梅雨(ばいう)(読み)ばいう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「梅雨(ばいう)」の意味・わかりやすい解説

梅雨(ばいう)
ばいう

夏至(げし)(6月22日ごろ)を中心として前後それぞれ約20日ずつの雨期。梅雨(つゆ)ともいう。これは極東アジア特有のもので、中国の長江(ちょうこう)(揚子江(ようすこう))流域、朝鮮半島南部および北海道を除く日本でみられる。中国ではMéi-yú、韓国では長霖(ちょうりん)Changmaというが、日本語のBai-uは国際的にも通用する。ウメの実の熟するころの雨期なので「梅雨」と書くが、カビ(黴)の生えるころの雨期でもあるので、昔は「黴雨(ばいう)」とも書かれた。梅雨はまた「つゆ」ともいう。旧暦では五月(さつき)ごろにあたるので「五月雨」と書いて「さみだれ」と読ませた。この流儀でいうと五月晴れ(さつきばれ)は元来はつゆの晴れ間をいったので、現在の新暦の5月の晴天を「さつきばれ」というのは誤用である。

 梅雨期間の雨量は、西日本では年降水量の4分の1程度、東日本では5分の1、北日本や日本海側では5分の1から10分の1程度となっている。梅雨末期の集中豪雨はさまざまな水害をもたらすことがあるが、梅雨全体としての雨量は冬の日本海側の雪とともに、日本のたいせつな水資源となっている。

[根本順吉・青木 孝]

梅雨の期間

梅雨期は走り梅雨(はしりづゆ)、梅雨前期、梅雨後期に分けられることが多い。それぞれの期間の特徴は次のとおりである。

(1)走り梅雨 5月中旬~下旬ごろから走り梅雨に入るが、このころはオホーツク海の高気圧はあまり顕著でなく、日本付近を寒帯前線がしだいに北上していくのに伴って雨が降る。年により走り梅雨がないこともあるが、普通は「走り」のあることが多い。

(2)梅雨前期 この期間の特徴は、梅雨前線の活動が弱いことである。走り梅雨による雨と、梅雨前期の雨をはっきりくぎることのむずかしい年も多く、毎年、いつから梅雨入りとするかが問題になる。梅雨前期と走り梅雨による雨量は一般に少ない。

(3)梅雨後期 前期と後期の境目はちょうど夏至のころにあたる。これが梅雨の中休みで、この中休みが前後に長引くと空梅雨(からつゆ)(涸梅雨とも書く)となる。中休みのころは一時、真夏の青空が現れ、地平には雄大な積雲がわくが、普通は長続きせず梅雨後期に入る。梅雨後期の雨はまとまって降る大雨や集中豪雨となる型で、前期よりは雨量がずっと多く、本土では6月末が一年中でもっとも雨の降りやすいころとなる。

 梅雨明けは7月中旬になることが多く、数日の差で比較的一斉に真夏の晴天を迎える。梅雨明けは、梅雨入りと比べると、よほどはっきりした季節のとぎれた変化である。

 梅雨後期には中国南部から日本の東の海上へ伸びる梅雨前線が顕著になる。梅雨前線には南西モンスーン(季節風)や太平洋の高気圧から湿潤な気流が流れ込む。ときには発達したオホーツク海高気圧におおわれて、北日本などにやませが吹きつけ梅雨寒をもたらすことがある。梅雨後期には熱帯地方で発生した低気圧(この発達したものが台風である)が北上し、これに伴われた湿潤な大気が梅雨前線を刺激して大雨をもたらすことがある。梅雨後期にはその期間中にも雷がしばしば発生する。したがって「雷が鳴ると梅雨(つゆ)が明ける」というのは間違った表現であり、「梅雨(つゆ)明けは雷を伴うことが多い」というべきである。

[根本順吉・青木 孝]

梅雨と生活

日本人の生活の一つのくふうは、6~7月の高温多湿の条件をいかに克服するか、利用するかであり、この面を強調して日本の文化を湿度文化という人もある。

 たとえば防湿の知恵としては、唐櫃(からびつ)などによる木箱内の保存があるが、木箱内では木質が湿気を出し入れすることにより、湿度はおよそ70%くらいに保たれ、保存に適する小空間がつくりだされているのである。また正倉院の建築法で有名な校倉(あぜくら)造、高床(たかゆか)式なども、乾燥した空間をつくりだすのになにがしかの貢献をしていると思われる。黴雨(ばいう)とよばれたことがあったことからもわかるように、高温多湿の梅雨期はカビの繁殖の好条件である。このため古来、日本ではカビを取り除いたり、また反対に利用したりする知恵が発達した。たとえば、漢方薬は生薬(しょうやく)であるためかびることによって著しくその効き目が減ずる。そのため漢方薬は乾燥した環境に保存しなくてはならないのであるが、そのため蒼朮(おけら)(和蒼朮(わのそうじゅつ))をたくことが行われる。蒼朮は雑草の一種の根であるが、その根を燻蒸(くんじょう)すること(焚蒼(たきそう)という)により、室内の湿気を取り除くことができるのである。

 梅雨期は各種のカビなど微生物が発生しやすく、食品などの腐敗しやすい時期であり、そのため食中毒などには注意しなければならない。他方、微生物は日本の食物の基本となるみそ、しょうゆ、酒、納豆などをつくりだすのに重要な働きもしているのであり、これらの利用も巧みに取り入れたのが日本文化の一つの特徴といえるであろう。

[根本順吉・青木 孝]

『矢花槇雄著『夏のお天気』(1986・小峰書店)』『市川健夫著『日本の四季と暮らし』(1993・古今書院)』『浅井冨雄著『ローカル気象学』(1996・東京大学出版会)』『清水昭邦著『お天気50年――気象と災害の記録』(1997・山海堂)』『市川健夫監修、山下脩二著『日本列島の人びとのくらし――わたしたちの国土』(1997・小峰書店)』『宮尾孝著『雨と日本人』(1997・丸善)』『平沼洋司著『空の歳時記』(1998・京都書院)』『二宮洸三著『図解 気象の基礎知識』(2002・オーム社)』『光藤高明著『日本の猛暑はどこから来るか――非地衡風による気象学』(2003・新風舎)』『NHK「なぞ解き歳時記」制作グループ編『なぞ解き歳時記』(講談社文庫)』『気象庁監修『気象年鑑』各年版(気象業務支援センター)』

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