気管切開術(読み)きかんせっかいじゅつ(英語表記)tracheotomy

翻訳|tracheotomy

改訂新版 世界大百科事典 「気管切開術」の意味・わかりやすい解説

気管切開術 (きかんせっかいじゅつ)
tracheotomy

頸部を切開し,気管の前壁に穴をあけて,気道を確保する手術。あけた穴は気管口(気管切開口)と呼ばれ,そこからカニューレという管を入れて,気管口が閉じないようにしておく。気道の狭窄による呼吸困難をはじめ,下気道疾患,麻痺性の呼吸障害などのときや,さらには大手術の際の気道の確保のためなどに行われる。最初の気管切開がいつ行われたかは明らかではないが,アレクサンドロス大王が剣を用いて行ったという言い伝えがあり,また古代人がすでに行っていたというギリシア時代の記録もあるという。しかし,はっきりと記録された最初の例は,1826年にフランスのブルトノーPierre Bretonneau(1778-1862)が5歳の女子のジフテリアによる気道閉塞(気道がつまること)に対して行ったものとされている。このように気管切開は,初め気道狭窄に対して行われたが,現在ではこの手術によって,呼吸時の抵抗が減り,分泌物除去が容易になり,呼吸の調節も可能になることから,前述のように広い目的に行われるようになった。気管切開は呼吸困難やそれが予想される場合に行うが,できるだけ非緊急時に行うのが安全で好ましく,前もって鼻や口からチューブを気管内に入れ,気道を確保する。しかし,口があかない人や首の骨に外傷がある人などではそれができず,そういう人たちが緊急状態のときは,気管が皮膚表面に近く,解剖学的に危険が少ない場所(のど正中線と上から2番目の首のしわとが交わるところ)を切開したり(輪状甲状靱帯切開),太い注射針を多数刺して気道を確保してから,気管切開を行うこともある。

 カニューレは2日目から交換するが,気管切開の必要な状態がなくなったときには,カニューレを外し,気管口をせばめる形で絆創膏をはっておくと,ふつうは10日内外で穴がふさがる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「気管切開術」の意味・わかりやすい解説

気管切開術
きかんせっかいじゅつ
tracheotomy

気管を頸部で切開して気道にバイパスをつくる手術。上気管切開と下気管切開とがある。前者はおもに成人後者小児に実施されることが多い。重篤な呼吸困難の際の救急対策のほか,下気道や肺からの分泌物が喀出されにくいとき,意識障害が長く続いているときなどに気管内挿管に続いて行われることが多い。また,咽頭,喉頭,鼻腔の大手術に際して,予備的に行われる場合もある。

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世界大百科事典(旧版)内の気管切開術の言及

【ミュラー】より

…ミュラーは文部卿のすぐ下にあって,他の日本人の指示を受けない絶大な権力をもって医学教育と診療にあたり,予科3年,本科5年の本格的な医育制度を推進した。外科を主とし,エスマルヒ駆血法,気管切開術などを日本に導入したほか,産婦人科や眼科をも教えた。74年満期となり,宮内省御雇に転じ,75年帰国,ベルリンの廃兵院院長となった。…

※「気管切開術」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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