殿上闇討(読み)てんじょうのやみうち

改訂新版 世界大百科事典 「殿上闇討」の意味・わかりやすい解説

殿上闇討 (てんじょうのやみうち)

平曲の曲名。平物(ひらもの)。平忠盛は,鳥羽院の念願にこたえて得長寿院を造立した功により,36歳で初めて昇殿を許された。殿上人(てんじようびと)たちがそれを不快に思い,五節(ごせち)の豊明節会(とよのあかりのせちえ)のおりに忠盛を闇討ちにしようと計画した。それを知った忠盛は大きな太刀を帯びて参内し,また郎等の家貞が庭前の片隅に控えたりしたので,闇討ちは実行されなかった。節会の宴で,人々は〈伊勢の瓶子(へいし)は酢瓶(すがめ)なりけり〉と歌って,伊勢平氏の忠盛が眇目(すがめ)(斜視)であることをからかった(〈中音(ちゆうおん)・初重(しよじゆう)〉)。忠盛は手持ちぶさたで宴半ばに退出したが,例の太刀は主殿司(とのもづかさ)に預けて帰った。五節には,〈白薄様(しろうすよう)こぜんじの紙〉などと歌うものだが,色の黒い人をからかって〈あな黒くろ,黒き頭(とう)かな〉と歌い変えたような先例もあったのである(〈中音・初重〉)。後日,帯剣した件と家貞が庭に入った件が問題になったときに,忠盛の陳弁は,譜代の郎等が万一を思ってしたことで自分は知らなかったし,刀の件は実物を調べてほしいというので,取り寄せてみると,木太刀だった。上皇はかえってその機転をほめ,家貞の件も武家のならわしとして咎めはなかった。

 中音,初重などの旋律的な曲節で五節の宴のようすを描き,忠盛や家貞の言葉を折リ声,強ノ声(こうのこえ)などの歯切れのよい曲節で語らせて,両者対照のおもしろさをねらっている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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