陥・多動性障害」の解説

ちゅういけっかんたどうせいしょうがい【注意欠陥・多動性障害 Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder】

[どんな病気か]
 微細脳機能障害(びさいのうきのうしょうがい)(MBD)、多動症候群(たどうしょうこうぐん)などと呼ばれた、7歳未満の幼児期に始まり、「不注意」「多動性」「衝動性」をおもな症状とする障害です。
[症状]
「不注意」における症状では、勉強、仕事、その他の活動において、綿密に注意することができず、注意を持続することが困難です。また、必要な物をしばしばなくしたり、話しかけられても聞いていないなど、不注意な態度が目立ちます。課題や活動を順序だてて考えることができません。精神的努力の持続を要する課題を、避けたり、いやいや行なったりします。
「多動性」では手足をしじゅうそわそわと動かし、じっと座っていられません。不適切な状況で走り回ったり、高いところへ登ったりします。また、しばしばしゃべり過ぎます。
「衝動性」では、質問が終わる前にだしぬけに答えたり、順番を待てなかったりします。また、他人の会話や遊びを妨害し、じゃまします。
 こうした症状に加え、細かな作業に対する「不器用さ」や「学習障害コラム学習障害」)」などが合併しやすいといわれています。こうした子どもは、幼少時から叱(しか)られたり、仲間から孤立することが多いために「どうせ僕は何をやってもだめ」「嫌われ者」といった劣等感を抱きやすく、情緒的問題や非行などの問題行動が出現することもあります。
[原因]
 まだ、この病気の明らかな原因は証明されていません。しかし、脳機能の障害をもたらすいろいろな原因で生じる症候群というのが、今のところ妥当な考え方のようです。
 その頻度は、全児童数の少なくとも3%を占めるといわれ、男女比はおよそ6対1で男児に多いとされています。
[治療]
 こうした子どもの特徴をよく理解して、根気強く付き合っていく姿勢が重要です。支持的・受容的な姿勢と毅然(きぜん)とした態度をうまく調和させることが必要となります。そして子どもが、叱られてもそれを「自分の全人格が否定された」と受け取らないような工夫が求められます。
 薬物療法としては中枢神経刺激薬、抗精神病薬抗うつ薬などが用いられます。また前述したようなさまざまな情緒的問題や劣等感などの改善目的に、遊戯療法(ゆうぎりょうほう)が行なわれます。また、学習障害や社会性の未熟さなどの改善を目的に、治療的観点を取り入れた教育治療教育)も必要になります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

知恵蔵 「注意欠陥・多動性障害」の解説

注意欠陥・多動性障害

不注意(集中力が続かない、気が散りやすい、忘れっぽい、片付けられない)、多動性(じっとしていられない、落ち着きがない)、衝動性(思ったことをすぐに行為にうつす、順番を待てない、他の人をさえぎったり邪魔したりする)が見られ、日常生活や学習面で支障をきたす発達障害の一種。アメリカ精神医学会作成の診断の手引(DSM-IV-TR)では、7歳より前に症状が現れていることが基準となっている。
不注意、多動性、衝動性はそれぞれ単独で現れることもあるが、いくつかが重複して現れる場合も多い。不注意が目立つタイプは女子に多く、多動性や衝動性が目立つタイプは男子に多い傾向がある。
育て方やしつけとは関係なく症状がみられることから、脳の発達が生まれつき偏っているためにこのような症状が出るのではないかと考えられている。家庭では親や兄弟姉妹、学校では教師や友人などから、その行動を問題視されがちで、周囲から孤立したり、反抗心や劣等感を持つようになったり、自尊感情が低くなったりすることがある。身近な人の適切なサポートと、本人の適応力を高めるソーシャル・スキル・トレーニングが主な取り組みとなる。
小児期には、治療薬としてコンサータ(一般名:塩酸メチルフェニデート)、ストラテラ(一般名:アトモキセチン)が用いられている。薬物乱用問題でリタリン(一般名:塩酸メチルフェニデート)の処方が厳格化されて以来、成人向けの治療薬がない状況が続いていたが、2012年8月、ストラテラの成人新規患者への処方が承認された。

(石川れい子  ライター / 2012年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

知恵蔵mini 「注意欠陥・多動性障害」の解説

注意欠陥・多動性障害

発達障害の一つ。略称ADHD。発達年齢に見合わない多動性・衝動性、不注意、またはその両方が小学生頃までに現れるもの。知能的な障害はない。具体的問題行動としては、「静かに座っていることが苦手」「話し出すと止まらない」「人の邪魔をしてしまう」「忘れものが多い」「時間を守れない」「順番を待てない」などがある。学童期の子供の3~7%にみられ、男性は女性より数倍多いとされる。問題行動のタイプにより「多動性・衝動性優勢型」「混合型」「不注意優勢型」に分けられ、「多動性・衝動性優勢型」は多動性障害、「不注意優勢型」は注意欠陥障害(ADD)といった診断名になることも多い。青年期以降は軽快することが多く子供の障害とみられてきたが、大人になっても症状が残る「大人のADHD」と診断される人が増えている。

(2015-5-27)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

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