水酸化スズ(読み)すいさんかすず(英語表記)tin hydroxide

改訂新版 世界大百科事典 「水酸化スズ」の意味・わかりやすい解説

水酸化スズ(錫) (すいさんかすず)
tin hydroxide

酸化数ⅡおよびⅣのスズの水酸化物が知られている。

化学式SnOH2塩化スズ(Ⅱ)SnCl2などのスズ塩の水溶液にアンモニア水あるいは希アルカリ水酸化物水溶液を加えると白色沈殿として得られる。生成条件によって水和度が異なり一定組成をもたないが,通常,Sn(OH)2と書かれる。160℃以上に熱すると分解して酸化スズ(Ⅱ)SnOを生ずる。

 Sn2⁺+2OH⁻⇄SnO(固体)+H2O

の反応として求められる溶解度積は[Sn2⁺][OH⁻]2=6.3×10⁻27mol/l3(25℃,イオン強度0)。溶液中にはSnOH⁺,Sn2(OH)22⁺,Sn3(OH)42⁺などのヒドロキソ錯体が生成する。熱水中あるいは沈殿を加熱すると水を失って酸化スズ(Ⅱ)SnOとなる。両性で,希酸に溶けてスズ(Ⅱ)イオンとなるが,アルカリ性溶液にも溶けて亜スズ酸イオンSnO22⁻となる。強い還元性があり,アンチモン塩や鉛塩の水溶液からそれぞれの金属を沈殿させ,SnはSnにまで酸化される。

化学式Sn(OH)4。白色ゲル状の沈殿であるが,一般にはSnO2nH2Oと書くべきで,一定の組成をもっている。スズ酸とも呼ばれる。スズを濃硝酸に溶かすか,塩化スズ(Ⅳ)の水溶液にアンモニアまたは炭酸ナトリウム水溶液を加えると得られる。両性で,酸(かなり低いpH領域で)にもアルカリにも反応する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「水酸化スズ」の意味・わかりやすい解説

水酸化スズ
すいさんかすず
tin hydroxide

スズの水酸化物。酸化数ⅡとⅣのスズの化合物が知られている。

(1)水酸化スズ(Ⅱ) Sn(OH)2式量152.7。スズ(Ⅱ)塩の水溶液は、酸を加えないと加水分解して白色沈殿を生じやすい。この白色沈殿の組成は古くSn(OH)2と書かれ、これが水酸化スズ(Ⅱ)とされた。しかしこれは実は、3SnO・H2OあるいはSn(OH)2・2SnOと書かれるのが正しく、構造もSn6の八面体からなるクラスター化合物のSn6O4(OH)4であることが確かめられている。沈殿は過剰の水酸化アルカリで亜スズ酸イオンSn(OH)3-を生じて溶ける。亜スズ酸イオンのアルカリ性溶液は強い還元作用をもつ。

(2)水酸化スズ(Ⅳ) 確実なSn(OH)4の組成の物質は得られていない。塩化スズ(Ⅳ)水溶液にアンモニア水を加えるとSnO2nH2Oとして得られる。これはα(アルファ)スズ酸とよばれる。これを水中で煮沸するとβ(ベータ)スズ酸とよばれるものとなる。また金属スズを濃硝酸で処理してもβスズ酸が得られる。βスズ酸はメタスズ酸ともよばれる。いずれも無色粉末。αスズ酸は酸、アルカリに溶ける。βスズ酸は不溶。110℃で乾燥するとH2SnO3の組成のものが得られる。過剰のアルカリでスズ酸イオン[Sn(OH)6]2-を生じて溶ける。窯業用顔料、うわぐすり(釉)、研摩剤としての用途がある。

[守永健一・中原勝儼]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

化学辞典 第2版 「水酸化スズ」の解説

水酸化スズ
スイサンカスズ
tin hydroxide

】水酸化スズ(Ⅱ):Sn(OH)2(152.72).可溶性の二価のスズ塩水溶液にアンモニア水またはアルカリを加えると白色の沈殿として得られる.このものは一定の組成をもたない酸化スズ(Ⅱ)の水和物であるが,一般にSn(OH)2で示される.水に難溶.両性水酸化物であり,希酸にスズ(Ⅱ)塩,強アルカリにスズ(Ⅱ)酸塩をつくって溶ける.強い還元剤として用いられる.[CAS 12026-24-3]【】水酸化スズ(Ⅳ):塩化スズ(Ⅳ)水溶液を濃硝酸で処理するか,アンモニア水,炭酸ナトリウム,水酸化ナトリウムのいずれかを加えると白色ゲル状の沈殿として得られる.一定の組成をもたず,一般式はSnO2nH2Oで示される.このものはスズ酸ともよばれ,両性水酸化物であり,塩酸に溶けて塩化スズ(Ⅳ),アルカリに溶けてスズ(Ⅳ)酸塩をつくる.スズ(Ⅳ)塩,スズ(Ⅳ)酸塩の製造,陶磁器のうわぐすり,パテ,触媒,特殊ガラス,化粧品の製造などに用いられる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「水酸化スズ」の意味・わかりやすい解説

水酸化スズ
すいさんかスズ
tin hydroxide

(1) 水酸化スズ (II) ,水酸化第一スズ  Sn(OH)2 。両性水酸化物で,酸や過剰のアルカリに可溶。水酸化ナトリウム溶液中では亜スズ酸ナトリウム Na+HSnO2- となるが,Sn(OH)2 も Na+HSnO2- の溶液も高温では容易に分解し,褐色の酸化スズ SnO を析出する。 (2) 水酸化スズ (IV) ,水酸化第二スズ  Sn(OH)4 。スズ酸ともいう。両性水酸化物。水溶液を煮沸すると次第に結晶性を帯び,酸にも溶けにくくなる。コロイドをつくりやすく,一定の組成をもたない。

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