決定論(読み)ケッテイロン(英語表記)determinism

翻訳|determinism

デジタル大辞泉 「決定論」の意味・読み・例文・類語

けってい‐ろん【決定論】

哲学で、一切の事象、特に自由と考えられている人間の意志やそれに基づく行為は、何らかの原因によってあらかじめ全面的に決定されているとする説。必然論。デターミニズム。→偶然論

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精選版 日本国語大辞典 「決定論」の意味・読み・例文・類語

けってい‐ろん【決定論】

〘名〙 人間の意志、行為など普通自由だと考えられているものも、実はすべて何らかの原因によってあらかじめ決められているという考え。規定論。必然論。デターミニズム。⇔非決定論自由意志論
思想問題(1913)〈上田敏貴族主義平民主義「決定論は理論に立てると正しいやうだが、実際に照して誤ってゐる」

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改訂新版 世界大百科事典 「決定論」の意味・わかりやすい解説

決定論 (けっていろん)
determinism

世界に生起するできごとは,なんらかの形で元来決定されている,と考える立場を指す。決定の主体が超自然的な神である場合もあるし,また自然法則であると考えられる場合もあるが,宗教的決定論とでもいうべき預定説では,世界のできごとというよりは,人間の救済が元来決定されていることを主張する点で,一般の決定論とは異なるといえる。自然法則によって世界のできごとが決定されている,という決定論的主張は,デモクリトス原子論にもすでに胚胎されていたが,それが具体的な意味をもったのは近代後期である。一般にはニュートン力学古典力学)的自然像の確立が,物理学的な決定論の成立に重なると考えられている。それはまちがいないが,ニュートン自身がそうした自然像の持主であったとするのは誤解である。実際には,物理学的な決定論のプログラムデカルトが書き,そのプログラムのなかにニュートンの運動法則が取り込まれたと考えるべきではないかと思われる。デカルトは,創造主としての神の全知・全能を重んじる立場に立ち,この自然は創造された時点において,神の全知・全能の表現の結果,もはや手直し不要な形で〈仕上げ〉られている,したがってその運行も完全に神の計画どおりに進むと考えた。〈素材とそれがふるまうための法則さえ与えられれば,今の世界の状態を再現してみせる〉というデカルトの言葉はそれをよく示している。ニュートンはむしろ,こうした〈機械論〉的な世界観にはなじめなかった。デカルトを批判し,〈彼はできれば神なしで済ませたかった〉と述べたのは,デカルトが神の働きを創造の時間のみに限定してしまったことへの不満の表明でもあった。ニュートンにとって,神は,何にもまして〈遍在〉しており,いかなるときいかなるところにも明確に現前する存在であった。しかし,彼の意に反して,彼の運動法則が,デカルトのプログラムのなかの〈法則〉に読み込まれると,デカルトの機械論は明確な具体性をもつことになった。運動法則は,運動に関するかぎり完全に一義的な因果連鎖を保証したからである。

 この世界に存在するすべての物体が質点に還元され,その運動がすべて運動法則によって一義的に描き上げられる以上,この世界に生起するいっさいのできごとは,結局は決定されている,という力学的・機械論的決定論は,フランス啓蒙思想の頂点としての〈ラプラスの魔〉の概念に最もよく象徴される。そのなかで人間の自由意志はいかなる位置を占めうるか,単なる仮構に過ぎないという解答も含めて,この問いは,今日まで問われ続けている。もちろん,20世紀の量子力学は,ミクロの世界では少なくともニュートンの運動法則のごとき一義的決定性は不可能であることを示した(不確定性原理)。量子力学の成立に貢献しながらもこうした非決定性にはくみしなかったアインシュタインらは,古典論的決定性を最終的に信じていたが,一般には,ミクロな非決定性は今日ひろく受容されている。しかしそうだとすると,ミクロな世界の非決定性とマクロな世界の決定性とをどうつなぐかという問題が残される。これを示したのが〈シュレーディンガーの猫〉といわれる寓話である。一方,相対性理論から導かれる時間(もしくは同時)の相対性から,新しい物理学的決定論が生まれているが,これについても議論は多い。
機械論
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百科事典マイペディア 「決定論」の意味・わかりやすい解説

決定論【けっていろん】

あらゆる事象の生起と帰結が前もって決定されているとする立場。英語ではdeterminism。キリスト教の預定説(決定の主体は神)が宗教上の,デカルト=ニュートン流の力学的・機械論的決定論(決定の主体は自然法則)が哲学・自然思想上の決定論の代表。後者の極端な主張は〈ラプラスの魔〉の名で知られる。〈ある瞬間に宇宙の全原子の位置と速度を知りうれば,末来永劫にわたって宇宙のありさまは解析学の力で知りうるであろう〉。人間の自由意志との調停は古来大きな問題であり,量子力学の出現(不確定性原理)によってもこのような一義的決定の不成立が明らかとなった。
→関連項目因果関係運命論

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「決定論」の意味・わかりやすい解説

決定論
けっていろん
determinism 英語
Determinismus ドイツ語
déterminisme フランス語

常識的には、未来の事柄のなかには、人間の自由意志によって、それが生ずるかどうかが左右されるものがあり、この意味で未来には不定な部分がある。この常識に逆らって、世の中でどういうことが起こるかは、未来永劫(えいごう)にわたってすべてあらかじめ決定されている、と主張する立場が、決定論である。そのなかで、根拠を宗教的な啓示に求めるものを「宗教的決定論」という。たとえば、キリスト教の思想家のなかには、神の意志によってすべてのことはあらかじめ決定されているとする、いわゆる予定説をとる者も多い。また、自然法則は、正規形の常微分方程式の形をとっているので、すべては、初期条件によって決定されているとする「科学的決定論」もある。量子論以後の自然科学では、この決定論は採用されないが、事象の確率は決定されているとする「確率論的決定論」がそのかわりに唱えられることもある。しかし、これを決定論の仲間に入れるのは適当ではないとする意見もある。

[吉田夏彦]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「決定論」の意味・わかりやすい解説

決定論
けっていろん
determinism

人間の行為をも含めてあらゆる事象,出来事がなんらかの原因によってあらかじめ決められているとする考え方で,非決定論に対するもの。決定因が何であるかによって決定論の種類が分けられる。すなわち,自然的,ないし機械論的決定論では,自然の因果法則により (古代ギリシアの原子論者,ホッブズ,スピノザ) ,神学的決定論では神の全知により (予定説) ,経験論的ないし心理学的決定論 (ロック,ヒューム) では経験的法則により決定されるとされる。歴史的決定論,唯物論的決定論,経済的決定論など決定論の種類は多いが,哲学的には道徳的決定論において決定因と意志の自由との関係が問題にされる。 20世紀,量子力学による確率概念の確立により従来の決定論的考え方は後退し,確率論的決定論が主張されている。

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