池亭記(読み)ちていき

精選版 日本国語大辞典 「池亭記」の意味・読み・例文・類語

ちていき【池亭記】

[一] 漢文随筆。前中書王兼明(さきのちゅうしょおうかねあきら)(源兼明)親王作。天徳三年(九五九)成立。曲池のほとりに建てた小亭で、悠々自適しようとする老年心境をしるしたもの。「本朝文粋‐一二」所収。
[二] 漢文随筆。慶滋保胤(よししげのやすたね)作。天元五年(九八二)成立。当時の東西両京の荒廃と、深刻な地域状況のなかで、荒地を求めて小池を掘り、小堂や書庫をかまえ念仏と読書に閑雅な晩年を送るさまを述べる。「方丈記」に大きな影響を与えたとされる。「本朝文粋‐一二」所収。

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デジタル大辞泉 「池亭記」の意味・読み・例文・類語

ちていき【池亭記】

平安中期の随筆。前中書王兼明さきのちゅうしょおうかねあきら親王著。天徳3年(959)成立。小亭での、悠々自適の老年の心境を漢文体で記したもの。
平安中期の随筆。慶滋保胤よししげのやすたね著。天元5年(982)成立。当時の京都の荒地に池と亭を構え、念仏と読書に閑雅な晩年を送るようすを漢文体で記したもの。「方丈記」に影響を与える。ちていのき。
[補説]ともに「本朝文粋ほんちょうもんずい」所収。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「池亭記」の意味・わかりやすい解説

池亭記
ちていき

「ちていのき」ともいう。平安中期の文人慶滋保胤(よししげのやすたね)が新築した自邸に寄せて心境を記した漢文随筆。982年(天元5)成立。『本朝文粋(ほんちょうもんずい)』巻12に収められている。白居易(はくきょい)(楽天)の『池上篇(へん)』や兼明親王(かねあきらしんのう)の『池亭記』に触発されたところがあり、他方鴨長明(かものちょうめい)の『方丈記(ほうじょうき)』に影響を与えている。右京の荒廃と左京過密とを批判的な筆致で叙述した前半は、平安京の変遷を知る貴重な史料である。後半部に「職は柱下(ちゅうか)(内記の唐(とう)名)に在りといへども、心は山中に住むがごとし」とあり、作者は仕官隠遁(いんとん)との両立を志した。新邸は心の隠遁を遂げたいとする作者の願望を十分に満たすものだとしている。作者の生活上の理想とともに理想の住居が論じられ、これが前半の批判的な筆致を生んでいる。

[八重樫直比古]

『柿村重松著『本朝文粋註釈 下巻』(1968・冨山房)』『小島憲之校注『本朝文粋(抄)』(『日本古典文学大系 69』所収・1964・岩波書店)』『金子彦二郎著『平安時代文学と白氏文集 第一巻』(1977・藝林舎)』『大曽根章介「『池亭記』論」(山岸徳平編『日本漢文学史論考』所収・1974・岩波書店)』

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改訂新版 世界大百科事典 「池亭記」の意味・わかりやすい解説

池亭記 (ちていき)

慶滋保胤(よししげのやすたね)の漢文随筆。982年(天元5)成立。平安京の西京の荒廃,東京の家屋の過密状況の中で,50歳近い作者が小宅を得て,小山を作り小池を掘り,書庫,小堂をかまえて読書や念仏に明け暮れ,閑雅な晩年を送ったことを述べる。源通親の《久我草堂記(こがそうどうき)》や鴨長明の《方丈記》に影響を与えた。なお,同名の漢文随筆が前中書王兼明(かねあきら)親王にもあり,959年(天徳3)成立。曲池のほとりの亭で悠々自適の生活を送ろうとする心境を語ったものである。ともに《白氏文集》の〈池上篇〉を原拠とする。林泉池亭を営む思想は道教の神仙思想からくる。ともに《本朝文粋》所収。
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百科事典マイペディア 「池亭記」の意味・わかりやすい解説

池亭記【ちていき】

慶滋保胤(よししげのやすたね)の住居を主題とする漢文の記。982年成立。保胤50歳頃の作。〈異代の師〉と仰ぐ白居易の《池上篇并序》《草堂記》や,兼明親王の同題の作にならって,都における住居の変転と,〈池亭〉での読書や念仏に耽る閑雅な生活を綴る。和漢混淆の記である《方丈記》は,内容,構成ともにこの作品にならって書かれた。《本朝文粋》巻12所収。

池亭記【ちていのき】

池亭記(ちていき)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「池亭記」の意味・わかりやすい解説

池亭記
ちていき

「池のほとりのあずまやで記したもの」というのが本来の意味で,書名ではない。したがって幾編もの池亭記があったと思われるが,今日知られているものでは,兼明 (かねあきら) 親王のものと慶滋保胤 (よししげのやすたね) の漢文体の随想が有名である。ともに『本朝文粋』に収められている。兼明親王の『池亭記』は,天徳3 (959) 年の作。池亭に閑居し身辺の風物を楽しむ心境を述べたもの。慶滋保胤の『池亭記』は,天元5 (982) 年の作。池亭で京都の昨今を回想したもので,特に西の京一帯が荒廃している様子を述べている。

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世界大百科事典(旧版)内の池亭記の言及

【慶滋保胤】より

…963年(応和3)の《善秀才宅詩合(ぜんしゆうさいたくしあわせ)》や969年(安和2)の《粟田左府尚歯会(あわたさふしようしかい)》に参加して詩を詠み,具平親王邸の詩会に出席して源順や橘正通らと交際して互いに詩才を競った。982年(天元5)六条に新しく池亭を築いた彼は《池亭記(ちていき)》を執筆した。前半で西京の荒廃と都の住居の構成について述べ,後半で池亭の規模と四季の景観及び自己の閑適生活をとおして理想の住居論を展開しているが,腐敗した現実の政治を批判し,真摯な生活態度を綴ったこの文章は,後世鴨長明の《方丈記》に大きな影響を与えた。…

※「池亭記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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