気象事業(読み)きしょうじぎょう

改訂新版 世界大百科事典 「気象事業」の意味・わかりやすい解説

気象事業 (きしょうじぎょう)

自然災害の防止,環境の保全,交通安全の確保,各種産業の興隆,気候変動対策など公共の福祉増進に寄与することを目的として,気象の観測を行い,予報,警報を発表し,観測資料を提供するとともに必要な気象情報や助言を伝達する事業。日本では,社会一般を対象として気象庁がおもにこの事業を担当しているが,特定利用者を対象として日本気象協会,民間天気会社,地方自治体の一部もこれにたずさわっている。なお,気象庁の業務が,地震・火山業務や海洋・海上気象業務を包含するため,気象事業を幅広くうけとってこれらの業務を含める場合もある。

古来,気象と気候ほど人間生活にとって深いかかわりをもつ自然現象は少ない。人類の歴史は,見方によっては気象の変化に対して人間生活に欠かせない食糧,衣服,住居を確保し改善してきた時間の流れともいえるが,その過程で民族の文化や特性を決める上で気候のおよぼした影響はきわめて深いと思われる。気象事業は,こうした人類の気象・気候とのかかわりの中から,気象学,気候学の知識とそれにもとづく技術を人間社会に役立てるためにはじめられた。近代におけるそれの確立は,天気図作成の必要性が認識された時点といえるだろう。それはクリミア戦争中の1854年のことであった。その1年前,世界の主要海運国の代表の集りが開かれ,船舶航行の安全のため,洋上における組織的な気象観測の実施を求めた。73年世界各国の気象台長が集まって国際気象会議International Meteorological Organization(略称IMO)を組織し,陸上・海上の別なくひろく気象観測を実施し,観測資料の組織的な収集・交換を国際協力によって実施することを決議した。こうした国際協力は,IMOが今日の世界気象機関WMO)に発展解消した後も進展し,現在はWMOによる世界気象監視(WWW)計画として集成されている。この計画は,基本的には全世界の気象の観測,通信,資料処理の3本の柱から成り立っており,設備の増強や資料交換に関して世界気象中心(ワシントンモスクワ南半球のみのメルボルン),地域気象中心(東京など23中心),国家気象中心が互いに連携し対処している。

日本についていうと,気象事業は気象業務法にもとづき気象庁が中心となって行われているが,建設省,国土庁,科学技術庁(国立防災科学技術センター),農林水産省などとも協力している。気象事業の根底にあるのは,気象観測→資料伝送→資料処理(天気図解析,天気予報,週間天気予報,季節予報,気象注意報,気象警報,気象情報など)→資料伝送→発表という流れである。

全国の気象台,測候所や観測船では,その分担に応じて次の気象観測を行っている。すなわち,地上・海上気象観測,レーダー観測(全国20ヵ所),放射能観測,高層気象観測(レーウィンゾンデ18ヵ所,パイボール6ヵ所),気象ロケット観測(1ヵ所),オゾン観測,生物季節観測など。さらに,地域気象観測システム(AMeDASアメダス))によって,全国約1300ヵ所の有線ロボット気象計で降雨量,積雪量を中心とする地上観測を行っている。また,東経140°の赤道上3万5800kmにある静止気象衛星ひまわり〉は1978年4月から運用を開始し,以後日夜,可視光線と赤外線で雲画像を求めたり海面水温を観測したりしている。

気象観測資料にもとづいて,予報官が各種の天気図解析を行うが,近年コンピューターによる自動解析が普及してきた。これらの天気図から数値予報で各種予想天気図がコンピューターによって作成される。予報官は天気図,気象衛星による雲写真,レーダー・エコー図,雨量分布図などで現在の気象状況をよく把握した上で,各種予想天気図などにもとづいて天気予報や週間天気予報を行うが,最終判断は上記資料とその補正,統計資料,経験則などを用いて総合的に行う。気象状況が災害をもたらしそうな場合には,気象情報気象注意報(風雨,風雪,強風大雨大雪など),気象警報(暴風,大雨,大雪など)を発表して一般市民や防災機関に伝達している。さらに,主として統計的方法で求めた季節予報(1ヵ月,3ヵ月,暖候期寒候期)が発表されている。また,海洋・海上気象業務の成果として,波浪分布図,波浪予想図が発表されている。そのほか,桜開花日の予想なども発表されて社会になごやかな話題を提供している。

国内と国際の気象通報にかかわる気象情報の的確でスムーズな伝達のため,WMOの調整のもと気象庁は地域通信中枢の一つとして重要な役割を果たしている。同時に,気象庁は国内の気象台,測候所などに対して気象資料伝送網を整備している。その中心にあるのが,気象資料自動編集中継装置である。これらの通信網によって,休みなく気象観測資料,気象解析資料,各種予測資料,気象情報や気象注意報・警報が収集・伝送されている。

大気の流れに国境がない以上,気象事業は多かれ少なかれ国際協力なしには成り立たない。観測→伝達→処理の基本の流れのどれをとっても,世界中が協調しないと運営できない。その中核がWMOである。前述のWWWにおいて気象事業の基盤をしっかりとかためた上で,WMOはこれまでも多くの国際協力事業を推進してきた。たとえば,国際学術連合(ICSU)と共催した地球大気開発計画(GARP(ガルプ))や現在すすめられている世界気候計画(WCP)などがある。この動きは今後もいっそう盛んとなるであろうが,世界各国でも気象事業の発展に力をそそいでいる。ここでも南北問題がみとめられるが,発展途上国もそれぞれ水準の向上をはかっているので,少しずつでも世界の気象事業全体の内容が充実してきている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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