極
きょく
地球や天体、および物理学の分野での用語。
棒磁石の両端のように磁力の集中した部分を磁極とよぶ。今日では(電)磁気現象は場の概念に基づいて考えるのが普通で、磁極は磁場とのみ相互作用し、この相互作用の仕方によって磁極の性質や強さを考えることができる。二つの磁極の間にはそれぞれの磁極のつくる磁場を通してクーロン力が働き、これによって磁極の強さを定義できる。磁極の強さは磁気量ともよばれる。したがって磁極は磁気量の集中した部分であるといいかえることもできる。磁極には2種類あって正と負で区別する。今日までに確かめられているどんな物質や素粒子においても、磁気量はかならず正負等量の強さの磁極が対になって現れる。したがって物質中の全磁気量はかならずゼロになる。磁極の対のうち、大きさを無限に小さくする理想化を行ったもの(実体として考えることもしばしば有益であるが正確な取扱い上は抽象的概念)を磁気双極子という。現実の巨視的な大きさの磁極はすべてこの双極子の集合体と考えることができる。日常なじみのあるのは磁石である。磁極の正負の区別の仕方は、磁石と地球磁場との相互作用で決められたのが起源である。北に向くほうの磁極をN極(正極)、南に向くほうの磁極をS極(負極)とよぶのが普通である。
[安岡弘志]
(1)地球の極。地球の地軸と地球表面との交点を極といい、北極と南極とがある。北極は北緯90度にあたり、南極は南緯90度にあたる。地球は、赤道方向に約300分の1だけふくらんだ回転楕円(だえん)体の形をしているが、そのもっともつぶれた方向(すなわち南北方向)の対称軸を地軸とするとき、これを「形状軸」という。これに対し、宇宙空間内での地球の自転運動の軸を「自転軸」という。自転軸と形状軸はほぼ一致するが、実際には約10メートルのずれが生じ、不動の形状軸の極の周りを、自転軸の極が不規則な円を描いて反時計回りに運動している。これを極運動とよび、18世紀にオイラーによって理論的に予言され、19世紀末に観測的に確認された。またこれは、国際地球回転観測事業(IERS:International Earth Rotation Service)とよばれる国際協力事業により観測が続けられている。
(2)地磁気の極。地球は一つの巨大な磁石であり、通常の棒磁石のようにNSの極をもつ。地球の周りの磁力線の分布は、地球中心に1個の棒磁石を置いたときの磁力線の分布としてよく近似される。この場合、この棒磁石のN極、S極は、方位磁針とは反対にそれぞれ地球の南極、北極の方向を向く。この磁極の方向線が地表と交わる点を、それぞれ地磁気南極、地磁気北極とよぶ。この地磁気極は地球の極とは一致せず、現在の時点で約1100キロメートルほどのずれがある。またこのずれは100年で100キロメートル程度の速度で変動している。これとは別に、地表での磁力線の方向が地面に垂直方向となる地点が南北極付近にあり、それぞれ磁南極、磁北極とよばれる。これは地球の極、地磁気極とも一致せず、また変動の速度も、地磁気極の変動よりも数倍大きい。2000年現在の地磁気北極は北緯79.6度、西経71.6度付近、また磁北極は北緯81.0度、西経109.7度付近にある。
[市川正巳・中嶋浩一]
地球上の北極・南極のように、天球上にも二極を定めることができる。その場合、軸のとり方によっていろいろな極がある。
(1)地球の自転軸の延長が天球と交わる点を「天の北極・天の南極」とよぶ。これは天球上の星の位置を表す「赤経・赤緯」(赤道座標系)の基準となる。
(2)天球上の黄道に垂直な軸により「黄道の極」が定められる。これは、りゅう座とテーブルさん座にあり、惑星の位置を表すのに用いる「黄経・黄緯」(黄道座標系)の基準となる。
(3)銀河面に垂直な方向を「銀極」とよぶことがある。これは「銀河座標系」を定める。
このように「極」はいろいろな座標系の基準点となるために、それを精密に決定することが天文学の重要な研究テーマとなる。
[中嶋浩一]
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きょく【極】
〘名〙
① 物事やその程度の、それ以上いきようのない点。きわまり。はて。
※凌雲集(814)賀賜新集兼謝〈小野岑守〉「俯焦寒戦未レ喩レ極、履薄春氷遂謝レ危」 〔春秋左伝‐昭公一三年〕
② 最高の位。天子の位。
※惟神の大道を宣揚し給へる詔‐明治三年(1870)一月三日「朕、恭惟、天神天祖、立レ極垂レ統、列皇相承、継レ之述レ之」 〔新唐書‐李晟伝〕
③ (天文学で)
(イ) 天体の自転軸がその表面と交わる点。地球の南極と北極など。
(ロ) 地球の磁場の南磁極と北磁極。
(ハ) 地球の自転軸が天球面と交わる点。
※古道大意(1813)下「丸く見える大虚空(そら)に、北極南極と申して、とんと動かぬ処が有る。〈略〉星も何も周旋(めぐ)れども、是はめぐらず。夫故に極と名(なづ)けたもので」
(ニ) 銀河系の回転軸が天球面と交わる点。
(ホ) 黄道の平面に垂直な直線と天球面との交点。
④ (物理学で)
(イ) 磁石の両端。S極とN極。磁極。
(ハ) 開閉器などの電気回路の開閉部分。
(ロ) 円錐
(えんすい)曲線に関する極線を考えるときの定点。
極点。
ごく【極】
[1] 〘名〙
① (形動) 最上のもの。最良のもの。また、そのさま。極上。
※歌舞伎・与話情浮名横櫛(1853)四幕「『おれが面を立てにゃアおかねえ』トきっとこなし、蝙蝠安うなづいて、『違ひなし、そいつが極だ』」
※田舎教師(1909)〈田山花袋〉二八「甘露煮にするにはこの位がごくだあな」
② (「ごくの」の形で) 程度のいちじるしいこと。
※諷誡京わらんべ(1886)〈坪内逍遙〉五「むやみに洋服にかへるよりも、和服改良を図るといふのが、極(ゴク)の正論かと思はれますテ」
※天草本平家(1592)四「コレワ カタジケナイ ミャウガモ ナイ ヲチャデコソ ゴザレ、gocuto(ゴクト) ミエ マラシテ ゴザル」
④ 役者評判記の役者の位付で、黒吉極上上の称。
[2] 〘副〙 この上なく。きわめて。もっとも。
※咄本・気のくすり(1779)浪人「それが極(ゴク)よいのか」
※アカシヤの大連(1969)〈清岡卓行〉一「そのようなことは、ごく稀にしか起らなかった」
きわめ きはめ【極】
〘名〙 (動詞「きわめる(極)」の連用形の名詞化)
① きわめること。また、その所。果て。限り。
※今昔(1120頃か)一五「聖人の今日を極めに兼てより知れる、貴き事也」
② 定めること。決定。契約。
※吉川家文書‐天正一九年(1591)三月六日・安国寺恵瓊佐世元嘉連署事書状「右之究、於二御延引一者、彼御両人直に其地罷越、可レ致二其究一之由」
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二「先刻の極(キワメ)じゃア、私がおかみさんな筈だよ」
※俳諧・桃青三百韻附両吟二百韻(1678)延宝五之冬「昔棹今の帝の御時に〈信章〉 守随極めの哥の撰集〈信徳〉」
きわ・る きはる【極】
〘自ラ四〙 きわまる。尽きる。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
[補注]「万葉‐二三九八」の「玉切(たまきはる)世までと定め頼みたる君によりては言繁くとも」の「玉切」を「年切(としきはる)」とする説もある。また、「万葉‐二四一〇」の「あらたまの年は竟(はつれ)どしきたへの袖かへし子を忘れて思へや」の「竟」を「きはる」と訓む説もある。
きわみ きはみ【極】
〘名〙 きわまるところ。限り。果て。
※万葉(8C後)五・八〇〇「この照らす 日月の下は 天雲の 向伏(むかぶ)す伎波美(キハミ) 谷蟆(たにぐく)の さ渡る伎波美(キハミ) 聞(きこ)し食(を)す 国のまほらぞ」
※今昔(1120頃か)二八「本(もと)より御心賢く御(おはし)ます人は此(かか)る可死き極(きはみ)にも、御心を不騒さずして」
きわまり きはまり【極】
〘名〙 (動詞「きわまる(極)」の連用形の名詞化) 時間、空間、状態、程度などの極限。きわみ。きわめ。果て。〔新撰字鏡(898‐901頃)〕
※愚管抄(1220)七「これが日本国の運命のきはまりになりぬとかなしき也」
きわ・ぶ きはぶ【極】
※浄瑠璃・四天王女大力手捕軍(1678)三「たがいにせうぶをきはふる本よりぶしのならい」
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デジタル大辞泉
「極」の意味・読み・例文・類語
きょく【極】
1 物事のそれ以上先のないところ。きわまり。きわみ。極限。「疲労の極に達する」
2 最高の位。天子の位。
3 磁石の磁極。N極とS極。
4 電極。
5 地軸と地表との交点。北極と南極。
6 地軸の延長と天球との交点。天の北極と南極。
7 数学用語。
㋐極座標の原点。
㋑球の直径の両端。
㋒曲線または曲面において、極線または極面を考えるときの定点。極点。
[類語]極み・至り・究極・極致・極点・終極
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極
きょく
pole
地球の自転軸が地表と交差する2点をそれぞれ地理学上の北極および南極と名づける。また地球の自転軸と天球上の交点をそれぞれ天の北極,天の南極という。このほか必要に応じて黄道の極,銀河極などがある。地理学上の極は地球の自転軸がその対称軸といくぶん違うため,415~433日の周期で約 20m範囲の円に近い運動をする。また天の極は歳差によって約2万 6000年周期で黄道の極の周囲を回り,さらに 19年の周期を主とする章動によっても変化する。
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極【きょく】
地球の自転軸が地表と交わる点,またはその延長が天球と交わる点。北極と南極がある。現在,地球磁場の磁極と自転軸の極の位置は異なる。天球ではこの赤道座標による極のほか,銀河座標,黄道座標による極がある。物理学では電極,磁極をいう。数学でも種々の意味に用いられ,たとえば球の中心からその大円または小円に引いた垂線と球面の交点や,極座標の原点を極という。
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きょく【極 pole】
(1)天文用語。地球の極には次の3種類のものがある。(a)地球は扁平な回転楕円体なのでその短軸の両端をいう(形状の極)。(b)地球は自転しているのでその自転軸の両端をいう(自転の極)。天文学では自転軸の延長が天球と交わる点をいう(天球の極)。(c)地球は全体として大きな磁石なのでその磁力のもっとも強いところをいう(地磁気の極)。(a)と(b)の差は非常に小さく1秒以下なので実際上はほとんど問題にならないが,天文学では重要で極運動として観測される。
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世界大百科事典内の極の言及
【エーカー】より
…これは4840平方ヤードに等しく,およそ0.4ha(4047m2)である。定義に使われているポールpoleという単位はロッドrodあるいはパーチperchともいい,51/2ヤードに等しく,畝が平均8本作れる幅である。長さの40ポールはファーロングfurlongといい,その語源は〈畝furrowの長さ〉にある。…
【鑑定】より
…一般的に鑑定の対象となるのは絵画(水彩,デッサン,版画を含む),彫刻,工芸で,建築物が鑑定の対象となることはまれである。鑑定には当然真贋の問題が含まれるが,鑑定作業のなかにはさらに,弟子あるいは助手による模写か否か,工房の作品,複数の作者がかかわった作品の分担部分の見極めなどの作業も含まれ,また別人ないし後世の手になる補筆,補修の発見などもその作業に含まれる。鑑定の最大の目的は作者の決定,いわゆるアトリビューションattributionであるが,その結果によって作品の市場(商品)価値にも大きな影響を及ぼすこともあり,この点で鑑定は,ある作品の作者や制作年代などをめぐる純粋に学問的な研究とは性格を異にしている。…
※「極」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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