機械(machine)(読み)きかい(英語表記)machine

翻訳|machine

日本大百科全書(ニッポニカ) 「機械(machine)」の意味・わかりやすい解説

機械(machine)
きかい
machine

19世紀の後半に発表されたドイツのフランツ・ルーローの定義によると、「機械とは力に対して抵抗力のある物体の組合せで、各部の運動は限定され、相対運動をし、これにエネルギーを供給して仕事をさせるもの」である。綱や鎖などは押す力に対しては抵抗しないが、引っ張る力に対しては抵抗するので、機械の一部として使用できる。液体も容器に密封すれば圧縮に対して抵抗するので、これも機械の一部となりうる。ねじ回し、のみ、鋸(のこぎり)、鉋(かんな)などは相対運動をしないので、一般に機械とよばず道具という。ノギスマイクロメーター電圧計など、測定等を目的とするものは、機器とよんで区別することもある。20世紀に入ってから電子工学の進歩が目覚ましく、電子式機械が発達、普及したので、機械ということばを厳密に定義することは困難になった。

[中山秀太郎]

道具と機械

原始人はひとりひとりが生活上必要なものを、木を削り石をたたいてつくらなければならなかった。道具は、1本の棒や1個の石から始まって、だんだんに作業の目的にかなう機能を備えるようになった。打製の剥片(はくへん)石器を包丁とし、また、のみ、錐(きり)、鋸として利用した。さらに磨く技術を覚えてから、剥片石器磨製石器へと発展し、いっそう使いやすくなった。紀元前約1万年のころから農業・牧畜が始まり、鋤(すき)や鍬(くわ)のような道具がつくられた。植物の繊維、カイコの繭、動物の毛などを糸にし、布を織ることも始まり、簡単な紡機や織機がつくられた。石や木材の道具にかわって、やがて金属の道具が使用されるようになった。金属製ののみや、鋸は、寿命も長く、使いやすく、性能が向上した。紀元前3000~前2000年のころには、鉄や銅を使ったいろいろの道具が日常生活で使用されていた。てこ、滑車、ねじ、車輪などを利用して、重い物を持ち上げたり運搬することが可能になり、技術の進歩は人間の生活をしだいに向上させた。

 社会の発展につれて、各自が生活必需品のすべてを自製することは不可能になり、生産の分業化が始まった。生産に従事する技術者が登場し、生活必需品を多くの人に供給するようになったのである。専業化により、当然、作業の能率化が要求されるようになる。風車や水車が考案され、人間の力にかわって風や水の自然のエネルギーが利用されるようになった。風車や水車の回転力は、人間の出しうる力よりもはるかに大きく、しかも持続性がある。作業能率は格段に上昇した。人間の生活に欠くことのできない食糧として穀物を粉にする石臼(いしうす)が水車の軸に取り付けられ、能率のよい製粉機がつくられた。14~15世紀までに、世界の各地に多くの水車小屋が建てられ、製粉だけでなく、井戸から水をくみ上げたり、金属加工用のハンマーや製材用ののこぎりを動かすなど、人間の手に頼っていた作業が機械によって行われるようになった。

 18世紀なかばのワットによる蒸気機関の発明は、水力や風力よりも安定性があり、制御しやすく、強力な動力を実現させた。工場が蒸気機関によって操業されるようになり、汽車や汽船なども出現して機械化が進行した。20世紀に入ると、水力タービン蒸気タービン、内燃機関が相次いで開発され、機械はいっそう発達した。機械の理論的研究や技術者の養成の必要性が増し、機械学という学問の分野が確立したのは19世紀なかばである。それにつれて機械と道具についての考究も行われるようになった。

[中山秀太郎]

歴史

紀元元年前後には滑車を組み合わせた起重機がつくられ、建築などに使用されていた。アレクサンドリアヘロンは、当時使用されていたいろいろな機械装置を著書のなかに記述している。それにより、歯車を組み合わせて運動を伝える装置や、消火器、水鉄砲などがあったことがわかる。また、神殿の扉を自動的に開閉する機械仕掛け、ランプの灯心と油の量を調整する自動装置、落下する重錘の力によって動く人形、風車で駆動するオルガンの送風装置、蒸気の噴出による反動で回転する球など、後世の機械装置を暗示する発明も記されている。一方、車輪の周囲にいくつもの壺(つぼ)を取り付け、下方の水をくみ上げて上方の樋(とい)に流し込む灌漑(かんがい)用揚水装置が、初めは人力で、のちには畜力で実際に使用されていた。

 前1世紀の初頭には製粉用の水車が西アジアで用いられたといわれ、14~15世紀までに世界各地に普及した。風車も古くから製粉・揚水用に使われていた。水車や風車の回転を伝えるために、歯車、軸受、リンク装置などが考案され、機械要素の発達を促した。

 時間の測定を機械的に行うことも昔からくふうされていた。14世紀後半、ドイツの時計師ド・ビックHenri de Vicは、宮殿の塔に取り付ける機械時計を製作した。巻きろくろに巻いた綱の一端におもりをつけ、おもりが下がるにつれてろくろが回転して時計の針を動かす仕組みである。いくつかの歯車で運動を伝え、針が一定の速度で動くように、逃がし車やつり合い車を使って巻きろくろの回転運動を一定にする調速機がつけられていた。この調速機はその後多くの時計技術者によって改良され、今日のぜんまい時計に発展した。

 15世紀になると、紡績機械、織物機械、圧延機、研磨機、穴あけ機、ポンプ、旋盤など機械の種類は増えた。レオナルド・ダ・ビンチ、ゲオルクアグリコラなどのスケッチや著書によって当時の機械を知ることができる。ヨハネスグーテンベルクが鋳造の金属活字を使用する印刷機をつくったのも15世紀である。印刷機は書物の普及を招来し、富裕階級の独占物だった学問を大衆に開放する契機となった。

 18世紀の中ごろ、イギリスのルイス・ポールとジョン・ワイアットは糸紡ぎ機械を考案した。数対(つい)のローラーで糸を引き出し、紡錘装置で撚(よ)りをかけるこの機械は、糸紡ぎ作業を手仕事から解放して能率を向上させた。その後もジェームズ・ハーグリーブスの多軸紡績機械、リチャード・アークライトの水力紡績機械と、繊維工業の機械化が進行した。

 18世紀のイギリスでは繊維工業だけでなく、製鉄、ガラス製造など各種の工業が盛んになり、鉱山、炭鉱の開発も進んだ。そして、坑道の地下水を排出する有効な手段が要求されるようになる。排水ポンプの動力としてトーマス・ニューコメンが大気圧蒸気機関を発明したのは1712年であった。1769年ジェームズ・ワットはこれを改良して新しい蒸気機関をつくり、1784年にはピストンの両側に蒸気を導く複動式蒸気機関を完成した。ワットの蒸気機関は工業の能率化を達成したばかりではなく、蒸気機関車、蒸気船に使用されて交通を飛躍的に発展させた。

 19世紀後半には、さらに新しい動力機械として内燃機関が登場する。1878年、パリの博覧会にドイツのニコラウス・アウグスト・オットーが製作した4サイクルの内燃機関が出品された。1883年、オットーの会社の技術者であったゴットリープ・ダイムラーが高速で回転するガソリンエンジンを開発した。続いて1897年、ドイツのディーゼルが点火装置の要らない内燃機関、ディーゼルエンジンを発明する。ガソリンエンジンとディーゼルエンジンは、しだいに蒸気機関にかわって広く使用されるようになった。1903年にライト兄弟が、空気より重い機械で飛行するという人類の夢を実現できたのも、内燃機関の完成があったからである。内燃機関は20世紀に入っていっそう発達し、動力機械の主流となった。

 19世紀後半に水車を改良した水力タービンが発明された。フランシス水車、ペルトン水車、カプラン水車など各種のタービンが製作され、世界中の発電所に普及し、現在も使用されている。続いて、水力ではなくノズルから吹き出す蒸気でタービンを動かす蒸気タービンが開発された。蒸気タービンは回転運動だけなので回転速度をあげることができ、馬力当りの重量が小さくなるし、また、長時間の連続運転が可能である。火力発電所、工場、船舶などの大出力原動機として、往復型蒸気機関、内燃機関にかわって広く使われている。航空機のターボジェット機関、ターボプロップ機関もタービンの原理である。

 人間の生活になくてはならない機械のうち、基本ともいうべき動力機械をおもに述べてきたが、このほかにも機械の種類はきわめて多い。

[中山秀太郎]

現代の機械

現代の機械を大別すると、動力機械、作業機械、計測機械、情報・知能機械、その他の五つに分類できる。

 動力機械は、動力を発生する機械で原動機ともよばれ、運動の発生も伴う。蒸気機関、内燃機関、水力タービン、蒸気タービン、ガスタービン、電気モーターなどがそれにあたる。

 作業機械は、外部からの動力の供給を受けて、必要な仕事を行う機械である。工作機械、産業機械(紡績機械、織物機械、印刷機械など)、交通・輸送機械(機関車、電車、リニアモーターカー、自動車、船舶、飛行機など)、そして、その他の作業機械として、空調機、ミシン、洗濯機などもこの分類に含まれる。

 計測機械は、物理量・機械量の測定を目的とする機械で、測長機、材料試験機、時計、流量計などがある。

 情報・知能機械は、情報を対象とし、その記憶・演算・判断などの機能を備えた機械である。例としては、コンピュータとその周辺機器、ビデオ機器、知能ロボットなどがあげられる。

 その他としては、医療・福祉機器、娯楽・遊戯機械、カメラなど、上記四つに含まれない機械類が存在している。

 以上のように現在の機械はその範囲が広い。冒頭に掲げたルーローの定義は、動力機械と産業機械など、機械的な仕事の遂行を目的とする場合には適当といえるが、計測機械や情報・知能機械のように運動が主体となる機械の定義としては、外れているといえる。そこで、現代の機械を改めて定義すると以下の三つの要件を満たすものということができる。

(1)それぞれ特定の役割を担う要素の集合体である。

(2)これら集合体は、全体として目的にかなった機能を実現する。

(3)この機能の実現のため、機械的な力と運動の両方あるいは、いずれか一方が重要な役割を果たす。

[清水伸二]

『池谷武雄・大西清・大沢誠一著『機械工学入門』(1960・オーム社)』『中山秀太郎著『技術史入門』(1979・オーム社)』『日本機械学会編・刊『機械工学便覧 基礎編α1 機械工学総論』(2005)』


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