(読み)あぶく

精選版 日本国語大辞典 「泡」の意味・読み・例文・類語

あぶく【泡】

〘名〙
あわ。水のあわ。
随筆松屋筆記(1818‐45頃)一〇五「俗にあぶくといふはあわぶくの略也」
② 「あぶくぜに(泡銭)」の略。
※怪化百物語(1875)〈高畠藍泉〉下「元が贏余金(アブク)だから、商業(みせ)へさはるやうなことはマアありません」

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デジタル大辞泉 「泡」の意味・読み・例文・類語

ほう【泡】[漢字項目]

常用漢字] [音]ホウハウ)(漢) [訓]あわ あぶく
ホウ空気を包んだ水の玉。あわ。「泡影泡沫ほうまつ気泡水泡発泡
〈あわ〉「泡盛あわもり泡雪一泡
[難読]泡銭あぶくぜに泡沫うたかた水泡みなわ

あわ【泡/×沫】

液体が空気を包んでできた小さい玉。あぶく。「―が立つ」
口の端に吹き出る唾液だえきのあぶく。「―を吹く」「口角こうかく―を飛ばす」
すぐ消えるところから、はかないことのたとえ。「多年の苦労も水の―となる」
[類語]あぶく水泡すいほう水泡みなわ泡沫ほうまつ泡沫うたかたバブル気泡シャボン玉泡立つ

あぶく【泡】

あわ」の俗な言い方。
[類語]水泡すいほう水泡みなわ泡沫ほうまつ泡沫うたかたバブル気泡シャボン玉泡立つ

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改訂新版 世界大百科事典 「泡」の意味・わかりやすい解説

泡 (あわ)

限られた小空間に閉じ込められた気体分散系をいう。液体中の気体分散系,シャボン玉のように薄い液膜でかこまれた球形の気体などがあり,前者を気泡,後者を泡沫と呼ぶことが多い。気泡は,衝撃などにより液体が気体をまき込んだり,液中に気体を噴出させたり,あるいは加温,減圧などによる液中での気体の発生によって生成する。多くの場合,合一して大きくなり,比重の関係で液中を上昇し気液境界に達したとき消滅する。液体の粘度の高いほど,また気泡の径が小さいほど寿命は長く,また界面活性をもつ物質(界面活性剤)の添加により安定化する。安定な気泡は,液面に達しても直ちに破裂することなく,薄い液膜でかこまれた泡沫となり,気液界面に不均一相をつくり,あるいは気相中に飛び散る。

純粋な液体は安定な泡沫をつくらず,安定な泡沫の生成には界面活性をもつ物質の存在が必要である。しかし界面活性と泡沫の安定性との間には必ずしも単純な関係はなく,安定な泡沫の生成のためには安定な液膜の存在が必要である。長鎖脂肪酸塩(セッケン水溶液からできる泡沫が代表的なものであり,泡沫のまわりの液膜は脂肪酸分子が極性基(カルボキシル基)を内側に向けて配向し2分子層をつくり,その間に水層をもつ構造をとっている。これが気相中でも安定に存在するシャボン玉である。シャボン玉は古くから科学者によっても注目され,たとえばI.ニュートンはシャボン玉の色の変化を注意深く観察し,これが薄膜による光の干渉現象によると考えた。シャボン玉の色の移り変りを眺めていると,初め赤,青の変化を繰り返すが,やがて黒い斑点が突然現れ広がっていく。この部分を黒膜という。黒膜には厚さ10~100nm(第一種)と約5nm(第二種)の2種類があり,第一種の黒膜ではセッケン分子のつくる2分子層の間に水を含んでおり,この水が蒸発・排液などにより除かれると第二種の黒膜となる。安定なシャボン玉は,陰イオン系の合成洗剤たとえば硫酸ドデシルナトリウム水溶液によっても形成され,適当量の食塩が存在するといきなり第二種の黒膜ができる。黒膜の安定性は,膜面電気二重層間の静電的斥力とファン・デル・ワールス引力(〈分子間力〉の項参照)の釣合いにより,対イオンの種類,塩濃度などによって変化する。

泡沫は高い吸着能力をもち,洗剤の洗浄作用の一部は泡沫に対する汚れの吸着による(〈洗濯〉の項参照)。泡沫は消火剤としても使われ,たとえばサポニンのような泡沫安定剤を含む硫酸アルミニウム溶液と炭酸水素ナトリウム溶液とを混合すると,二酸化炭素を含む泡沫を発生し空気を遮断する。泡沫安定剤としてはケラチンなどのタンパク質も使われ,ビールの泡も種々のタンパク質などにより安定化されている。アルブミン泡沫もよく知られ,泡立ちクリームや泡立て卵は非常になじみ深いものである。泡沫の重要な工業的応用に浮遊選鉱があり,たとえば捕集剤としてキサントゲン酸塩を加えることにより金属硫化物粒子は泡によって捕捉され集められる。逆に化学プロセスなどにおいて泡を破壊したい場合もあり,このためには溶解力のあるエーテル,アルコール,難溶性の界面活性物質としてオクチルアルコール,あるいはシリコーン有機ケイ素化合物の重合体)などが用いられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「泡」の意味・わかりやすい解説


あわ
foam

液体に囲まれた気体粒子を気泡といい、液体の薄膜で囲まれた気体粒子ならびにその集団を泡沫(ほうまつ)という。泡とは気泡や泡沫の総称であり、コロイドの一種とみなすことができる。しかしながら、泡の気体粒子の大きさは、通常のコロイド粒子に比べてはるかに大きい。

[早野茂夫]

泡の生成

液体中に溶解している気体が析出する場合、あるいは液体中に気体を吹き込む場合に泡が発生する。ビールの栓を抜くときにできる泡は前者の例であり、ストローでせっけん液に空気を吹き込んでできるしゃぼん玉は後者の例である。液体中で発生した泡は液面に浮上し、安定剤が存在するときには泡の層をつくるか、または独立した気泡として空気中に浮遊する。安定剤は泡の寿命を保持するために必要であるが、起泡剤とも称し、界面活性剤がその役割を演じる。安定剤は気体‐液体間の表面張力を低下させて泡をつくりやすくするばかりでなく、泡の表面に配列して吸着膜をつくり、その構造全体を安定化するのに寄与している。

[早野茂夫]

泡の性質

起泡剤を溶かした水溶液に多量の気体を吹き込み、このときに発生する泡がどのように変わるかを考えよう。の(1)に示すように、泡を隔てている壁の部分の液体は、比較的速やかに三角地帯(T)に流れ込み、液膜はどんどん薄くなる。この過程は泡の排液とよばれる。起泡剤としてイオン性界面活性剤が使用される場合には、膜が薄くなる極限の状態は、の(2)に示すような、2分子の界面活性剤が親水基を溶液側に相対して、電気二重層を形成したときで、このときの膜の厚さは界面活性剤の長さのほぼ2倍(約5ナノメートル)である。この厚さは、光の波長に比べてはるかに薄いので光を透過し、暗色を呈し、黒膜black filmと名づけられている。

[早野茂夫]

泡の利用

鉱石のなかから特定の有用な鉱物を取り出す方法に浮遊選鉱法がある。これは泡に対する付着性が鉱物により異なることを利用したもので、これまでは精錬が困難とされていた品位の低い鉱物も資源として扱えるようになった。また大量の泡を火災発生箇所に送り、空気の供給を遮断し、泡の水分による冷却の作用によって消火を行う方法がある。またプラスチック製品を成形するときに小さい気泡を発生させ、固化させた製品はフォームラバーとして日常生活に応用されている。

[早野茂夫]

『立花太郎著『しゃぼん玉――その黒い膜の秘密』(1975・中央公論社)』


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栄養・生化学辞典 「泡」の解説

 液体や固体の中に気体が分散して存在している状態.

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