沈淪
ちんりん
中国の作家郁達夫(いくたつふ)の中編小説。第一小説集『沈淪』(「創造社叢書(そうしょ)第3種」1922・泰東図書局)所収。旧制一高特設予科、八高と学んだ自己の留学体験を下敷きとし、異国日本で生活する高等学校の学生「私」の自意識の葛藤(かっとう)、恋愛の苦悩などを私小説風に描いた作品。叙情的な描写に加えて多感な青年の内心の苦悩を祖国中国の命運と不可分なものとして描き、五・四運動の高揚が急激に衰退した、いわゆる5.4退潮期の青年たちの間に大きな反響をよんだ。発表当時、赤裸々な描写によって「肉欲描写作家」「淫書(いんしょ)」などとそしられたが、周作人の論文「人の文学」などで高く評価された。郁達夫の出世作であるとともに、中国近代文学を代表する作品の一つである。
[小谷一郎]
『駒田信二・植田渥雄訳『沈淪』(『現代中国文学6』所収・1971・河出書房新社)』
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ちん‐りん【沈淪】
〘名〙 (「沈」も「淪」もしずむ意)
① しずみ落ち入ること。深く沈むこと。
※性霊集‐八(1079)招提寺達

文「如来覚
レ之、優
二遊万徳殿
一、衆生迷
レ之、沈
二淪三途之獄
一」
※
腕くらべ(1916‐17)〈永井荷風〉一四「さういふ廃頽した感情の中に其の身を沈淪させやうと勉めるのであった」
② 哀れむべき境遇になりさがること。おちぶれること。
淪落。零落。
※権記‐寛弘七年(1010)七月一五日「其次被レ免二給昇殿一如何、沈淪可二哀憐一者也」
※重右衛門の最後(1902)〈田山花袋〉三「貧窶の境に沈淪(チンリン)して何うにも彼うにもならぬ者や」 〔杜甫‐奉贈鮮于京兆詩〕
③ ひそかに逃亡すること。
※天正五年十一月五日武田勝頼禁制(1577)「然則令沈輪百姓等召還、可令居彼郷中」
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デジタル大辞泉
「沈淪」の意味・読み・例文・類語
ちん‐りん【沈×淪】
[名](スル)《「沈」も「淪」もしずむ意》
1 深く沈むこと。
「廃頽した感情の中に其の身を―させようと勉めるのであった」〈荷風・腕くらべ〉
2 ひどくおちぶれること。零落。
「悲惨な境界に―せぬまでも」〈寅彦・科学者と芸術家〉
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普及版 字通
「沈淪」の読み・字形・画数・意味
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