比良山地(読み)ひらさんち

日本歴史地名大系 「比良山地」の解説

比良山地
ひらさんち

湖西の中央部から北部にかけての約三〇キロにわたって南北に連なる山地。東斜面は琵琶湖、西斜面は安曇あど川上流域に面し、大津市、滋賀郡志賀町、高島郡高島町・朽木くつき村・安曇川あどがわ町などにわたる。「万葉集」巻九に「楽浪の比良山風の海吹けば釣する海人の袖かへる見ゆ」と詠まれ、同書巻七の「ささなみの連庫山に雲居れば雨そ降るちふ帰り来わが背」とある連庫なみくら山も当山の異名という。主峰武奈ぶなヶ岳(一二一四・四メートル)をはじめ、南より霊仙りようぜん山・権現ごんげん山・蓬莱ほうらい山・打見うちみ山・比良岳・烏谷からと山・堂満どうまん岳・釈迦しやか岳・釣瓶つるべ岳などの高峰が連なるさまを詠じたのであろう。また冬から春先にかけて吹く北西の強い風比良八荒を詠込んだ「千載集」「新古今集」の歌も知られ、雪景色は「比良暮雪」として近江八景の一つ。「万葉集」巻一の額田王の歌に付された後注に「比良の宮」とあり、大化四年(六四八)皇極天皇が行幸したことがわかるが、同天皇が重祚したあとの斉明天皇五年(六五九)にも「近江の平浦」に行幸しており(「日本書紀」同年三月三日条)、比良が朝廷にも知られた景勝の地であったといえよう。

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改訂新版 世界大百科事典 「比良山地」の意味・わかりやすい解説

比良山地 (ひらさんち)

滋賀県西部の山地。南北に伸びて近江盆地の西縁を画する。東側は急崖をなして琵琶湖に接し,崖のふもとに多くの扇状地が発達する。西側は安曇(あど)川が流れる花折(はなおれ)断層谷によって西の丹波高地と分けられる。南北の長さ約15km,幅3~10km,最高峰は中央部の武奈ヶ嶽(1214m)。近畿地方内帯の中部にある鈴鹿山脈生駒山地と同じく鮮新世~更新世の六甲変動によって隆起した地塁山地で,東側は花コウ岩,西側は古生層よりなる。武奈ヶ嶽や打見山(1100m),蓬萊山(1174m)など残丘状の峰の周辺には隆起した準平原遺物と考えられる小起伏面がある。武奈ヶ嶽の近くには八雲ヶ原湿原や河川争奪の跡を示す地形があり,湿原にはモリアオガエルなど多種の動物,湿原植物がみられる。冬の北西季節風が吹きおろす比良おろしは〈比良八荒〉とよばれる。近江八景の一つ〈比良の暮雪〉や琵琶湖岸の保養地近江舞子などの景勝に恵まれ,琵琶湖国定公園に含まれている。なお,花折断層谷には花折峠(591m)や豪族朽木(くつき)氏の領した朽木集落(高島市)があり,古来京都と近江を結ぶ要衝であった。現在,谷に沿って国道367号線が通じている。
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百科事典マイペディア 「比良山地」の意味・わかりやすい解説

比良山地【ひらさんち】

滋賀県西部の傾動地塊。標高1000m以上の断層崖急斜面琵琶湖に向けて南北に連なる。最高峰は武奈(ぶな)ヶ岳で標高1214m。奈良時代後半より平安前期にかけて,南都系または天台系の山岳寺院が多く建立される霊場となる。また《千載集》などに詠まれ,比良暮雪は近江八景の一つ。頂上付近は高原状で展望がよく,ハイキング,スキーに好適。
→関連項目葛川志賀[町]滋賀[県]高島[町]琵琶湖国定公園

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「比良山地」の意味・わかりやすい解説

比良山地
ひらさんち

滋賀県の琵琶(びわ)湖西岸から京都府境に連なる山地。東西3~10キロメートル、南北約15キロメートルの地塁山地で、北部が広く南部が狭い。東は急崖(きゅうがい)で湖岸に臨み、西は安曇川(あどがわ)の谷によって丹波(たんば)高地と分かれ、北は野坂山地、南は比叡(ひえい)山地に続く。山頂は1000メートル前後の平坦(へいたん)面からなり、古生層の粘板岩、砂岩、チャートからなる西半部には、武奈(ぶな)ヶ岳(1214メートル)、釣瓶(つるべ)ヶ岳(1093メートル)、白滝(しらたき)山(1020メートル)など、またおもに花崗(かこう)岩からなる東半部には、蓬莱(ほうらい)山(1174メートル)、打見(うちみ)山(1103メートル)、釈迦(しゃか)ヶ岳(1060メートル)などの高峰がある。高燥湿原の八雲ヶ原や八淵(やち)ノ滝、楊梅(ようばい)ノ滝などの観光資源に恵まれ、「比良の暮雪」として近江八景(おうみはっけい)の一つにもあげられ、中心部は琵琶湖国定公園に含まれる。登山、ハイキング、スキーに訪れる人が多く、ゴンドラやリフトなどの施設も整っている。一方、春先に季節風の比良おろしが吹いて気温の下がることが多く、「比良の八講(はっこう)の荒れじまい」という諺(ことわざ)がある。

[高橋誠一]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「比良山地」の意味・わかりやすい解説

比良山地
ひらさんち

滋賀県西部,琵琶湖西岸にある地塁山地。最高峰は武奈ヶ岳 (比良山) で標高 1214m。おもな山に蓬莱山 (1174m) ,打見山 (1100m) ,白滝山 (1012m) ,権現山 (996m) ,堂満岳 (1057m) などがある。東側は急崖で琵琶湖に面し,西側には花折断層があり,安曇 (あど) 川で丹波山地と区分される。南側は和邇川をはさんで比叡山地に接続。山地北部は東西2列の山稜から成り,西側を北主稜 (奥比良) といい自然林が深い。東側は東主稜 (表比良) で,頂上付近には湿原など高原状地形が広がる。原生林,八雲ヶ原湿原がある。「比良暮雪」で知られる近江八景の一つ。大部分は琵琶湖国定公園に属する。

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