殆・幾(読み)ほとんど

精選版 日本国語大辞典 「殆・幾」の意味・読み・例文・類語

ほとんど【殆・幾】

[1] 〘副〙 (「ほとほと(殆)」の変化したもの。→「ほとほと(殆)」の語誌)
① すっかりそうなるわけではないが、事態が進んでそれに非常に近い状況になるさまを表わす。もう少しのところで。すんでのことに。あやうく。
※俳諧・俳諧十論(1719)三「ほとんど我門の破滅におよばんとす」
② まったくというわけではないが、比率的に見て大体そういう状態であるさまを表わす。大方。あらかた。
※屋代本平家(13C前)二「既に十二三日と云は、殆(ホトント)鎮西へ下向ござんなれ」
※花柳春話(1878‐79)〈織田純一郎訳〉一四「人此間に在るときは心体共に衰えざる者幾(ホト)んど希なり」
③ 事態の継続によってその状態が切実になるさまを表わす。ほんとうに。
浄瑠璃伽羅先代萩(1785)九「終日対決に拙者殆(ホトン)ど疲れ申す」
④ 一般に、感じたり喜んだりするさまが切実であることを表わす。まったく。非常に。
※評判記・役者評判蚰蜒(1674)伊藤小太夫「いとどよだれもたらちねのとっさまかかさままでほとんどおなつかしい心地ぞする」
[2] 〘名〙 多くの中の大部分。十中八九。
※現代広告字体撰集(1926)〈本松呉浪〉一「殆(ホト)んどの場合に、広告物には標題キャッチフレーズ等の可なりの大文字を必要とされる」

ほと‐ほと【殆・幾】

〘副〙 (古く「ほとほど」「ほとおと」とも。「に」または「と」を伴って用いることもある)
① すっかりそうなるわけではないが、事態が進んでそれに非常に近い状況になるさまを表わす語。もう少しのところで。すんでのことに。あやうく(…するところだ)。ほとんど。
書紀(720)雄略一三年九月(前田本訓)「幾(ホトほと)に人を失ひつる哉(かな)
② まったくというわけではないが、比率的に見て大体そういう状態であるさまを表わす語。大方。ほとんど。
※宇治拾遺(1221頃)四「法文の事をいふに、智海ほとほと云まはされけり」
③ 切実であるさまを表わす語。苦しい事態や悪い状況が続いて、困惑したり、うんざりしたりする場合にいうことが多い。ほんとうに。まったく。
※滑稽本・人間万事虚誕計‐前(1813)喜怒哀楽虚誕之略図「イヤもう何が不景気で、ほとほと致します」
[語誌](1)辺や側を示す「ほとり」の語基「ほと」の畳語で、「境界をなす部分(周縁)において」が原義
(2)上代には「に」を伴う用法が主であったが、中古以降「に」を伴わない用法が優勢となる。ただし、訓点資料では、平安鎌倉時代を通じて「に」を伴っても用いられる。和文・漢文訓読ともに使用され、訓点資料では、「殆」「幾」字の訓に当てられた。
(3)院政期から鎌倉時代にかけて「ほとほど」「ほとをと」となり、室町中期以降「ほとんど」の形をとり、今日に至る。

ほとほと‐し【殆・幾】

〘形シク〙 (「ほとおとし」の時代も)
① ほとんどそうしそうである。もうすこしでそうなるところである。
万葉(8C後)七・一四〇三「御幣帛(みぬさ)取り神の祝(はふり)がいはふ杉原薪(たきぎ)伐り殆之国(ほとほとシくに)手斧取らえぬ」
② すんでのところで死にそうである。生命があぶない。危篤である。
※後撰(951‐953頃)雑三・一二四八・詞書「久しうここちわづらひてほとほとしくなん有りつる」
③ 危険が非常にさし迫っている。きわめてあやうい。無事でいられそうにない。
※拾遺(1005‐07頃か)雑恋・一二二六「宮造る飛騨のたくみのてをのおとほとほとしかるめをもみしかな〈藤原国用〉」

ほとと【殆・幾】

※枕(10C終)二三「ほとと継ぎ目も放ちつべし」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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