水産会社(読み)すいさんかいしゃ

改訂新版 世界大百科事典 「水産会社」の意味・わかりやすい解説

水産会社 (すいさんかいしゃ)

会社組織による漁業企業体。日本の漁業経営体を大別すると,家族労働によって営まれる零細規模漁家と雇用労働者を使用する漁業企業体に分類できる。漁業企業体はさらに個人経営と会社経営に分類されるが,個人経営が圧倒的に多く,会社経営は漁家を含めた全漁業経営体数の1%強を占めるにすぎない。しかし,会社経営体が日本全体の漁獲金額に占める比率は5割弱にも及び,経営体個々の生産規模は,漁家や個人企業体に比し著しく大きい。いわゆる水産会社のなかでもとくに規模の大きいのは,証券市場一部上場の大洋漁業(のちマルハ),日本水産日魯漁業(のちニチロ),極洋宝幸水産(現,宝幸)の五大水産会社である(ホウスイも一部上場会社であるが,日本水産の関連会社)。なお2007年のマルハとニチロの経営統合により,持株会社マルハニチロホールディングスが設立された。

 5社のうち前3社は明治末期に生まれ,大正末期には独占資本体制を確立した。これら3社は,その創設者が元来の漁業生産者ではなく,商業資本的性格のものであったこと,第2次大戦までの日本の海外植民地侵略政策と密接に結びつき,大規模な遠洋漁業を中心に発展してきたこと,特定の財閥系資本,国家的資本の援助を受けつつ独占体制を維持してきたこと,などが特徴であった。敗戦によって大打撃を受けたが,第2次大戦後は食糧増産政策の名のもとに国家資金の特恵的援助を受けて復活し,1952年対日講和発効にともない北洋漁業が再開されたことを契機として,1950年代後半期には発展の基礎が確立した。このころから後発2社も新興独占資本として加わり,60年代以降の高度経済成長期を通じ,水産5社は著しい発展を示した。まず漁業生産部門においては,母船式サケ・マス,母船式カニ,母船式底引網北方トロール,以西底引網,南方トロール,南氷洋・北洋母船式捕鯨業など,主要な遠洋漁業を独占的に操業する体制を確立した。一方,食生活の洋風化にともなう新需要を背景に,魚肉ハムソーセージ,インスタント食品,畜産加工品などの食品加工部門への積極的な資本展開がなされ,総合食品会社的な色彩をもつに至った。また発展途上国への資本輸出も活発となり,東南アジアのエビ合弁漁業をはじめ,中南米,アフリカ方面での海外合弁漁業を広く展開するに至った。このような漁業,食品加工などの生産部門のみでなく,漁業用資材生産部門,食品販売部門などについても自社ならびに系列子会社による経営がなされ,関連産業を含めたコンツェルン的統合支配が確立し,各社の主要株主に都市銀行,生損保大会社が加わり,独占資本体制は一段と強化されてきた。200カイリ時代に入って,国際漁業規制の強化により遠洋漁業の縮小をはじめとして漁業環境は悪化したが,海外合弁漁業や商事部門を拡大し,とくに水産物の輸入業務を活発化することにより自社漁労の落込みをカバーし,会社経営を維持発展させることを志向している。
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百科事典マイペディア 「水産会社」の意味・わかりやすい解説

水産会社【すいさんかいしゃ】

会社組織の漁業企業で,日本の零細な漁家や個人企業にくらべ,数は少ないが漁獲額の50%以上を占める。マルハ日本水産ニチロ,極洋,宝幸水産が大手会社で,1952年の北洋漁業の再開で復活,母船式のサケ・マス,カニ,底引網,捕鯨や北方・南方トロールなどで遠洋漁業を独占した。また食生活の洋風化に対応して,魚肉のハム・ソーセージやインスタント食品,畜産加工品などに展開,総合食品会社の性格を強めた。東南アジアや中南米,アフリカでの海外合弁漁業にも進出,さらに漁業資材生産や食品販売も兼営してコンツェルン的支配を確立した。200カイリ経済水域による漁獲規制や遠洋漁業の縮小で漁業環境は悪化したが,水産物の輸入業務などが充実している。→水産物貿易
→関連項目水産業

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