池田菊苗(読み)いけだきくなえ

精選版 日本国語大辞典 「池田菊苗」の意味・読み・例文・類語

いけだ‐きくなえ【池田菊苗】

化学者。東京帝国大学教授。理化学研究所の創設に尽力。「味の素」の発明者として知られる。帝国学士院会員。元治元~昭和一一年(一八六四‐一九三六

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デジタル大辞泉 「池田菊苗」の意味・読み・例文・類語

いけだ‐きくなえ〔‐キクなへ〕【池田菊苗】

[1864~1936]化学者。京都の生まれ。東大教授。理化学研究所の創立に参画。昆布からうまみ成分のグルタミン酸ナトリウムを抽出し、「味の素」の名で商品化

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「池田菊苗」の意味・わかりやすい解説

池田菊苗
いけだきくなえ
(1864―1936)

「味の素」の発明などで知られる物理化学者。元治(げんじ)元年9月8日、京都に生まれ、1889年(明治22)東京帝国大学理科大学化学科を卒業、1901年(明治34)同教授、1923年(大正12)退職した。助教授在職中の1899年に、当時の物理化学のメッカであったドイツライプツィヒ大学のF・W・オストワルトのもとに留学。帰途しばらく滞在したロンドンでの夏目漱石(そうせき)との交流はよく知られている。心身ともに不安定であった当時の漱石は、池田の品性、博識、見識敬意を覚えつつ大いに慰められた。池田は1917年(大正6)理化学研究所創立に参画、のち主任研究員にもなった。大学退職後はドイツに5年間研究室をもったり、自宅に実験室を設けて5名の研究者と死の年まで香気、臭気の研究をするなど、異色の研究生活を送った。東京帝国大学教授在職中、物質の味には甘味、酸味、苦味、塩から味の四味のほかに、「うま味」があるはずとの着想をもち、用務員を督励して大量のコンブから「うま味」を抽出、ついにその成分の本体がグルタミン酸ナトリウムであることをつきとめた。これが今日の「味の素」である。なお彼はドイツ留学中、オストワルトのエネルギー一元論の影響は受けたが、傾倒することはなかった。昭和11年5月3日東京にて死去した。

[中川鶴太郎]

『林太郎著『池田菊苗先生の講義』(『化学史研究』第13号所収・1980・内田老鶴圃新社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「池田菊苗」の意味・わかりやすい解説

池田菊苗 (いけだきくなえ)
生没年:1864-1936(元治1-昭和11)

明治中期から昭和初期にかけて活躍した日本の代表的な化学者,化学調味料〈味の素〉の発明者として有名。薩摩藩士池田春苗の次男として京都で生まれ,16歳のとき大阪衛生試験所長村橋次郎から化学を学んだ。1889年帝国大学理科大学化学科を卒業,高等師範学校教授を経て,1901年東京帝国大学理科大学教授となり,23年同大学を退職。1917年に理化学研究所の設立に参画し,32年退職。1899年にはドイツのライプチヒ大学のF.W.オストワルトの研究室に留学,物理化学の研究ばかりでなく科学思想その他でも大きな影響を受けた。池田の業績の一つは,19世紀の末に成立した物理化学をいち早く日本に導入し,その基礎を築いたことである。この分野の論文としては溶液論反応速度論等に関するものがある。実験装置の製作・改良,化学教科書の編纂(へんさん)も行った。1907年ころから彼の研究は従来の純正化学から応用化学へと移った。これは彼の実学志向,化学工業への物理化学の有効性の主張等によるものと思われる。同年コンブのうまみ成分の研究から調味料グルタミン酸ナトリウムを発見し,翌年製造特許を得た。これは〈味の素〉の商品名でただちに製造・販売された。そのほかにも製塩法の研究等化学上の実用的研究が数多くある。文学や哲学等についても造詣が深く,ロンドンでの夏目漱石との交遊をとおして彼の文学論執筆に影響を与えたといわれている。
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朝日日本歴史人物事典 「池田菊苗」の解説

池田菊苗

没年:昭和11.5.3(1936)
生年:元治1.9.8(1864.10.8)
明治大正期の物理化学者。薩摩(鹿児島)藩士池田春苗の次男。京都生まれ。幼名完二郎。明治22(1889)年帝大理科大学化学科を卒業。同大助教授在職中の32年にドイツのライプチッヒ大学のオストワルトのもとに留学して,新開拓の理論化学を学ぶほか科学思想でも大きな影響を受け,わが国の理論化学の基礎を築いた。帰途,ロンドンで夏目漱石と交友。34年帰国し母校の教授となる。大正6(1917)年理化学研究所の創立に加わり,同化学部長,のち主任研究員。12年大学退職後はドイツにも研究室を持ちテンサイ糖廃液などを研究。昭和6(1931)年以降は自宅に研究室を設けて,香気,臭気など特異な分野を研究。明治41年,味の研究で甘・酸・苦・塩のほかに「うま味」のあることを発見,その本体がグルタミン酸ナトリウムであることを証明した。これが今日の「味の素」として商品化され,化学的製造法による食品添加物のはしりとなった。ほかに酸性白土を利用した乾燥剤など日本の特許40件,欧米などの特許20件がある。化学教科書の編纂など明治新教育制度下での化学教育にも尽力した。学術上の研究論文に溶液論,触媒の毒作用,反応速度に関するものなどがある。<参考文献>池田菊苗博士追憶会編『池田菊苗博士追憶録』

(山下愛子)

出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報

化学辞典 第2版 「池田菊苗」の解説

池田菊苗
イケダ キクナエ
Ikeda, Kikunae

日本の化学者.薩摩藩士の次男として京都に生まれる.帝国大学理科大学において桜井錠二,E. Divers(ダイバース)などに化学を学び,1889年卒業.高等師範学校教授を経て,1896年母校(1897年から東京帝国大学と改称)の助教授となり,1899~1901年ドイツ,ライプチヒ大学のF.W. Ostwald(オストワルト)のもとに留学し,物理化学を専攻した.帰国後,1903年理学博士号を取得.1902~1923年東京帝国大学教授を務めた.反応速度の簡易測定法など専門の物理化学に関する業績のほか,L-グルタミン酸ナトリウムが味覚としての“旨味”の原因であることを発見した業績が著名である(今日の“味の素”).1913~1914年東京化学会会長を務め,1917年理化学研究所設立にあたって化学部長に就任し,1922~1932年同所主任研究員を務めるなど,明治・大正期の日本を代表する化学者の一人である.

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百科事典マイペディア 「池田菊苗」の意味・わかりやすい解説

池田菊苗【いけだきくなえ】

化学者。京都の生れ。東大卒業後桜井錠二に師事。1899年ドイツに留学し,オストワルトに学ぶ。1901年東大教授,1923年同大学名誉教授。理化学研究所の設立に参画し,同研究所化学部長を務め,退所後池田研究所を設立。溶液論,蒸気密度測定法の研究,沸点法の考案,味の素の発明(1908年),製塩法,アドソールの研究などの業績がある。
→関連項目桜井錠二

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「池田菊苗」の解説

池田菊苗 いけだ-きくなえ

1864-1936 明治-昭和時代前期の化学者。
元治(げんじ)元年9月8日生まれ。明治29年母校帝国大学(のち東京帝大)の助教授となり,34年教授。この間ドイツに留学し,F.W.オストワルトのもとで物理化学を研究。41年コンブのうまみの成分がグルタミン酸ナトリウムであることを解明,42年鈴木三郎助により「味の素」として商品化される。大正6年理化学研究所の創設に参加し,のち主任研究員。昭和11年5月3日死去。73歳。京都出身。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「池田菊苗」の意味・わかりやすい解説

池田菊苗
いけだきくなえ

[生]元治1(1864).9.8. 京都
[没]1936.5.3. 東京
化学者。東京帝国大学化学科卒業 (1889) 。東京高等師範学校教授 (91~96) 。ドイツの W.オストワルトのもとに留学。帰国後東京帝国大学教授 (1901) 。グルタミン酸塩を主成分とする化学調味料の特許を得たが (08) ,これが「味の素」の発明である。理化学研究所設立 (17) に参加し,そこで研究を続けた。

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世界大百科事典(旧版)内の池田菊苗の言及

【味の素[株]】より

…神奈川県葉山で,ヨード製造を家内工業で行っていたが,化学薬品にも手を広げ1907年合資会社鈴木製薬所に改組(1912年鈴木商店)。東大教授池田菊苗が08年に取得したグルタミン酸調味料製造法の特許の工業化を依頼された鈴木は,新化学調味料の製造に取り組み,同年11月〈味の素〉の名で売り出した。当初はまったく売れず,軌道に乗るまでに10年近い年月を要した。…

【化学調味料】より

…【田島 真】
[化学調味料製造業]
 現在,調味料全体のうち約2割が化学調味料であるが(出荷額ベース),その大半を占めるのがグルタミン酸ナトリウム(グルタミン酸ソーダ,略してグル曹ともいう)である。これがコンブのうま味の正体であることをつきとめ,1908年特許をとったのが池田菊苗である。池田の依頼を受けた2代目鈴木三郎助は自身で創業した鈴木製薬所(現,味の素(株))で製造,08年11月〈味の素〉の名で売り出した。…

※「池田菊苗」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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