河童(読み)かっぱ

精選版 日本国語大辞典 「河童」の意味・読み・例文・類語

かっぱ【河童】

[1] 〘名〙 (「河童(かはわらは)」の変化した語)
想像上動物。水陸両棲で、四、五歳の子どもくらいの大きさをし、口先がとがり、背には甲羅や鱗(うろこ)があり、手足には水かきがある。頭には皿と呼ばれる少量の水のはいっているくぼみがあり、その水があるうちは陸上でも力が強く、なくなると死ぬ。水中に他の動物を引き入れ、その生血を吸う。河童小僧。かわたろう。がたろ。がたろう。川立ち男。川小法師。川小僧。川子。河伯(かはく)
※俳諧・桃青三百韻附両吟二百韻(1678)「かねのあみかかれとてしも浪の月 河童子(カッパ)のいけどり秋をかなしむ〈信章〉」
② (①の大好物とされるところから) 植物「きゅうり(胡瓜)」の異称。また、「かっぱまき(河童巻)」の略。
※随筆・筠庭雑録(1832頃)「河童 〈略〉其さま胡瓜に似たれば、胡瓜を江戸の俗にカッパと呼ぶとおもへる者多し」
③ 川に舟を浮かべて客を呼ぶ水上売春婦のことをいう隠語。船饅頭(ふなまんじゅう)
※歌舞伎・助六廓夜桜(1779)「何ぢゃの姫御前を河童(カッパ)とは、モウ女子の一分が廃った」
④ 子どもの髪形。髪を結ばず、耳の辺まで垂らして下を切り落としたもの。江戸時代には頭の頂上を丸く剃ったことからいう。男の子に多く、のちに女の子がするようになった。かっぱあたま。おかっぱ
※雑俳・柳多留‐一五(1780)「こりゃかっぱ十六もんが持ってこい」
⑤ 泳ぎのうまい人。水泳の達人。また、泳いでいる子ども。
※新版大東京案内(1929)〈今和次郎〉東京の郊外「大森は海水浴場として夏ごとに都下の河童(カッパ)連を呼び寄せ」→河童の川流れ
[2] 短編小説芥川龍之介作。昭和二年(一九二七)発表。社会批評、自己批評を、戯画化された世界を借り、風刺的に描いた。

かわっぱ かはっぱ【河童】

〘名〙 =かっぱ(河童)
※俳諧・桃青門弟独吟廿歌仙(1680)一山独吟「河童(カワッパ)若衆盛の花咲いて 獺(をそ)のたはれの心中の春」

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デジタル大辞泉 「河童」の意味・読み・例文・類語

かっぱ【童】

《「かわわっぱ」の音変化》
水陸両生の想像上の動物。身の丈1メートル内外で、口先がとがり、頭上に皿とよばれるくぼみがあって少量の水を蓄える。背中には甲羅がある。人や他の動物を水中に引き入れて生き血を吸い、尻から腸を抜くという。かわっぱ・河太郎・川子・河伯かはく、その他異名が多い。
水泳のうまい人。また、泳いでいる子供。
子供の髪形の一。髪を結ばず耳の辺りまで垂らして下げ、下を切り落としたもの。江戸時代には頭の頂上を丸く剃ったことからこの名がある。→御河童おかっぱ
《河童の好物であるというところから》すし屋などで、キュウリのこと。また、河童巻き
《河童が人を引き込むというところから》
見世物小屋などの呼び込み。
㋑江戸の柳原本所辺りの売笑婦。
[補説]書名別項。→河童

かっぱ【河童】[書名]

芥川竜之介の小説。昭和2年(1927)発表。河童の国を見たと信じる精神病患者の妄想を借りて、社会や作者自身を辛辣に戯画化した作品。

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改訂新版 世界大百科事典 「河童」の意味・わかりやすい解説

河童 (かっぱ)

日本で最もよく知られている妖怪の一つで,川や池などの水界に住むという。カッパという呼称はもともと関東地方で用いられていたもので,エンコウガワタロ,ヒョウスベ,メドチ,スイジンスイコなどと呼んでいるところもある。その形状や属性も地方によりかなり異なっているが,広く各地に流布している一般的特徴は,童児の姿をし,頭の頂に皿があり,髪の形をいわゆる〈おかっぱ頭〉にしている,というものである。頭上の皿の水が生命の根源であって,そこに水がなくなると死んでしまうという。体の色彩は,赤とするところもあるが,青ないし青黒色,灰色が一般的である。手足には水搔きがあり,指は3本しかないと説くところが多い。腕に関しては,伸縮自在だとか,抜けやすいとか,左右通り抜けだとかいった奇妙な伝承が目だち,また人の尻を抜くといわれる。キュウリが河童の好物と考えられており,水神祭や川祭の時にはキュウリを供えて水難などの被害がないことを祈る。

 河童は,川で遊ぶ子どもを溺死させたり,馬を川へ引きずり込んだり,田畑を荒らしたり,人に憑(つ)いて苦しめたりするといった恐ろしい属性をもつ反面,間抜けないたずら者という側面もあり,相撲を好み,人間に負けて腕を取られたり,人間に捕らえられて詫証文を書かされたり,命を助けてもらったお礼として人間に薬の製法を教えたりもする。河童の椀貸伝承などは,こうした好ましい属性を強調したもので,特定の家の守護神となって,田植や草刈りを手伝ったり,毎日魚を届けたりして,その家を富裕にしたという伝承は各地に伝えられている。

 各地に伝わる河童起源譚のうちで,最も広く流布しているのが,人造人間説である。たとえば天草地方に伝わる話では,左甚五郎が城を造る際,期限内の完成が危ぶまれたので,多くの藁人形を作って生命を吹き込み,その加勢を得てめでたく完成したが,その藁人形の始末に困り,川に捨てようとしたところ,人形たちが,これからさき何を食べたらよいか,と問うたので,甚五郎は〈人の尻を食え〉と言った。それが河童となったという。これとは別に,祇園牛頭(ごず)天王の御子,眷属(けんぞく)と説く地方や,外国から渡来したと説く地方もある。

 河童を意味する語が文献に現れるのは近世以降である。それ以前の文献として,しばしば,《日本書紀》仁徳67年条の,吉備の川嶋の川が枝分れしているところにすむ大虬(みずち)が人を苦しめたので,三つのひさごを水に投げ入れて征伐した,という記事が引かれるが,この大虬は江戸時代以降の文献に見える河童ではなく,水神としての蛇もしくは竜のことであろう。現在信じられている河童のイメージは,水辺に出没する猿や亀,天狗,水神を童形とみる考え,宗教者に使役される護法神,虫送りの人形などが混淆して江戸時代に作られたと考えるべきである。江戸時代には,河童の像や図絵まで作られた。
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河童 (かっぱ)

芥川竜之介の短編小説。1927年(昭和2)3月《改造》に掲載。河童の世界を舞台とした寓意的物語。ある精神病患者の体験談として語られるが,河童の世界はすべてが人間の社会とは逆であり,出生はその子供の意志に任され,恋愛はひたすら雌の攻撃性を示し,失業者は肉にされて売られる。宗教は飲食や交合を旨とする生活教が盛んだが,その長老も自分の神を信じてはいない。〈僕〉は憂鬱になり人間の世界に帰って来るわけだが,ここには文明批判という以上に晩期芥川の抱いた暗澹(あんたん)たる鬱情が込められている。われわれは〈この最も空想的な作品の中に〉〈彼の実生活〉のあざやかな〈摸写copy〉を見ることができるとは,その弟子堀辰雄の評するところである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「河童」の意味・わかりやすい解説

河童
かっぱ

日本各地に伝わる水界に住む妖怪の一種。水神ないしは水神の一族・従者,あるいはそれの零落したものと考えられている。カッパという呼称は関東を中心とした地方で用いられる方言で,カワランベ,ガタロウ,カワコなどと呼んでいるところもある。地方によって形状にも大きな差異が認められるが,その多くは童児の姿をし,頭の頂に水をたたえた皿があり,髪の形を,いわゆるおかっぱ頭にしている。頭上の皿の水は河童の生命の根源で,そこに水がなくなると死ぬという。また,その腕に関しても,伸縮自在だとか,とても抜けやすいとか,左右通り抜けであるとかいう奇妙な伝承が目立ち,自体の色彩は,青ないし青黒色であるとする報告が多い。こうした河童の形態は,猿や亀,子供などからイメージを得て創造されたと考えられる。河童の行動は,東北地方の座敷わらしなどによく似て相撲を好み,いたずら者で,田畑を荒したり,馬を水の中に引入れたりする。しかしその一方では,恩義に厚く,特定の家の守護霊として,田植えや草取りなどを手伝ったり,毎日魚を届けたりもする。また,まぬけ者の一面ももっていて,馬を川へ引きずり込もうとして,逆に腕を失ったり,相撲に負けて腕を取られたり,人間に捕えられて,薬の製法を教えるはめに陥ったりする。河童駒引の伝承は,河童を猿とみるところから,猿を厩馬の保護者とする習俗,さらに母子神信仰を基盤とする水神童子信仰などが混交して成立したものと考えられる。また,河童が山の神と田の神の両者の性格を示す場合もあり,これは年に2度春と秋に,山と川の間を移動するというもので,山に入ればヤマタロウ,川に入ればカワタロウと呼ばれる。

河童
かっぱ

芥川龍之介の短編小説。 1927年3月『改造』に発表。ある狂人の河童の国での体験談という形式の風刺小説。機知に富む警句や逆説をふんだんに用いながら,人間社会の痛烈な批判を河童の世界に仮託して描いている。芸術至上主義の河童詩人トックの自殺は,芸術と実人生の裂け目に落込んでいった著者の投影を強く感じさせる。なお著者は河童の戯画を数多く書残している。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「河童」の解説

河童 かっぱ

伝承上の妖怪。
川や池などの水界にすみ,童子の姿で頭に水をたくわえた皿をいただき,「おかっぱ頭」の髪形をしているといわれる。キュウリと相撲をこのみ,人や馬に害をくわえる反面,田植えや田の草取りを手伝うこともある。その伝承は,日本の各地につたえられている。「かわこ」「めどち」などとも。

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普及版 字通 「河童」の読み・字形・画数・意味

【河童】かどう

かっぱ。

字通「河」の項目を見る

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動植物名よみかた辞典 普及版 「河童」の解説

河童 (カッパ)

動物。想像上の動物

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世界大百科事典(旧版)内の河童の言及

【川浸り】より

…この日,餅やだんごをつくり川へ投げ入れる習慣は広く全国にわたっていた。これを〈川浸り餅〉〈川渡り餅〉などといい,河童に引き込まれないよう河童に与えてやるとか,これを食べると川でおぼれぬなどという。中国地方ではぼた餅を膝などに塗りつけると川で転ばぬといい,関東ではこの日の早朝,子どもが川にしりをつけると河童にさらわれないと伝えており,水難を防ごうとする意識がうかがわれる。…

【薬】より

…対馬,高取,富山などの売薬のうちには,明確ではないがこのような発生のものがあるかと考えられる。さらに単独の宗教者や医師が土着して,効ある家伝薬をひろめた場合も全国的にあり,〈河童相伝の打身・金瘡薬〉などと称したものには,これを河童を助けた礼として伝えられたなどの伝承をもつ旧家も少なくない。有名な事例に愛州家の秘薬がある。…

【水神】より

…この水神は,水田稲作とは直接関係ないが,生活用水の守護神としての性格をもっており,各家ごとに祭られる屋内神として伝承されている。 水神の表徴として代表的なのは河童である。水の妖怪であるが,水神が河童の姿をとったと想像される民間伝承は多い。…

【滝】より

…なお,那智の滝壺には九穴の貝(アワビ)があると伝えられている。タキワロウ(崖童)という妖怪は,山口県に伝わる伝承であるが,山に3年,川に3年いるとか,これが海に入るとエンコになるといい,これに出会った人が長く患った話もあって,河童の変種と思われる。奈良県の滝田神社の4月4日の祭りには,ネゴという川魚を供え,大和川の急流に放つという神事があるが,これは水神に対する祭りである。…

※「河童」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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