ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「樹木」の意味・わかりやすい解説
樹木
じゅもく
tree
大型になるものは高木または喬木という。しかし木本と草本の区別も,高木と低木の区別も,常識的,便宜的なものであり,明確には決めることができない。たとえば,ある樹種は普通の条件のもとでは高木であるが,その分布上の緯度や高度の限界点では小低木になる場合がある。当然考えられることではあるが,光,湿度,土壌,空間,温度などの環境条件もまた樹木の生成に大きな影響を及ぼす。したがって,樹木では大きさではなく,形がしばしば決定的な特徴となる。また,分枝,樹皮,葉,花,果実,とげなどは色,木目,形と同様に種によってさまざまである。
成熟した樹木の生殖器官は,被子植物では花,裸子植物では球花,シダ植物では胞子をつくる胞子嚢である。樹木は,雄性生殖細胞(精子)が雌性生殖細胞(卵子)に受精したときに発生する。裸子植物と被子植物の受精は受粉作用の前に起こり,精子をもつ花粉粒は風や昆虫,あるいはほかの媒介物によって卵子をもつ胚珠に運ばれる。
根と樹幹(どちらも樹木の再生のために残る)と葉は,樹木の非再生器官を構成している。根は樹木を固定し,水分と養分を取り込む。幹と枝と末端枝を含む樹幹は,受粉と分散を担う媒介物に再生部分をさらし,光合成のために葉を光にさらす。樹幹は水分と養分を根から光合成が行なわれる部分まで運び,つくられた養分を保存する。
新しい細胞が形成され,古い細胞が大きくなると,樹木は生長する。樹幹と根の先端には分裂組織がある。この部分の細胞分裂が新しい細胞をつくりだすことで,樹木は高さを増す。樹幹の直径は,第2の分裂組織すなわち形成層で生長する。この部分は球果植物(針葉樹)と双子葉植物では木質部と樹皮の間にあり,単子葉植物とソテツ類ではさらに狭いところにある。球果植物と双子葉植物の横断面には,同心の年輪がみられる。
樹木様植物が地球上に現れたのはデボン紀で,この時代の樹木は,今日のシダ植物のように胞子で繁殖し,花も種子もなかった。デボン紀の終わり頃に,裸子植物が現れた。これが最初の種子植物である。温暖で湿度の高い石炭紀には大量の樹木が出現し,密林ができた。これらの森林が腐朽,堆積し,長い年月を経て膨大な石炭に変わった。石炭紀の森林にあった植物のほとんどは,低温で乾燥したペルム紀に死滅した。被子植物の出現は,白亜紀前期である。
樹木は多くの価値あるものを提供してくれる。特に,世界の主要な建材であり,燃料である木材,製紙に使われる木材パルプなどがあげられる。樹木はまた,食用になる果実や木の実の重要な供給源でもある。光合成を行なう際には,二酸化炭素を取り入れ,酸素を放出することによって,空気を浄化する手助けをしている。樹木の根系は,水を蓄え,洪水を防ぎ,土壌を浸食から守る。また,樹木はさまざまな動物にすみかと食物を提供している。
世界で最も高いといわれている木はセコイアの一種 Sequoia sempervirens; Pacific coast redwoodsで,アメリカ合衆国カリフォルニア州のレッドウッド国立公園に見られる。高さは 105m以上になる。世界で最も太い木は,メキシコのオアハカ州ツレにあるメキシコヌマスギ(→ヌマスギ) Taxodium mucronatum; Mexican swamp cypressで,"巨人 El Gigante"と呼ばれ,基部の周囲が約 46mある。現存する最も古い木は,アメリカのネバダ州にあるマツの一種 Pinus aristata; bristlecone pineで,樹齢 4600年から 4900年とみられる。
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