民事訴訟法
みんじそしょうほう
実質的意義と形式的意義とがあり、前者においては、民事訴訟手続ならびに民事訴訟関係を規律する法規範など民事訴訟に関するいっさいの法規を総称し、後者においては、成文法としての民事訴訟法典をさす。
民事訴訟は、私法実体法上の権利の具体化を担保する法律制度であるから、法律秩序の万全を期するために相対的便宜よりも普遍的公平を旨とする必要がある。そこで国によって規定内容が若干異なるけれども、一般的に民事訴訟に関する法規は、大部分が強行法であり、かつ手続を規律する形式的規範がその主要な部分を占めている。そのほか、裁判所の構成・権限、当事者の能力・代理など、訴訟主体に関する事項および各主体間の訴訟関係に関する規定も、そのなかに包括されている。
日本においては、この成文法として1890年に「民事訴訟法」(明治23年法律第29号)が制定された。この法典は、ドイツ人テヒョーHermann Techow(1838―1909)が1877年のドイツ民事訴訟法をもとに起草したものであった。まもなく改正の動きが始まり、その第1編ないし第5編が1926年(大正15)の改正によって全面的に書き改められ(1929年10月1日施行)、その後もいくつかの改廃がなされた。第二次世界大戦後は、英米法の影響を受けて若干の改正が加えられ、さらに1979年(昭和54)「民事執行法」の制定に伴い、旧第6編強制執行の大部分が、また1989年(平成1)「民事保全法」の制定に伴い、旧第6編に規定されていた仮差押え・仮処分の部分が削除された。
[内田武吉・加藤哲夫 2016年5月19日]
明治時代に制定された民事訴訟法は、何度か改正されたものの、国民にわかりにくい、現代の複雑な民事紛争に適合していない、手続に費用と時間がかかりすぎるなどの問題があった。そのため1996年(平成8)に新たな「民事訴訟法」(平成8年法律第109号)が制定され(1998年1月1日施行)、現代の社会に適合するよう規定が整備されるとともに条文も平仮名現代語表記となった。
現行民事訴訟法では、「口頭弁論の充実」「審理の促進」の観点から争点証拠整理手続(同法164条以下)についてその充実が図られ、文書提出義務の対象文書の拡大など証拠収集手続が拡充された。また、訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えについて当事者の経済的・時間的負担を軽減した少額訴訟手続(同法368条以下)や、最高裁判所の負担を軽減し重要な事件の審理を充実させるため最高裁への上告を制限した上告受理制度(同法318条)などが創設された。同法は、第1編総則、第2編第一審の訴訟手続、第3編上訴、第4編再審、第5編手形訴訟及び小切手訴訟に関する特則、第6編少額訴訟に関する特則、第7編督促手続、第8編執行停止、附則からなっており、400か条余を擁する大型法典で、いわゆる六法の一つである。
なお1996年の改正で、旧民事訴訟法の新法に相当する部分は削除された。旧法に存在した公示催告手続は2004年に「非訟事件手続法」(明治31年法律第14号)第3編に移され(さらに2013年、新「非訟事件手続法」平成23年法律第51号の第4編に移動)、また仲裁手続は「仲裁法」(平成15年法律第138号)により規定されることとなった。
実質的意義における民事訴訟法には、前記のほかおもなものとして、裁判所法、民事訴訟費用等に関する法律、民事執行法、民事保全法、弁護士法、人事訴訟法、破産法、民事再生法などの法律や民事訴訟規則などが含まれる。また独立の法令としてのほかに、民法、商法などのうちにも民事訴訟法に関する規定がある。
[内田武吉・加藤哲夫 2016年5月19日]
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民事訴訟法
みんじそしょうほう
形式的意義では民事訴訟法 (平成8年法律 109号) をさし,実質的意義では民事裁判の手続を規律する法規の総体をいう。実質的意義における民事訴訟法には,民事訴訟法のほかに,裁判所法,弁護士法,民事訴訟規則,民事訴訟費用等に関する法律,人事訴訟手続法などが含まれる。民事訴訟法は,私人間の紛争を解決するための法規であるという点で民法,商法などと同じく民事法に属し,他方,国家機関たる裁判所が国民に対して裁判権を行使する場合の手続を定めるものである点で公法に属するとされている。なお,上記の平成8年法律 109号は従前の明治 23年法律 29号の法文を現代語化し,条文の配列も手続の流れにそって改められたものである。同時に少額訴訟手続などが新たに導入され,争点整理手続の整備,証拠収集手続の拡充なども盛り込まれた。また,テレビ会議・電話会議システムの導入など民事訴訟手続の OA化対応もはかられた。
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民事訴訟法【みんじそしょうほう】
民事訴訟の手続を規律する法として,形式的には同名の法律(1890年公布,1891年施行,1926年全面改正)をさすが,実質的には民事訴訟制度を規律する法規の総体を意味し,このほか裁判所法,弁護士法,人事訴訟法,行政事件訴訟法,破産法などが含まれる。民事訴訟法は1996年に全面的に改正され,全条文が平仮名・口語体となり,これを特に新民事訴訟法と呼ぶことがある(1998年施行)。改正された主な点は,争点整理手続の整備,証拠収集手続の拡充(当事者照会,文書提出命令など),少額訴訟手続の創設,最高裁判所への上告制限,許可抗告制度の採用などである。
→関連項目行政訴訟|国際民事訴訟法|訴訟法|民事保全法
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みんじ‐そしょうほう ‥ソショウハフ【民事訴訟法】
〘名〙
① 民事訴訟に関する手続を定めた法律。明治二三年(一八九〇)に公布され、大正一五年(一九二六)に全面的に改正。昭和五四年(一九七九)民事執行法の制定に伴い、強制執行の部分を削除。平成元年(一九八九)には仮差し押さえ・仮処分の部分が民事保全法として独立。平成八年に大改正し、条文が現代語化された。
② 民事裁判の組織・手続を定めた法規の総称。民事訴訟法のほか民事訴訟規則、民事執行法、裁判所法、人事訴訟手続法などがある。〔英和外交商業字彙(1900)〕
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デジタル大辞泉
「民事訴訟法」の意味・読み・例文・類語
みんじ‐そしょうほう〔‐ソシヨウハフ〕【民事訴訟法】
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民事訴訟法
みんじそしょうほう
私法上の権利保護や違法な行政処分の取消・変更を求める訴訟手続きを定めた法律
六法の一つ。1890年ドイツ法を模範として制定し,'91年より施行。1926年に全面的な改正が行われ('29年施行),第二次世界大戦後,英米法的見地からの改正がなされた。
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みんじそしょうほう【民事訴訟法】
二つの意味があるが,その一つは,〈民事訴訟法〉(1890公布)という名の法典をさす(これを形式的意義の民事訴訟法という)。もう一つは,民事訴訟の手続を規律するすべての法規をさす(実質的意義の民事訴訟法)。 実質的意義の民事訴訟法は,〈私法〉および〈裁判法〉とあいまって国家制度としての民事訴訟制度を成り立たせているものであり,これには,形式的意義の民事訴訟法のほか,〈民事訴訟費用等に関する法律〉(訴訟費用),人事訴訟手続法(人事訴訟),行政事件訴訟法(行政訴訟),破産法(破産),和議法(和議),会社更生法等の諸法律,さらに種々の最高裁判所規則(民事訴訟規則のほか民事執行規則,民事保全規則等がある)の形で存在している。
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