精選版 日本国語大辞典 「殿」の意味・読み・例文・類語
との【殿】
〘名〙
[一] 建物。
① 身分の高い人の住む大きな邸宅。また、宮殿、社殿あるいは役所など公の建物。
② 建物としての邸宅と、そこに住む貴人をふくめていう。
※万葉(8C後)一四・三四三八「都武賀(つむが)野に鈴が音聞こゆ上志太の等能(トノ)の仲郎(なかち)し鳥猟(とがり)すらしも」
[二] 邸宅の意から、その邸宅に住む人をさしていう。
① 一般に、身分の高い人を尊んでいうのに用いる。
※枕(10C終)二五「外(ほか)よりきたる者などぞ、とのはなににかならせ給ひたる、などとふに」
② 中古には、特に摂政・関白の地位にある人の敬称として用いる。
※枕(10C終)一〇四「との・上、暁に一つ御車にてまゐり給ひにけり」
③ 中世以降、主君、主人をさしていう。
※源平盛衰記(14C前)二〇「殿を見捨てて家安が生き残りては何にかせん」
④ 妻から夫をさしていう敬称。
※宇治拾遺(1221頃)六「あまりに恋しくかなしくおぼえて、殿は同じ心にもおぼさぬにや、とてさめざめと泣く」
⑤ 女から男をさしていう。やや敬っていういい方。とのご。
※虎明本狂言・二人大名(室町末‐近世初)「京に京にはやるおきゃがりこぼしやよ、とのだに見ればつひころぶ」
しん‐がり【殿】
〘名〙 (「後駆(しりがり)」の変化した語)
① 軍が退却するとき、軍列の最後にあって敵の追撃に備えること。また、その軍隊。あとぞなえ。しっぱらい。
② 隊列・序列・順番などの最後につくこと。また、そのもの。最後尾。いちばんあと。最下位。しっぱらい。
どの【殿】
〘接尾〙 (名詞「との(殿)」が接尾語化したもの)
② 人名、官職名などに付けて、敬意を表わす。古くは、「関白殿」「清盛入道殿」などかなり身分の高い人に付けても用いたが、現代では、官庁など公の場で用いるほか、書面などでの形式的なもの、または下位の者への軽い敬称としても用いる。
※源氏(1001‐14頃)若菜上「誠楽に右大臣殿のきたのかたもわたり給へり」
[語誌]官職名を持つ人物に対して、その官職名に付けたが、鎌倉末期には官職のない人物に対して、人名に付ける用法も起こり、「殿」の敬意は低下した。そして「殿」に代わって十分な敬意を表わせる「様」の使用が盛んになる。
でん【殿】
〘名〙 (「てん」とも。「でん」は呉音、「てん」は漢音)
① 貴人の邸宅または社寺などの建物。たかどの。
※古事談(1212‐15頃)二「小野宮殿為二尊者一。殿きたなげ也」 〔漢書‐賈山伝〕
② 律令制で、官人の考課(勤務成績評価)の等級(九等考第)を決定する場合の要素の一つ。評価を低くする要素。官人が公罪、私罪を犯して贖銅(しょくどう)で罪を償う場合、私罪は贖銅一斤、公罪は贖銅二斤を一負とし、十負を一殿とする。一殿につき考第を一等ずつ下げる規定であった。〔令義解(718)〕
あら‐か【殿】
〘名〙 (「在処(あらか)」の意。「御(み)」を伴って用いられることが多い) 宮殿。居所。→みあらか。
※古語拾遺(嘉祿本訓)(807)「端殿 古語にはみづのみ阿良可(アラカ)といふ」
[語誌]古く神、天皇の宮殿、居所をいい、挙例のように、当時すでに古語となっており、以後文献には、「日本書紀」の古訓にミヤラカなどと見えるぐらいである。また、元来は瑞(みづ)のあらわれるところ「顕処(あらか)」の意と考える説もある。
でん‐・す【殿】
〘自サ変〙 しんがりをつとめる。あとおさえとなる。
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