止事無(読み)やんごとない

精選版 日本国語大辞典 「止事無」の意味・読み・例文・類語

やんごと‐な・い【止事無】

〘形口〙 やんごとな・し 〘形ク〙 (「止む事無し」が一語の形容詞に転じた語。「やむごとなし」とも表記)
① やむを得ない。よんどころない。なおざりにできない。打ち捨てておかれない。
※後撰(951‐953頃)春上・一三・詞書「やむごとなき事によりてまかりのぼりにけり」
② ひと通りでない。並々でない。重々しい。権威がある。格別である。特別である。
落窪(10C後)四「おほやけのやんごとなからんまつり事にまゐらでは、いと便なかるべし」
更級日記(1059頃)「親となりなば、いみじうやむごとなく我が身もなりなむ」
地位家柄などが第一流である。高貴である。
伊勢物語(10C前)一〇〇「あるやむごとなき人の御局より」
④ 貴重である。尊い。もったいない。恐れ多い。
※宇津保(970‐999頃)あて宮「いささかなることも、殿のし給ふ度ごとに参らぬはなきを、やんごとなきことにしも、まうでざらん」
やんごとな‐げ
〘形動〙
やんごとな‐さ
〘名〙

やごと‐な・い【止事無】

〘形口〙 やごとな・し 〘形ク〙 (「やんごとない」の「ん」の無表記から)
① なおざりにできない。重大である。恐れ多い。
※宇津保(970‐999頃)国譲中「殿の御為にや事なき事なり」
身分が高い。高貴である。
源氏(1001‐14頃)玉鬘「まいて、や事なきつらにこそあらざらめ」
気品がある。優雅である。
※虎明本狂言・牛博労(室町末‐近世初)「其時やことなきどうじ一人参りて申やう、われは此山の木の精なり」

ようごと‐な・し やうごと‥【止事無】

※恵慶集(985‐987頃)「あるやうごとなき所より、菊のうつろへるを戴き参れば」
[補注]「やむごとなし」と同様に、平安時代「う」「む」は、はねる音「ン」を表わす仮名としての用法があり、「ようごとなし」と発音されたものではない。

やごつ‐な・し【止事無】

〘形ク〙 「やごとなし(止事無)」の変化した語。
※宇治拾遺(1221頃)二「さすがに、やごつなき所の衆どものすることなれば、破りてもえ通らぬに」

やむこと‐な・し【止事無】

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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