此処・此所・此・是・爰・茲(読み)ここ

精選版 日本国語大辞典 の解説

こ‐こ【此処・此所・此・是・爰・茲】

〘代名〙
[一] 他称。話し手側、すなわち相手に対する我の側、相手を含んだ我々の側の場所、事物などをさし示す(近称)。
① 現在の場所を示す。
(イ) この所。この場所。
万葉(8C後)一五・三七五七「あが身こそ関山越えて許己(ココ)にあらめ心は妹によりにしものを」
徒然草(1331頃)四一「『ここへ入らせ給へ』とて、所を去りて呼び入れ侍りにき」
(ロ) 異国に対して、この国。日本。
※土左(935頃)承平五年一月二〇日「かの国人、聞き知るまじくおもほえたれども、〈略〉ここのことば伝へたる人にいひ知らせければ、心をや聞きえたりけん、ひとおもひのほかになん愛(め)でける」
源氏(1001‐14頃)若菜上「紫檀の箱一よろひに、唐の本ども、ここの草(さう)の本などいれて」
(ハ) 別世界や来世に対して、この世。現世
※源氏(1001‐14頃)御法「後の世には同じはちすの座をも分けんと契りかはし聞え給て、頼みをかけ給ふ御中なれど、ここながらつとめ給はんほどは」
事柄、時点、状況、場合などをさし示す。
(イ) (話し手が強く意識する) このこと。この点。この時。この場合。「ここに」の形では、副詞のようにも用いる。
古事記(712)中・歌謡「苛(いら)なけく そこに思ひ出 愛(かな)しけく 許許(ココ)に思ひ出 い伐らすそ来る 梓弓まゆみ」
※源氏(1001‐14頃)東屋「心に入れて見給へるほかげ、さらにここと見ゆる所なく、細かにをかしげなり」
(ロ) 事態が進展して来たところ、到達点、限界点をさす。
太平記鈔(1596‐1624頃)一「以上治承四年庚子よりここに至るまで百五十四年なり」
③ 現在を中心として、比較的近い時間帯の内をさし示す。→此処の所
露芝(1921)〈久保田万太郎〉四「それからここ五年あまりになる」
④ 話し手側の人をさす。
末枯(1917)〈久保田万太郎〉「先刻、一人ではじめようと思ってたところへ思ひがけなくここが来てくれましてね」
[二] 対称。話し手の近くの場所にいる人をさす。親愛の意を含めて用いる。
※源氏(1001‐14頃)梅枝「さはありとも、かの君と、前の斎院と、ここにとこそは、書き給はめ」
[三] 自称。話し手自身をさし示す。この身。
※竹取(9C末‐10C初)「ここにも心にもあらでかく罷るに、昇らんをだに見送り給へ」
※栄花(1028‐92頃)楚王の夢「御乳母小式部の君は『ここをば捨てさせ給ひつるか。御供に参らん御供に参らん』と泣きののしる」
[語誌](1)話し手の近くを指し示す指示語「こ」に場所を表わす接尾語「こ」が付いた形で、「そこ」「かしこ」「いづこ」などと系列をなす。原義は話し手が現在存在する相対的な場所であるが、相対性を失って(一)①(ロ)の意や(一)①(ハ) の意を表わすようにもなった。
(2)(一)②は場所に時間も含めて抽象化し、広く状況、文脈等を表わすようになったもので、さらに、(一)③は場所性を失い、時間だけを指し示す用法で、近代になって現われたものである。
(3)(二)および(三)は「ここにいる人」という意味から間接的に一・二人称を表わすようになったもので、これらがしばしば「に」を伴うのは、場所性が完全に失われていないことを示している。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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