森林浴(読み)しんりんよく

精選版 日本国語大辞典 「森林浴」の意味・読み・例文・類語

しんりん‐よく【森林浴】

〘名〙 森林に入って清浄な空気を呼吸し、その香気を浴びて心身の健康をはかること。特に、樹木が発散する芳香性物質フィトンチッド人体活性化することで知られている。自然美を見直し、森をつくる意欲を高めようとのねらいから、海水浴日光浴になぞらえて林野庁が昭和五七年(一九八二七月に打ち出した構想

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デジタル大辞泉 「森林浴」の意味・読み・例文・類語

しんりん‐よく【森林浴】

健康法として、森林の中に入り、すがすがしい空気にひたること。精神的な効能ほか、樹木から発散される芳香性物質フィトンチッドによる科学的な効果も見込まれる。
[補説]日本では林野庁が昭和57年(1982)に提唱し、始められた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「森林浴」の意味・わかりやすい解説

森林浴
しんりんよく

一般には森や林の中で清浄な空気を呼吸し、樹間を吹き抜ける風に当たりながら適宜に運動を交えて心身の休息を図ることと考えられているが、専門的には森林のもつ精神的、科学的、神秘的雰囲気の中で医学的に裏づけされた健康法を行うことと定義するのがもっとも妥当であろうと思われる。

 森の樹木はさわやかな香気を放つが、これはテルペン類という炭化水素化合物によるもので、人間の精神神経、とくに自律神経に作用して精神の安定と自己催眠にかかりやすい効果をもたらすといわれている。こうしたテルペン類以外にも種々の物質が森林から放出されており、これらのものの一部はすでにその構造が明らかにされている。ヒノキからヒノキオール、ヒノキオン、ヒノキ酸、ヒノキチオール、ヒノキチン、ヒノキニン、ヒノキ油などが抽出されるのはその一例である。ヒノキチオールは、1936年、化学者である野副(のぞえ)鉄男がタイワンヒノキから抽出したもので、その構造式を決定するとともに、殺菌作用のあることも証明している。1930年、レニングラード大学の発生学者トーキンВ. П. Токин/V. P. Tokinが、植物から細菌や原虫類を殺す物質が放散されていることを提唱し、この物質をフィトンチッドphytoncidと名づけたが、野副はトーキンの考えを科学的に証明したことになる。

 森林浴と関連づけられる健康法として、とくに最近はフィジオセラピーphysiotherapy(自然健康療法)が注目されている。これは端的にいうならば、人間快復のための健康法、あるいは全人的健康法といえるものであり、身心ともに健やかなる状態をつくろうというものである。このような概念にもっとも近いものとして森林浴が位置づけられる。健康人は単に森林の中をハイキングするだけでこの目的を達しうるが、ストレスのたまった人には、森林の中でその人に適した運動療法を加えたり、慢性疾患や救急処置後のリハビリテーションを必要とする患者には、医学的に理にかなった運動療法(運動によって放散されるエネルギー量をあらかじめ計算した療法)を森林の中で行わせることによって、より快復への効果を高めようというわけである。

[吉永徹夫]

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百科事典マイペディア 「森林浴」の意味・わかりやすい解説

森林浴【しんりんよく】

大気浴の一種。樹木が分泌する微生物成長阻害物質のフィトンチッドという揮発性の物質が人体の健康に益するという。樹木の香気成分であるテルペンは,人間の神経,とくに自律神経に作用して精神の安定をもたらす。森林の中を歩くことによる運動効果とあいまって,健康法としての森林浴が盛んになっている。

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知恵蔵 「森林浴」の解説

森林浴

森の空気を浴びること。樹木が発散するフィトンチッド(生物活性物質)には疲労回復の効果がある。さらに森の音をスペクトル解析で分析すると、脳にα波を出させてリラックス感を与える1/fゆらぎが表れるという。近年は、巨樹・巨木などの「樹木ウオッチング」を併せて楽しむ人が多い。なかでも屋久島の縄文杉は人気が高い。森の案内役ともいえる資格に、森林インストラクター(農林水産大臣認定)がある。

(松倉一夫 アウトドアライター / 2007年)

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世界大百科事典(旧版)内の森林浴の言及

【森林】より

…近年の大きな特徴は,森林に対して資源あるいは公益機能として期待するのみならず,精神的,肉体的な保健を図る目的で森林を訪れる人も多くなっていることである。〈森林浴〉という言葉も広く用いられ始めた。樹木から大気中に発散する微量化学成分の効果であるとの説もある。…

※「森林浴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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