EBM 正しい治療がわかる本 「気管支拡張症」の解説
気管支拡張症
●おもな症状と経過
気管支の内側が広がってしまう病気です。この病気でみられる気管支の拡張は元に戻ることはありません。拡張した部分は浄化作用が低下して痰(たん)がたまりやすくなり、慢性気管支炎と似た症状が現れます。せき、痰がでて、ときには血痰(けったん)や喀血(かっけつ)を伴うこともあります。とくに早朝に大量の痰がでます。せきと一緒にでる痰には黄色から緑色の色がついています。大人は自力で痰をだすことができますが、小さい子どもで、自分の力で痰をだせない場合にはさらに拡張部分が広がっていく可能性があります。気管支粘膜が炎症をおこしているため、呼吸器の感染症をなんどもくり返し、きちんと治療しないと徐々に呼吸不全になってしまいます。
●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
気管支が部分的に異常に広がり、そのために気管支の浄化作用が低下して痰がたまりやすくなります。さらに細菌などが繁殖しやすくなるため、気管支炎や肺炎を引きおこしやすくなります。また、拡張した部分には血管が増えます。これが血痰や喀血の原因となります。
原因には先天性と後天性の二つがあります。先天性のものは原発性線毛機能不全症候群(げんぱつせいせんもうきのうふぜんしょう)など気管支に生まれつきの異常があり、気道感染をくり返すために気管支拡張が生じるものです。この場合、しばしば慢性副鼻腔炎(ふくびくうえん)を合併します。
後天性のものでは、幼児期に肺炎など重症の呼吸器感染症にかかったことがあると、気道が傷つく場合があり、その部分で感染をくり返すと、気管支が拡張することがあります。ほかに結核や非定型抗酸菌症(ひていけいこうさんきんしょう)などの病気に引き続いて発生する場合があります。
よく行われている治療とケアをEBMでチェック
[治療とケア]痰の排出を促進する
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 薬や薬以外の方法で痰の排出を促進することは非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。薬以外の方法には体を傾けて痰をだしやすくする体位ドレナージ、胸を叩いて痰をだしやすくする胸部軽叩打法(きょうぶけいこうだほう)などがあります。とくに自力で痰をだせない幼児などでは積極的に行う必要があります。(1)~(3)
[治療とケア]抗菌薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 感染症を併発した場合、マクロライド系抗菌薬を使用することは非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。また、症状が悪化した場合にはほかの抗菌薬を用いたり、非常に重症化した場合には入院して抗菌薬の点滴静脈注射を行ったりします。(4)
[治療とケア]気管支拡張薬を用いる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 喘息(ぜんそく)のようなせきがでる場合、気管支拡張薬を使用することは臨床研究によって効果が確認されています。(5)(6)
[治療とケア]止血薬を使用する
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 血痰を伴う場合、止血薬を使用することは臨床研究によって効果が確認されています。(7)
[治療とケア]気管支動脈塞栓術(きかんしどうみゃくそくせんじゅつ)を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 喀血が続くときは、止血薬を使用し、出血にかかわっている動脈を探して、太(ふと)ももからカテーテルを挿入して、血管をふさぐ気管支動脈塞栓術を行う場合もあります。これらのことは臨床研究によって効果が確認されています。(8)~(12)
[治療とケア]気管支の切除術を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 感染をなんどもくり返す場合には、病変が一部のみであることを確認し、切除後も肺機能を維持できるのであれば気管支の切除術を行うこともあります。(8)~(12)
よく使われている薬をEBMでチェック
去痰薬(きょたんやく)
[薬名]ムコソルバン(アンブロキソール塩酸塩)(13)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]ムコダイン(カルボシステイン)(13)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。
マクロライド系抗菌薬
[薬名]エリスロシン(エリスロマイシン)(14)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]クラリス/クラリシッド(クラリスロマイシン)(15)(16)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]ルリッド(ロキシスロマイシン)(17)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ジスロマック(アジスロマイシン水和物)(18)~(20)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 上記4種類のマクロライド系抗菌薬は、いずれも信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。
気管支拡張薬
[薬名]テオドール/ユニコン/ユニフィルLA(テオフィリン徐放剤)(5)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] この薬は臨床研究によって効果が確認されています。
急性増悪(ぞうあく)時に使用する抗菌薬(外来治療)
[薬名]クラビット(レボフロキサシン水和物)(21)(22)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]シプロキサン(塩酸シプロフロキサシン)(21)(23)(24)(26)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]オゼックス/トスキサシン(トスフロキサシントシル酸塩水和物)(21)(25)
[評価]☆☆☆
[薬名]セフゾン(セフジニル)(21)(27)
[評価]☆☆☆
[薬名]パンスポリンT(セフォチアムヘキセチル塩酸塩)(21)(28)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 感染症を併発し、高度な発熱、激しいせきなど症状が急激に悪化した場合は抗菌薬を用います。痰の培養検査で検出された細菌に効果のある抗菌薬を選択します。
レボフロキサシン水和物、塩酸シプロフロキサシンについては、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。そのほかの薬についても、臨床研究によって効果が確認されています。
急性増悪時に使用する抗菌薬(入院治療)
[薬名]ゾシン(タゾバクタムナトリウム・ピペラシリンナトリウム)(29)(30)
[評価]☆☆☆
[薬名]モダシン(セフタジジム水和物)(29)(30)
[評価]☆☆☆
[薬名]スルペラゾン(セフォペラゾンナトリウム・スルバクタムナトリウム配合剤)(29)(30)
[評価]☆☆☆
[薬名]マキシピーム(セフェピム塩酸塩水和物)(29)(30)
[評価]☆☆☆
[薬名]チエナム(イミペネム水和物・シラスタチンナトリウム)(29)(30)
[評価]☆☆☆
[薬名]カルベニン(パニペネム・ベタミプロン配合剤)(29)(30)
[評価]☆☆☆
[薬名]メロペン(メロペネム水和物)(29)(30)
[評価]☆☆☆
[薬名]クラビット(レボフロキサシン水和物)(29)(30)
[評価]☆☆☆
[薬名]シプロキサン(シプロフロキサシン)(29)(30)
[評価]☆☆☆
[薬名]アザクタム(アズトレオナム)(29)(30)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 呼吸不全をおこすほど症状が悪化した場合には入院し、抗菌薬の点滴静脈注射が必要となります。上記の薬については、臨床研究によって効果が確認されています。
血痰時に使用する止血薬
[薬名]アドナ(カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム水和物)(7)
[評価]☆☆☆
[薬名]トランサミン(トラネキサム酸)(7)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] いずれの薬も臨床研究によって効果が確認されています。
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
痰の排出は有効な治療法
この病気でみられる気管支の拡張は元に戻らないものです。拡張した気管支では浄化作用が低下するため、痰がたまりやすく、感染をおこしやすい環境となります。感染をくり返すと拡張部分がさらに広がりますから、感染の予防は非常に大切です。
痰がたまっていると気道がふさがって呼吸が苦しくなるほか、感染もおこしやすくなります。そこで、気道から痰を排出することが大切です。
胸部の叩打や身体を傾けて痰をだしやすくする体位ドレナージは、コツを身につければかなり有効な治療法となります。
とくに自力で痰を排出できない幼い子どもでは積極的に行います。また、痰の排出を促す薬や気管支拡張薬を用いたネブライザー吸入(スペーサーとネブライザー吸入の項)も有効です。
抗菌薬は症状が落ち着いても継続
感染症を併発した場合は原因となる細菌に効果のある抗菌薬を投与することの重要性が、信頼性の高い臨床研究で確認されています。
また、急性期の感染症状が落ち着いてからも2~3年にわたってマクロライド系の抗菌薬を少量服用すると、肺機能の低下や肺炎などの重い合併症をきたす可能性が小さくなることが臨床研究によって示されています。
重症化したら抗菌薬の静脈注射も
感染症の初期の治療が効果を示さず、重症化した場合には、内服の抗菌薬ではなく、点滴静脈注射を行います。発熱が続いたり、呼吸不全をおこしたりするほど重症になれば入院治療が必要となります。
気管支拡張薬、止血薬も有効
喘息のようなせきがでるときは気管支拡張薬を使用し、血痰がでているときは止血薬を使用して、症状を抑えることも理にかなっていると思われます。
カテーテル治療や手術が適応のことも
喀血が続くときは太ももからカテーテルを挿入して、出血の原因箇所をふさぐ治療(気管支動脈塞栓術)を行うほか、気管支拡張部分が限られている場合は手術によって気管支を切除することもあります。
(1)Flude LJ, Agent P, Bilton D. Chest physiotherapy techniques in bronchiectasis. Clin Chest Med 2012; 33:351.
(2)Murray MP, Pentland JL, Hill AT. A randomised crossover trial of chest physiotherapy in non-cystic fibrosis bronchiectasis. Eur Respir J 2009; 34:1086.
(3)Bott J, Blumenthal S, Buxton M, et al. Guidelines for the physiotherapy management of the adult, medical, spontaneously breathing patient. Thorax 2009; 64 Suppl 1:i1.
(4)Chalmers JD, Smith MP, McHugh BJ, et al. Short- and long-term antibiotic treatment reduces airway and systemic inflammation in non-cystic fibrosis bronchiectasis. Am J Respir Crit Care Med 2012; 186:657.
(5)Pasteur MC, Bilton D, Hill AT, British Thoracic Society Bronchiectasis non-CF Guideline Group. British Thoracic Society guideline for non-CF bronchiectasis. Thorax 2010; 65 Suppl 1:i1.
(6)Martínez-García MÁ, Soler-Cataluña JJ, Catalán-Serra P, et al. Clinical efficacy and safety of budesonide-formoterol in non-cystic fibrosis bronchiectasis. Chest 2012; 141:461.
(7)高橋典明,山口美樹,宮城聖子,他. 気管支拡張症に伴う喀血症例の検討. 気管支学. 1999;21:11-15.
(8)Cremaschi P, Nascimbene C, Vitulo P, et al. Therapeutic embolization of bronchial artery: a successful treatment in 209 cases of relapse hemoptysis. Angiology 1993; 44:295.
(9)Yoon W, Kim JK, Kim YH, et al. Bronchial and nonbronchial systemic artery embolization for life-threatening hemoptysis: a comprehensive review. Radiographics 2002; 22:1395.
(10)Woo S, Yoon CJ, Chung JW, et al. Bronchial artery embolization to control hemoptysis: comparison of N-butyl-2-cyanoacrylate and polyvinyl alcohol particles. Radiology 2013; 269:594.
(11)Cahill BC, Ingbar DH. Massive hemoptysis. Assessment and management. Clin Chest Med 1994; 15:147.
(12)Cahill BC, Ingbar DH. Massive hemoptysis. Assessment and management. Clin Chest Med 1994; 15:147.
(13)Wilkinson M, Sugumar K, Milan SJ, et al. Mucolytics for bronchiectasis. Cochrane Database Syst Rev 2014; 5:CD001289.
(14)Serisier DJ, Martin ML, McGuckin MA, et al. Effect of long-term, low-dose erythromycin on pulmonary exacerbations among patients with non-cystic fibrosis bronchiectasis: the BLESS randomized controlled trial. JAMA 2013; 309:1260.
(15)Tagaya E, Tamaoki J, Kondo M, et al. Effect of a short course of clarithromycin therapy on sputum production in patients with chronic airway hypersecretion. Chest. 2002;122:213-218.
(16)Tsang KW, Roberts P, Read RC, et al. The concentrations of clarithromycin and its 14-hydroxy metabolite in sputum of patients with bronchiectasis following single dose oral administration. J AntimicrobChemother. 1994;33:289-297.
(17)Koh YY, Lee MH, Sun YH, et al. Effect of roxithromycin on airway responsiveness in children with bronchiectasis: a double-blind, placebo-controlled study. EurRespir J. 1997;10:994-999.
(18)Anwar GA, Bourke SC, Afolabi G, et al. Effects of long-term low-dose azithromycin in patients with non-CF bronchiectasis. Respir Med 2008; 102:1494.
(19)Wong C, Jayaram L, Karalus N, et al. Azithromycin for prevention of exacerbations in non-cystic fibrosis bronchiectasis (EMBRACE): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 2012; 380:660.
(20)Altenburg J, de Graaff CS, Stienstra Y, et al. Effect of azithromycin maintenance treatment on infectious exacerbations among patients with non-cystic fibrosis bronchiectasis: the BAT randomized controlled trial. JAMA 2013; 309:1251.
(21)Pasteur MC, Bilton D, Hill AT, British Thoracic Society Bronchiectasis non-CF Guideline Group. British Thoracic Society guideline for non-CF bronchiectasis. Thorax 2010; 65 Suppl 1:i1.
(22)Tsang KW, Chan WM, Ho PL, et al. A comparative study on the efficacy of levofloxacin and ceftazidime in acute exacerbation of bronchiectasis. EurRespir J. 1999;14:1206-1209.
(23)Rayner CF, Tillotson G, Cole PJ, et al. Efficacy and safety of long-term ciprofloxacin in the management of severe bronchiectasis. J AntimicrobChemother. 1994;34:149-156.
(24)Chan TH, Ho SS, Lai CK, et al. Comparison of oral ciprofloxacin and amoxycillin in treating infective exacerbations of bronchiectasis in Hong Kong. Chemotherapy. 1996;42:150-156.
(25)藤森一平,斉藤玲,中山一朗,他. 呼吸器感染症に対するT-3262(tosufloxacintosilate)とofloxacinとの薬効比較試験成績. Chemotherapy. 1989;37:1086-1118.
(26)Begg EJ, Robson RA, Saunders DA, et al. The pharmacokinetics of oral fleroxacin and ciprofloxacin in plasma and sputum during acute and chronic dosing. Br J ClinPharmacol. 2000;49:32-38.
(27)中西洋一,加藤収,日浦研哉,他. 呼吸器感染症におけるCefdinirの基礎的臨床的検討. Chemotherapy. 1989;37:634.
(28)河野茂,井上祐一,真崎美矢子,他. Cefotiamhexetilの呼吸器感染症における基礎的・臨床的評価. Chemotherapy. 1988;36:401-423.
(29)Mandell LA, Wunderink RG, Anzueto A, et al. Infectious Diseases Society of America/American Thoracic Society consensus guidelines on the management of community-acquired pneumonia in adults. Clin Infect Dis 2007; 44 Suppl 2:S27.
(30)American Thoracic Society, Infectious Diseases Society of America. Guidelines for the management of adults with hospital-acquired, ventilator-associated, and healthcare-associated pneumonia. Am J Respir Crit Care Med 2005; 171:388.
出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報