(読み)き

精選版 日本国語大辞典 「機」の意味・読み・例文・類語

き【機】

[1] 〘名〙
① 機械。装置。からくり
太平記(14C後)二〇「千鈞の弩(ど)は鼷鼠(けいそ)の為に機(キ)を発せず」 〔説文〕
② はたおり機械。織機。〔史記‐甘茂伝〕
③ 事の起こり、または発する場合。いとぐち。おり。機会
※蒙古襲来絵詞(1293頃)上「御大事をあひまつべく候、そのきなく候はば、かげすけへさきの事御たづねをかうぶるべきむね申あぐべく候」
※浮世草子・男色大鑑(1687)三「宿に帰さじとの眼(まなこ)ざしに機(キ)をうしなひ」 〔大学〕
④ 大事な事。枢要物事の分かれめとなる要(かなめ)
歩兵操典(1928)綱領「敵の意表に出づるは、機を制し勝を得るの要道なり」 〔淮南子‐氾論訓〕
⑤ 技巧の心。たくみにいつわる心。機略。〔列子‐仲尼〕
⑥ 仏語。本来は自分の心にありながら、自らは働かず、縁を得て教法により働く性能。機根(きこん)。禅宗では機用(きゆう)という。
法華義疏(7C前)一「従此以来、雖復平説無相同修、或明中道而褒貶、猶明三因別果之相養育物機
※平家(13C前)二「結(むすぶ)、早玉の両所権現、おのおの機に随(したが)って、有縁の衆生を導き」
⑦ (転じて) 一般に心の働き。
※太平記(14C後)一〇「其猛卒の機(キ)を見に、万人死して一人残り、百陣破れて一陣に成共、いつ終(は)つ可き軍とは見へざりけり」
能楽で、心中にこめた息をいう。生理的な息に、心が加わったものをいう。
※花鏡(1424)一調二機三声「調子をば機が持つなり。吹物の調子を音取(ねと)りて、きに合せすまして〈略〉さて声を出だせば」
⑨ 「ひこうき(飛行機)」の略。
崑崙山の人々(1950)〈飯沢匡〉「エンジンに引火して機は燃えてしまひました」
[2] 〘接尾〙 飛行機を数えるのに用いる。「三機編隊」

はた【機】

〘名〙 手足で操作して布を織る機械。経(たていと)をわたし、緯(よこいと)を通して織るもの。また、その機械で織った布。あるいは織物の総称。はたもの。
古事記(712)下・歌謡「女鳥の わが王の 織ろす波多(ハタ) 誰が料(たね)ろかも」

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デジタル大辞泉 「機」の意味・読み・例文・類語

き【機】

[名]
物事の起こるきっかけ。また、物事をするのによいおり。機会。時機。「を見る」「反撃のを逸する」
物事の大事なところ。かなめ。「を制する」
飛行機。「プロペラ
仏語。仏の教えに触発されて活動を始める精神的能力。教えを受ける人、あるいは修行をする人の能力・素質。機根。
[接尾]助数詞。飛行機を数えるのに用いる。「三編隊」
[類語](1きっかけ契機機会機会チャンス好機時節頃合い頃おいときおり機運潮時しおどき潮合い時宜機宜好期適期時分時分どき商機勝機戦機千載一遇タイミングめった得難いまれかけがえのない希有けう盲亀もうき浮木ふぼく一期一会いちごいちえ見せ場決め所思いがけない思いがけず待てば甘露の日和ひよりあり折よく僥倖ぎょうこうここぞ一世いっせ一代最初で最後図らずも決定的瞬間契機/(2原因もとたね起こりいん因由素因真因要因一因導因誘因理由事由じゆうわけ近因遠因せい起因する基づく発する根差す

き【機】[漢字項目]

[音](漢) [訓]はた
学習漢字]4年
〈キ〉
布を織る装置。はた織り機。「機業織機
細かい部品の組み合わせで働く仕掛け。からくり。「機械機関機器印刷機発動機
物事の細かい仕組み・働き。「機構機能無機有機
物事を動かす中心。大切な所。「機軸枢機万機
細かで見えにくい事柄。「機微機密軍機
物事の起こる兆し。きっかけ。「機運機縁機会逸機危機契機好機時機待機転機
心の働き。「機嫌機知機転機敏春機心機動機
飛行機。「機体敵機僚機旅客機
〈はた(ばた)〉「機織り棚機
[名のり]のり
[難読]機関からくり

はた【機】

織物を織る道具。ふつう、動力化される以前の手機てばたをいう。織機しょっき。また、それで織った織物。「を織る」

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改訂新版 世界大百科事典 「機」の意味・わかりやすい解説

機 (はた)

織物を作る装置。織る技術は,本質的に編む技術と同一のものであるが,原始的な採集狩猟民の間では,編む技術は広くみられるが織る技術(機)はほとんどみられず,機は単純農耕民の社会にはじめて登場してくる。例えば簡単な道具しかもたない採集狩猟民のピグミーは織る技術は持たないが,1mもの高さの大きな狩猟用の籠を編む。またカリフォルニアのインディアン諸族は高度の巻上げ編み技術をもち,精巧で目のつんだ籠を作るほか料理用のつぼ,赤ん坊のゆりかごから屋根や扉に至るまで,通常,木や粘土で作られるものの多くを編んで作ってしまう。インドネシアオセアニアの住民も,蔓や籐を用いて,機で織られたものと見分けがつかないほどのみごとな編む技術をもっている。

 これに対して織物の技術は,2条の繊維を経(たて)と緯(よこ)に交互に規則正しく編むところから発達してきた。編み台を用いる木や骨の編み針の使用は,機織りの杼(ひ)や筬(おさ)の前段階をなすものであった。歴史的に,初期の定着民のどの家族にも織機が存在したことが知られている。機は,経糸を張っておいて,織り上がるまで緯糸の往復操作を繰り返して行うことができる装置があらわれてから,多くの変り織りが可能になり,織り上げる速度も増した。原則として,経糸を並べて,それに直角に緯糸を交差させながら織ってゆく。

 機に欠かせない部品に綜絖(そうこう)と杼がある。綜絖は,経糸を数群に分けて上げ下げをするフレームで,経糸を通す目穴がついている。杼は,経糸を上下2群に分けて作った開口部(杼道)を通路にして,緯糸を巻いた管を入れて経糸の中をくぐらせる小さな舟形の道具である。機の中で最も単純かつ原始的な型は,一部のアメリカ・インディアンやアフリカの住民にみられるような,〈竪型〉の織機である。2本の棒を地上にたて,これに1本の横木を結びつけて,その横木に下におもしをつけた経糸を結んで垂らしたものである。中間には,綜絖にあたる1本の横棒がわたされる。竪機(たてばた),垂直型織機と呼ばれ,タピスリーやカーペットを織るのに適している。次に,経糸を作業に便利なように水平においたものが水平型織機である。この平面式の織機の代表的なものに,腰帯式といわれる地機(じばた)がある。2本の平行棒の間に経糸を張りわたし,先の棒の端は木や柱に縛りつけ,手前の棒は自分の腰に革帯などでとりつける。腰の力の入れぐあいで経糸の張りを加減しながら,片手で綜絖を,片手で杼を操作し,水平にぴんと引っ張るようにして織る。この方式だと,経糸にはずみがついてよい織味が出せる。南アメリカの前インカ時代に,すでに,手のこんだ優れた織味の二重織,つづれ織,からみ織などが生まれている。この型は現在,南アジアや東南アジア一帯に広くみられ,発展途上にある国々の間で最もポピュラーな機となっている。こうした簡単な機では,無地や縦縞の布は比較的容易に織り出せるが,複雑な模様を織り込むのは難しく,細心の注意と高度の熟練を要する。数色に染め分けた糸による美しい模様の1枚の布を織るのに,1年から2年,時にはそれ以上の日数をかけることも少なくない。織物は世界中いたるところでもっぱら女の仕事となっている。竪型と水平型の織機をさらに進めたものが円型の織機である。回転シリンダーをとり入れて,無限に布を筒型に織り出してゆくことができる機である。近代工業で用いられている織機の祖型とみなしうる。
織物 →織機
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百科事典マイペディア 「機」の意味・わかりやすい解説

機【はた】

織物をつくる装置の総称。一般には人力で操作される織機をさすことが多い。原始的な採集狩猟民族の文化では1本の糸で織物をつくる編む技術はあったが,経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を交互に織る技術はなかった。機は単純農耕民族になって登場したもの。→手機(てばた)
→関連項目宮津

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「機」の意味・わかりやすい解説


はた

手機

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「機」の意味・わかりやすい解説


はた

織機」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【織物】より

…2本の経糸(たていと)と2越(こし)の緯糸(よこいと∥ぬきいと)という2組の糸の組合せを最低単位とし,織機を用いて作られたある幅と長さをもつ平面の総称。通常は経糸に対し緯糸が直角に交わって布面を構成するが,近年緯糸に対し経糸を左右斜めに走らせて布面を構成する斜織(ななめおり)が考案され,経糸と緯糸の直交という原則はあてはまらなくなった。…

【織機】より

…織物を作る機械の総称。機(はた)ともいう。…

※「機」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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