民変(読み)みんぺん(英語表記)mín biàn

改訂新版 世界大百科事典 「民変」の意味・わかりやすい解説

民変 (みんぺん)
mín biàn

中国の民衆暴動であるが,とくに明末・清初に頻発した都市の住民を主体とした暴動をいう。明末(16~17世紀)の中国では,農村の家内副業として養蚕製糸,絹織,紡績,織布などが江南を中心に発展し,蘇州などの町が手工業ないし商業都市として繁栄しており,新興の諸産業に従事する庶民層が台頭しつつあった。彼らは初期的な賃労働者であり,蘇州だけで数万人にのぼった。当時,明朝の支配体制は財政的にゆきづまっていたから,この危機を打開するため,1596年(万暦24)以後宦官が税監として各地に派遣され,銀山の開発や商税の増徴が行われた。〈礦税の禍〉とよばれるものである。このような収奪に反対して,手工業労働者を中心とする広範な民衆は激しく抵抗した。これが民変であるが,その代表的な事例として,1601年に蘇州で起こった〈織傭の変〉がある。これには織工約2000人が参加し,税監を追放して商税の廃止をかちとったが,彼らの行動は,一部の知識人や官僚からも支持されていた。民変は蘇州のみにとどまらず,北京をはじめ,臨清,武昌,漢陽,広州などの大都市から,有名な窯業地である景徳鎮にまで,ほぼ全国的に広がり,17世紀の30年代にいたってようやく終息した。これらの民変は,明朝の末期的症状の表れであると同時に,15~16世紀以来,発展しつつあった社会経済の必然的な産物として,固有の時代性をもつ闘争と認められている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「民変」の意味・わかりやすい解説

民変
みんぺん

中国、明(みん)末の万暦・天啓・崇禎(すうてい)年間(1573~1644)に起こった都市民衆暴動をいう。ただし、これは日本での慣用であり、中国では、明・清(しん)時代、地域の民衆の地方官憲に対する暴動を広く民変といっている。嘉靖(かせい)年間(1522~66)、華中・華南、大運河の沿辺における都市では、商工業の発達を背景に、「市民」「市人」と称される都市住民が増大し、共通の利害に対する自覚が生まれた。夜間巡回の労役廃止運動を妨害する一群郷紳(きょうしん)を襲撃した1582年の杭州(こうしゅう)民変、宮廷経費の不足を補うため行われた商品通行税・営業税の急激な増徴と徴税を担当した宦官(かんがん)の無道とに反対して臨清(山東)や蘇州(そしゅう)など全国の大都市で広く展開された反税反宦官民変。都市住民の利害に同情的な良識派の郷紳への政治的弾圧に抗議した1626年の蘇州の開読(かいどく)の変は、その代表的なものである。民変は、同じころから活発になった都市住民の食糧暴動や手工業職人の賃上げストライキなどとともに、商品生産の発展と民衆の社会的力量の向上を体現しており、それまでの中国史上の民衆運動とは異なる新しい性格を帯びていた。

[森 正夫]

『谷川道雄・森正夫編『中国民衆叛乱史4』(平凡社・東洋文庫)』

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「民変」の解説

民変(みんぺん)

中国の明末清初期に,都市を舞台に発生した民衆暴動。万暦(ばんれき)帝は,を獲得するために各地の都市や鉱山に宦官(かんがん)を派遣して,流通過程に大増税を行った(鉱・税の禍)。このため1599年以降,臨清,蘇州,武昌などでは,中央から派遣された宦官を対象に商工業者や読書人による反宦官闘争が頻発した。また1582年,都市の夜警負担の不公平是正を求めて発生した杭州民変では,改革に反対する郷紳(きょうしん)などの特権者が攻撃の対象となった。背景には,商品流通が拡大し,結節点となる都市の役割が重要となる一方,都市民衆の意識も高まったことがあげられる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「民変」の意味・わかりやすい解説

民変
みんぺん
min-bian; min-pien

中国における民衆暴動。歴史的には明末から清初の都市の民衆を主体とする暴動をいう。明末の中国では生産力が発展し,江南デルタ地帯を中心に養蚕製糸業,絹織物業,綿織物業や各種手工業が発達した。しかし財政難に苦しむ明朝は宦官を各地に派遣し,銀山の採掘や各種手工業製品に商税を課し誅求を行なった。これに対し各都市の手工業労働者や一般市民が暴動を起して反抗した。なかでも万暦 29 (1601) 年蘇州に起った織傭 (しょくよう) の変や,天啓6 (26) 年同じく蘇州に起った開読の変は有名である。

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普及版 字通 「民変」の読み・字形・画数・意味

【民変】みんぺん

暴動。

字通「民」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の民変の言及

【中国】より

…ベトナムのある歴史家は,旧ベトナムにおける人民と密接に接触する読書士大夫たちと官僚士大夫たちについて,ピープルの儒教とマンダリンの儒教とを区別し,反フランス闘争などにおけるピープルの儒教の役割を強調したが,この区別は中国においても有用なのではないかと思われる。明代の民変(悪役人などへの人民の反抗的騒擾(そうじよう)事件)などの先頭に立ったのは多くは生員であった。民変は実は士変だ,という声のあったゆえんである。…

※「民変」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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