(読み)ヒ

デジタル大辞泉 「樋」の意味・読み・例文・類語

ひ【×樋】

水を送り流すために、竹・木などで作った管。とい。
せき止めた水の出口に設けた戸。開閉して水を出入りさせる。水門。
物の表面につけた細長い溝。「物差しの
日本刀の側面の峰近くにつけた細長い溝。重さを軽くしたり、血走りをよくしたりするためのもの。血流し。

とい〔とひ〕【×樋】

屋根を流れる雨水を受けて、地上や下水道に導くための溝形または筒状の装置。軒樋のきどい竪樋たてどい、それらをつなぐ呼樋よびどいなど。とゆ。とよ。

とよ【×樋】

とい」の音変化。

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精選版 日本国語大辞典 「樋」の意味・読み・例文・類語

とい とひ【樋】

〘名〙
① 屋根の雨水を受けて地上に流す装置。金属板、竹などで作る。建物外部に出さないで建物の内部排水管に流す内樋と、建物の外側にそって設けられる軒樋、立て樋などの外樋とがある。ひ。〔温故知新書(1484)〕
② 湯・水などを送るためにかけ渡した管や溝。ひ。
甲陽軍鑑(17C初)品三三「御風呂屋、縁の下よりとひをかけ、御風呂屋のげすいにて、不浄を流様に遊」

とゆ【樋】

〘名〙 「とい(樋)」の変化した語。
※雑俳・大福寿覚帳(1711‐16頃)「わかばえじゃ・いまはじゅんかんのちにゃとゆ」

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改訂新版 世界大百科事典 「樋」の意味・わかりやすい解説

樋 (とい)

屋根の雨水を集めて地上または下水に流すために設けられた溝形あるいは管状の装置。俗に〈とゆ〉〈とよ〉ともいう。材料は銅,亜鉛鉄板,鋼,塩化ビニルなどが一般的であるが,かつては木,竹などが用いられた。使用される場所に応じて内樋,外樋,軒樋,谷樋,這樋(はいどい),呼樋(よびどい),竪樋などがある。樋はもともと戸樋(トヒ)あるいは通樋(トホシヒ),門樋かと推測されているが,水を遠くに導き流すために竹や木,土でつくった長い管が樋(ひ)で,下樋(したひ),懸樋(かけひ)(かけい)),埋み樋,受け樋,などがあった。《大鏡》に〈あわひにをかけてぞ侍りし〉とみえるのは樋の古い例で,建物の軒と軒が接し合うところに受け樋を設けたことをいうが,同様の受け樋は江戸時代の〈くど造り〉や〈分棟型〉の民家においても谷が集まる屋根の中央部に設けられ,屋外へ雨水を排出していた。なお雨水は,平城宮では木をくり抜き上ぶたをした樋の暗渠に,一乗谷朝倉氏遺跡では敷地周囲に計画的に築かれた側溝に導かれた。
執筆者:

ギリシアやローマの神殿では,樋は軒のコーニスが兼ねており,雨水は軒の隅に据えられた獅子の頭の形の彫刻の口から地面に吐き出された。中世建築ではこの水の吐き出し口はガーゴイルgargoyleとよばれ,鳥や獣,怪獣の姿をした彫刻が施された。住宅や宮殿では雨水は中庭側に集めて排水することが多く,外観に樋が現れることは少ない。また,屋根が街路側に傾斜していても,外部壁面を軒よりも高く立ち上げてパラペットにすることが多いので,樋はパラペットの内側に隠されて外部からは見えない。このように,軒を深く張り出したり,屋根に反りをもたせることの少ない西洋建築では,樋は外観から隠されることが多く,吐水口から出される雨水が壁面をつたわぬよう工夫された。
執筆者:

樋 (ひ)

池水や河水を放出・流下させる水門のことで,〈圦樋(いりひ)〉ともいう。佐藤信淵の《隄防溝洫志》に〈川下の井路筋へ用水を引入れ,或は用水落堀より川中へも落す為に,堤に仕込みて其戸を開闔(かいこう)する者也。小樋は一枚戸に致し,大樋は二枚戸・三枚戸に致す〉とある。材料は松,ツガ,ヒノキを用い,構造には関東流,紀州流の別があるといい,樋の設置には位置を選ぶことがたいせつで,位置が悪ければ本川を好まぬ方向に導くおそれがあるというが,これは河川からの水の取入口である圦樋のことである(《県令須知》)。池の樋には降雨期などで池水の満水したときに溢水・流出させる〈打樋〉があり,その所は最もたいせつで,池の破損は十中八九まで打樋の所からの堤切れによるから,地盤の固い所であることが要求される。河内国狭山池の破損・縮小は,東西2個の排水樋門(余水吐ともいう)の一つ〈西除げ〉の破壊によってであった。

 池の樋には埋樋尺八樋の2種があった。埋樋は単に池堤の土中に横に伏せるものである。尺八樋は,堤の内側の傾斜に従って斜め(竪)に取り付け,樋に直径10cm内外の穴を数個(例えば満濃池の旧樋は5個),間を隔てて最下部の穴から溜水の最底部までの全水量を流出できるようにしたもので,不使用のときは穴に栓を差し込んでおく。必要に応じて溜水の多いときは最上部の穴から,以下水量の減少とともに漸次下部の栓を開いていく装置で,一時に多量の水を要するときは残らず栓を開く装置である。《地方(じかた)の聞書(才蔵記)》に,〈底樋より堤なりにはわせ樋を伏せ,段々に立樋を立る。大池に用〉と説明しているのは端的な説明である。満濃池の1631年(寛永8)から1854年(安政1)までのもの,狭山池の1608年(慶長13)以後の2個の大樋である中樋・西樋は,いずれも尺八樋であった。満濃池の1854年の決壊は,同年の大地震によって生じた石樋の側壁穴(かけあな)からの漏水が直接の原因であり,69年(明治2)の改修では底樋の石樋伏込みを改め,天然の岩壁に樋穴をうがつ新方法によって成功した。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「樋」の意味・わかりやすい解説


とい

屋根から雨水を集めて地面まで導くための装置。軒先に沿わせて屋根面からの水を受けるものを軒樋、軒樋の水を集めて地面まで導くものを竪樋(たてとい)、軒樋と竪樋とを接続するものを呼樋(よびとい)または鮟鱇(あんこう)という。また樋を軒先など建物の外に表すものを外樋、陸(ろく)屋根のパラペットparapet(屋上や吹抜き廊下にみられる手すり壁)の内側などに設けて外から見えないものを内樋とよぶ。軒樋の断面は半円形が普通で、80~100分の1程度の勾配(こうばい)をつけ竪樋につなぐが、ていねいな仕事では軒樋の外側を箱形の覆いで受けることがあり、これを箱樋という。箱樋を用いれば軒樋の勾配は箱の中で吸収されて軒の線を水平にそろえられる意匠上の利点がある。樋の材料は銅板を最上とし、普通は亜鉛めっき鉄板、最近はカラー鉄板や合成樹脂で成形したものも用いられる。竪樋で地表に近く物の当たりやすいところや、高層建築でとくに長いものには鉄パイプが使用される。また数寄屋(すきや)などの軒樋には半割の竹を用いることがある。屋根に谷のできる場合は銅板などで箱形の谷樋をつくるが、長い陸谷(鋸(のこぎり)屋根の場合に避けられない)では、特別にアスファルト防水などを施した成形品を用いることもある。総じて内樋を避け、谷、とくに陸谷をつくらぬようにするのが雨漏りを少なくする要諦(ようてい)である。

 軒樋は垂木(たるき)、鼻隠(はなかくし)に一定間隔に取り付けた樋金物に、竪樋は柱、壁体に同様に取り付けた把(つかみ)金物によって、それぞれ支持される。いずれも鉄製で、コールタール塗りなどによる防錆(ぼうせい)処理を施さねばならない。

[山田幸一]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「樋」の意味・わかりやすい解説


とい
gutter; trough

(1) 屋根の降雨を排水するために軒先に設けられた溝または管。材料にはおもに銅や亜鉛,鋼,塩化ビニル管が用いられるが,木や竹,スレートなども使われる。西洋建築では,古くはコーニスに溝を彫り込み,ガルグシルと呼ばれるコーニスより突出したいくつかの排水口より放出された。ゴシック建築ではこれがバットレス上部につけられ,通常怪獣形をしているものが多い。 14世紀になって,イギリス建築に初めて鉛管が使われるようになり,以後各種の材質,工法が利用されるようになった。 (2) 水や湯などを送るために設けられた溝や管。

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百科事典マイペディア 「樋」の意味・わかりやすい解説

樋【とい】

屋根面の雨水を排水するための施設。屋根の谷部に設けられる谷樋,屋根と壁との交わる部に設けられる際(きわ)樋,大屋根の水をその下の屋根にはわす這(はい)樋等があり,軒先の軒樋から下に落とす竪(たて)樋は呼樋(〈あんこう〉とも)により連絡される。材料には,竹,トタン板,銅板,プラスチック等が使用される。

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家とインテリアの用語がわかる辞典 「樋」の解説

とい【樋】

湯水を流して運ぶための装置。特に、屋根に落ちた雨水を集めて地面や排水溝へ送る雨樋をいうことが多い。金属・竹・プラスチックなどで作った、円筒形の管や、筒を二つ割りにした形の部材を用いることが多いが、温泉の湯樋などは木の板でコの字に作ったものもある。◇「とよ」「とゆ」ということもある。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【樋】より

…材料は銅,亜鉛鉄板,鋼,塩化ビニルなどが一般的であるが,かつては木,竹などが用いられた。使用される場所に応じて内樋,外樋,軒樋,谷樋,這樋(はいどい),呼樋(よびどい),竪樋などがある。樋はもともと戸樋(トヒ)あるいは通樋(トホシヒ),門樋かと推測されているが,水を遠くに導き流すために竹や木,土でつくった長い管が樋(ひ)で,下樋(したひ),懸樋(かけひ)((かけい)),埋み樋,受け樋,などがあった。…

【溜池】より

…熊沢蕃山は池の築造の地盤に着目し,まず〈根切り〉を行うことを説き,池底からの漏水を防ぐべく,池床の底を堅固に固め,堤は十分に幅広く堅固に,十分の人夫を投じて築くべしとし,佐藤信淵は《堤防溝洫志》に,溜池は土地が高く川水を用水に引き揚げ難い所に築くとし,まず,よく谷川・清水のある場所を考え,その山の形状にしたがって,3方,2方,あるいは丸堤(池の全周を堤で囲む)を築いて谷水を蓄え,堤の大小は溜池面積の広狭に準じ,勾配は内法(うちのり)7寸5分,外法5寸が法であり,堤の内腹は〈ハセネリ〉と称する土性のよい真土(まつち)で塗り込み,下地をよく突き固めておけば漏水がないとしている。また《地方の聞書(才蔵記)》には,よい池とは堤が短く池の内が広く,床はよくつみ,打樋(うちひ)(用水を流し出すの位置)は岩か,もし土であっても,水の当たる所は堅い土の場所がよい(池の決壊は樋の場所の崩壊による実例が多い),池床の深浅は両側に山の立つ所は床が浅く,平地の場合は深く,谷に常に水のある所は浅く(すぐ下が岩盤であるから),少々の降雨にも谷底に水のない所は岩盤までが深いから池床には不適であるなどと詳細に述べている。樋の位置と並んで悪水吐口(はけぐち)についても,その付けようが悪ければ,洪水で堤が切れるものである等とある。…

【番水】より

…中世以後,同一水源・水系のもとで,灌漑用水の不公平な配分からくる収穫の豊凶を避け,また干ばつによる被害を最小限にくい止めるために行われた水の配分制度。水量を調節するため(1)現作している水田面積に応じて一定の時間を定めて決められた順序に従って配水する,(2)分水点に設けられた流水量測定の器具・道具(分木(ぶんぎ),分水石など)を使用する,(3)水路の幅,深さを定めて流水量を測る,(4)河川に(せき)を設ける場合に完全に流水を遮断せず,定められた間隙を開け,定められた深さの水流を保ちつつ一定量の水を下流に放流する,などの諸方法と,用水池の樋(ひ)を抜き放水する発議権や決定権をどの地域のどのような住民が行うかなどが番水の具体的内容であり,それらがいくつか併用されて一つの番水が運営されている。中世前期までは不文律のまま運用されていたが,中世後期になると番水規定の文章化も行われるようになった。…

※「樋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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