江南スタイル(読み)かんなむすたいる(英語表記)Gangnam Style

知恵蔵 「江南スタイル」の解説

江南スタイル

韓国の歌手・ラッパーであるPSY(サイ)が、2012年に発売した自身のアルバムのタイトル曲。腰を前後に振ったりくねらせたりする軽妙なダンスを披露するプロモーションビデオがYouTube上で公開され、5カ月ほどで9億回以上という驚異的な再生回数を記録した。日本では大きな話題とならなかったが、米国ビルボード誌など欧米各国のチャートで上位を占め、多数の人々が集まって突然踊り出すフラッシュモブが行われるなど、各地で大きな注目を集め、著名歌手にダンスを伝授するなどして話題を呼んだ。
江南スタイル」の江南とは、韓国の首都ソウル中心部を流れる漢江(ハンガン)の南側に当たる地域のこと。朝鮮戦争以降に開発され、主に1970年代以降に急速に発展し、高層ビルが林立する新しい政治・経済・商業の中心となっている。居住する住民も、地方などから上京して企業幹部になったり政府高官に就いたりした、新興エリートインテリの家庭が少なくない。「江南スタイル」に繰り返しでてくる「オッパン カンナムスタイル」の「オッパ」とは、年長の男性への敬愛を込めた呼び方だが、いうなれば、「江南の兄ちゃん」といった響きのフレーズである。ダンスは「馬ダンス」と称しており、馬の動作などに想を得たものだという。ただし、江南の子女が嗜(たしな)む乗馬の姿勢にも似ており、「昼は品格があるが夜は淫乱になる女」、「物静かに見えるが遊ぶときにはイッてしまう男」といった歌詞とともに、江南に住む子女の生活様式や処世流儀揶揄(やゆ)し、あるいは自嘲した楽曲とも言われている。
PSY自身、江南の出身でエリートとして経営学を学ぶため米国の大学に進んだ。しかし、留学中に音楽の道へと転身し、2010年のサッカーワールドカップの応援や、ソウルオリンピックの応援歌などでも活躍する国民的人気歌手となった。ヒップホップをもとにした独特のスタイルや、ライブパフォーマンスなどが好評を博している。また、韓国の若者たちの米国などに対する心理的抵抗感などを歌詞とした曲もある。
日本では、日本音楽界を席巻した美男・美女のK-POPが欧米ではほとんど話題にならずに、バックダンサーに美女を従えているとはいえ、中年体型のPSYが人気となったことに対して、話題が集中した。音楽性やエンターテインメントについての嗜好(しこう)の様相というよりは、竹島問題など日韓を巡る政治的な問題や民族感情などを絡めた風評などもささやかれている。

(金谷俊秀  ライター / 2012年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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