水酸化コバルト(読み)すいさんかコバルト(英語表記)cobalt hydroxide

改訂新版 世界大百科事典 「水酸化コバルト」の意味・わかりやすい解説

水酸化コバルト (すいさんかコバルト)
cobalt hydroxide

酸化数ⅡおよびⅢのコバルトの水酸化物が知られている。

化学式CoOH2。コバルト(Ⅱ)塩の水溶液に水酸化アルカリを加えると青色沈殿として得られる。これを放置するか,あるいは温めると淡紅色の変態が得られる。比重3.59。淡紅色変態は水酸化カドミウム型構造でCoは6個のOHにとりかこまれている。青色変態はより無秩序な構造をもつ。両性で,酸に溶けてコバルト(Ⅱ)塩となり,アルカリに溶けて[Co(OH)42⁻などを含む青色溶液となる。アンモニア水およびアンモニウム塩水溶液にも可溶である。

化学式Co2O3nH2O。水酸化コバルト(Ⅱ)を水に懸濁し塩素などで酸化するか,コバルト(Ⅲ)塩水溶液に水酸化アルカリを加えるとn=3の組成(Co(OH)3)に近い褐黒色沈殿が得られ,150℃で乾燥するとn=1の組成のもの(CoO(OH))が得られる。比重4.46。六方晶系。NaHF2型構造。加熱すると酸素を発して分解する。塩酸には塩素を発して溶けるが,硝酸および硫酸には難溶である。
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化学辞典 第2版 「水酸化コバルト」の解説

水酸化コバルト
スイサンカコバルト
cobalt hydroxide

】水酸化コバルト(Ⅱ):Co(OH)2(92.95).ばら色の粉末.コバルト(Ⅱ)塩水溶液に水酸化ナトリウムを加えると得られるが,最初は青色の微細沈殿で,放置すると粒子が大きくなりばら色にかわる.密度3.60 g cm-3両性化合物で,酸に溶けてコバルト(Ⅱ)塩になり,アルカリには加熱するとテトラヒドロキソコバルト(Ⅱ)酸塩M2[Co(OH)4]を生じ,青色溶液になる.酸化されやすい.空気中では徐々に酸素を吸収して褐色の水酸化コバルト(Ⅲ)になる.水に難溶,アンモニア水,アンモニウム塩水溶液に可溶.金属コバルトの製造,ニッケル水素電池の正極材料,金属せっけん触媒などに用いられる.[CAS 21041-93-0]【】水酸化コバルト(Ⅲ):Co(OH)3(109.96).水和酸化コバルト(Ⅲ)ともいう.実際にはCo2O3nH2Oでn = 3が普通である.暗褐色の粉末.コバルト(Ⅲ)塩水溶液に水酸化ナトリウムを加えると得られる.密度4.46 g cm-3.100 ℃ で水を失う.塩酸に溶けて塩素を発生する.硝酸,硫酸に難溶,水,エタノール,アンモニア水に不溶.[CAS 1307-86-4]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「水酸化コバルト」の意味・わかりやすい解説

水酸化コバルト
すいさんかこばると
cobalt hydroxide

コバルトの水酸化物。正式にこの名称でよべるのは酸化数Ⅱの化合物だけである。コバルト(Ⅱ)塩の水溶液にアルカリ金属水酸化物を加えると、条件しだいで青色または淡紅色の沈殿として生成する。青色形のほうが不安定で、その懸濁液を放置または加熱すると淡紅色形に変わる。水に不溶であるが、両性であって酸にもアルカリにも溶ける。アルカリ溶液中では[Co(OH)42-イオンを生じ青色を呈する。コバルト(Ⅱ)水酸化物(とくに青色形)は酸化を受けやすく、空気中でも徐々に酸素を吸収して褐色の物質に変わる。懸濁液に水酸化アルカリと酸化剤を作用させると急速に進行する。この生成物は通常水酸化コバルト(Ⅲ)とよばれるが、Co2O3・nH2Oと表すべきもので、水の含有量は一定しない。150℃で乾燥すると一水和物が得られるが、これは組成がCoO(OH)のコバルト(Ⅲ)化合物である。

[鳥居泰男]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「水酸化コバルト」の意味・わかりやすい解説

水酸化コバルト
すいさんかコバルト
cobalt hydroxide

(1) 水酸化コバルト (II) ,水酸化第一コバルト  Co(OH)2 。青緑または赤桃色粉末。色は粒子の大きさ,吸着イオンの有無,温度,アルカリ度などによって異なる。比重 3.60。空気や弱い酸化剤によって容易に黒褐色の水酸化コバルト (III) に変る。水には難溶であるが,酸に易溶,アンモニアにも可溶である。 (2) 水酸化コバルト (III) ,水酸化第二コバルト  Co(OH)3 。水酸化コバルト (II) を酸化するか,3価のコバルト塩に水酸化アルカリを加えると生成する。水溶液から沈殿したものはほぼ Co(OH)3・3H2O の組成であり,これを 150℃で乾燥したものはほぼ Co(OH)3・H2O の組成になる。しかし,空気中では 300℃でも完全には脱水しない。

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