日本大百科全書(ニッポニカ) 「正本(法律)」の意味・わかりやすい解説
正本(法律)
せいほん
正本は次の二つの異なる意味で用いられる。
(1)本来の目的のほかに保管や送達などの必要から、同じ文書が複数作成されることがある。このうち、本来の目的に用いられるものを正本といい、その他の目的に用いられるものを副本とよぶ。たとえば、戸籍簿は法務局で保管される副本に対して正本は市町村役場に備えられ(戸籍法8条)、訴状は被告への送達に供される副本に対して正本は裁判所に留め置かれる(民事訴訟規則58条1項)。正本と副本は同一内容であり、同じように署名等がなされるから、ともに原本の一種である。
(2)原本の写しであるが、公証権限のある公務員(裁判所書記官、公証人など)によって作成され、法律上原本と同一の効力が認められた文書をいう。正本は、強制執行などの権利行使にあたり原本を必要とする利害関係人に対して、法律上一定の場所に保管すべきものと定められている原本にかえて与えられる。民事訴訟(行政訴訟)の判決は正本が送達され(民事訴訟法255条2項)、公正証書は強制執行や登記手続で必要となるため正本が交付される(公証人法47条)。なお、正本は通例、原本の全部について作成されるが、原本の一部の正本もある(公正証書の抄録正本。公証人法49条)。
[髙木敬一]