機械論
きかいろん
mechanism 英語
mécanisme フランス語
Mechanismus ドイツ語
事象の生成変化について、時間的に先なるものと後なるものとの区別をたてた場合、先なるものが後なるものを決定し支配するというとらえ方と、逆に後なるものが先なるものを決定し支配するというとらえ方の二つがある。すなわち、生成変化を必然的な因果関係としてみるとらえ方と、目的概念によるとらえ方である。機械論は、前者のとらえ方のもとに世界のすべての事象(精神的なものも含めて)の生成変化を理解しようとする哲学上の立場である。これに対して、後者のとらえ方で世界のすべてを理解しようとするのが目的論である。したがって機械論は目的論と対立する。また機械論は歴史的には、古代のレウキッポス、デモクリトス、エピクロス、ルクレティウスなどに、近世ではホッブズ、スピノザ、ラ・メトリ、ドルバックなどにみいだされる。
ところで、厳密な因果関係によって自然を理解しようとする近世の物理学に代表される自然科学の成果からみても、機械論は物質的な世界に対しては確かに有効であるが、有機的な現象や人間の自由意志などの精神的な事象については、十分にその性格をとらえられない。そこでカントのように、機械論の成立する範囲を物質界に制限し、精神界には目的論が成立するとする考え方も出てくる。
なお、現代においては、生命体などの有機的な現象も物理学的立場からの説明が現実に有効なものとなりつつあり、また人間の精神活動の多くがコンピュータによってシミュレート(模擬化)できるようになったことなどを踏まえて、機械論の可能性や限界が改めて論議されている。
[清水義夫]
『ド・ラ・メトリ著、杉捷夫訳『人間機械論』(岩波文庫)』▽『坂本百大著『人間機械論の哲学』(1980・勁草書房)』
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機械論【きかいろん】
英語mechanismなどの訳。機械をモデルとする世界観の称で,生気論,目的論,有機体論に対する。時計をモデルに,自然を〈延長〉と見,外から与えられる力によって法則に従って動く部分の集合ととらえたデカルトの思想が典型的で,以後の自然観,科学観を規定した。コンピューター,ロボットなどの新しい機械とそのシステムが登場した現代にあっては,サイバネティックスや分子生物学が機械論を代表する。その画一性を批判されることもあるが,機械論の徹底こそが人間や世界についての新しい理解と技術の地平を開く場合も多いことから,蒙昧主義や神秘主義に対する有益な批判としての意味ももつ。
→関連項目還元主義|生命|唯物論|力動説
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機械論
きかいろん
mechanicalism
目的意志の介入を許す目的論に対して,自然界の諸現象を機械的な因果関係によって説明する立場。たとえば生物学は無機物を支配する法則によって全面的に律せられると考える。このような考えの歴史は古く,古代ギリシアのデモクリトス,エピクロス,近世では B.スピノザ,J.O.ラ・メトリらに代表される。この立場は素朴な唯物論の立場に癒着しやすく,自由な人格主体を認める近世哲学や弁証法的唯物論者から排撃されてきた。
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きかい‐ろん【機械論】
〘名〙 (mechanism の訳語) すべての現象を物質的要因とその因果関係によって説明しようとする考えまたは立場。目的に向かっての現象に原因性を認めない点で目的論に対立し、また、超因果的な生命現象を否定する点で生気論に対立する。素朴唯物論にも通じる立場。
機械観。機械説。
機制論。〔普通術語辞彙(1905)〕
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デジタル大辞泉
「機械論」の意味・読み・例文・類語
きかい‐ろん【機械論】
1 哲学で、すべての事象の生成変化を自然的、必然的な因果関係によって説明し、目的や意志の介入を認めない立場。
2 生物を精緻な機械と考え、生命現象を物理化学的法則で解明しようとする立場。
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きかいろん【機械論 mechanism】
自然や社会や生物を扱うとき,内的目的や霊魂を排除してどこまでも物質的な諸要素の集合とその運動として決定論的に取り扱う態度。すなわち有機体をモデルにするのではなく機械をモデルとして対象を考察する態度のことである。したがってどのような機械をモデルにするかによって内容が異なり,時代によって機械論も変遷をとげてきた。哲学で伝統的に〈機械論〉ないし〈機械観〉と呼ばれてきたのは,時計をモデルとする17~18世紀に有力だった機械論を指したので,現在もこの意味で用いられることが多いが,19世紀の機械論は原動機(蒸気機関)をモデルにしていたし,最近の機械論や新しい人間機械論はコンピューターや自動制御機械をモデルにしている。
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世界大百科事典内の機械論の言及
【世界観】より
…一般に農業社会において支配的な世界観である。有機体論
[機械論的世界観]
世界を等質的な部品の組合せから成る機械と見る世界観で,古典古代にもあったが,有力な世界観として登場したのは17世紀以後のヨーロッパである。機械時計をモデルとするこの世界観はデカルトによって定式化され,近代科学および工業社会の発達とともに世界に広がった。…
【物質】より
…物活論とアニミズムとの区別は微妙だが,アニミズムが物質とアニマの二元論的発想をとりやすいのに対して,物活論は物質一元論に傾きやすい発想といえよう。 こうしたルネサンスの新傾向は,コペルニクス,ケプラーはもちろん,ガリレイやニュートンにまで痕跡をとどめているが,一方デカルトを中心とする機械論哲学は,このような物活論的傾向に対する批判を出発点としていた。デカルトは,物質からはぎ取りうるすべてのものをはぎ取った。…
【目的論】より
…事象を目的と手段の連関において説明しようとする考え方。機械的原因とその結果の連関によって事象を説明する機械論に対立する。宇宙を一つの目的論的システムとみなす考え方は,神話的思考のうちにすでに広くみとめられるが,哲学の歴史においては,とりわけアリストテレスがそれを定式化するにあたって重要な役割を果たした。…
【有機体論】より
…一般に,あらゆるものを有機体として見る立場で,有機体説ともいう。歴史上,農牧社会でとくに支配的な思想であったが,近代社会では機械論が有力になってきたので,それとの対立において主張されることが多い。有機体の典型は生物であるから,生物をモデルとしてすべてを見る立場ないしすべてを生き物として見る立場といってもよいが,とくに〈有機体論〉と呼ぶときには限定して用いる。…
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