模倣(心理学)(読み)もほう(英語表記)imitation

翻訳|imitation

日本大百科全書(ニッポニカ) 「模倣(心理学)」の意味・わかりやすい解説

模倣(心理学)
もほう
imitation

人および動物が他者の行動(モデル)を観察することによって、その行動の全体、あるいは部分と類似した行動を繰り返すことをさす。模倣の範囲・性質はさまざまであり、モデルの特徴・価値、観察者の傾向・経験、モデルの行動の結果(強化)に依存する。

小川 隆]

模倣と生得性

模倣は古くから生得的な本能一種として扱われ、たとえば社会心理学者のタルドJ. G. Tardoはこれを社会的行動の発生基盤と考えていた。優越者の行動を模倣することで、劣等者はそれとの強い情緒的結合を求めようとし、流行現象を発生させる。地域や職業にみられる慣習は、それに従う模倣によって維持される。子が親の、年少者が年長者の行動を模して、文化が伝承され、社会化が促進される。芸術の面でも優れた先人技法・表現を模倣する行動が創造と並んで重視されることもある。模倣を通じて、モデルと観察者との同一視identificationが説かれる。

[小川 隆]

模倣と習得性

しかし、近来では、生得的な面ではなく、模倣の習得面が注目され、模倣学習実験的研究がなされている。たとえば、N・E・ミラーらは高架式T迷路を用いてネズミに白・黒の弁別学習をさせたのち、学習を完了したネズミをモデルとして、別のネズミにこれを観察させ、それに従って進路を選択させる訓練に成功した。この実験では模倣行動によって目標(餌(えさ))に到達するわけであるが、モデルに追従し、模倣行動をしても餌(えさ)に到達できないと(消去)、モデルの価値はなくなり、模倣行動は消失する。模倣行動を維持するのは積極的強化であって、そこに習得される面がある。

 模倣行動をモデルの行動の結果(強化・無強化)に関連させる学習は、観察学習observational learning、モデリングmodelingなどともいわれる。観察学習は実際の行動だけでなく、スクリーン上の実演戯画化されたものであっても効果をもっている。観察学習を通じて、新しい行動の様式の獲得、すでにもっている行動様式の促進、すでにもっている好ましくない行動様式の除去がなされる。

[小川 隆]

『J・ピアジェ著、大伴茂訳『模倣の心理学』(1968・黎明書房)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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