日本大百科全書(ニッポニカ) 「梁(建築)」の意味・わかりやすい解説
梁(建築)
はり
beam
鉄骨構造、鉄筋コンクリート構造、木構造などの建築骨組を構成する細長い棒材のうち、ほぼ水平方向に配置され、主としてその材軸線に垂直な方向の荷重(横荷重)を支持する働きをするものを梁という。一般には種々の構造物の構成要素のうち、横荷重を支持する働きをする細長い棒材をすべて梁という。
木造日本建築の小屋組みのうち和小屋では、屋根自重や屋根の積雪荷重などを支持するために、2本の軒桁(のきげた)の間に太い梁をかけ渡す。これを小屋梁という。 の鉄骨鉄筋コンクリート構造の梁は、その自重、床スラブや壁などの重量のほか、床スラブ上の積載物の重量をも支持する。梁はその両端で柱に接合されて支持される。橋桁もその荷重支持作用からいえば梁であり、支柱や橋台上の支承で支持される。
梁は横荷重の作用を受けると曲げられる。その曲げ変形の性状は、梁の形状と支持方法、および横荷重の種類によって異なる。 には、一端で固定された片持ち梁(ばり)の他端に作用する横荷重による曲げ変形の例を示した。実際の梁の曲げ変形は目に見えないほど小さい。梁の曲げ変形の主要部分は、曲げ変形後の材軸線の呈する曲線で記述される。これを弾性曲線という。 には、3か所で支持された梁(連続梁)が異なる2種類の横荷重の作用の下で呈する弾性曲線を示した。梁のこのような力学的挙動を記述する理論は、構造力学の基礎理論であって、とくに梁理論ともいう。
曲げられた梁の各部分は、横から見ると扇形に変形している( )。したがってその最外縁がもっとも大きく伸ばされたり縮められたりしている。このような曲げ変形に抵抗する作用が集積されて、梁全体としての荷重支持作用となる。梁要素の曲げ変形に対する抵抗性能は梁の形状によって異なる。 にその例を示した。同体積の材料を用いるとすると、 の①のように可能な限り多くの材料を最外縁に近く配置してフランジとし、その間の距離を大きくするほうが性能が高くなる。しかしその間を連結するウェブの厚さも限界値以下にできない。背を高くしてフランジの幅を狭くすると、横にはらみ出しやすくなる。市販のH形鋼材の形状は、これらの力学的理由によって定められている。 のほかの鉄骨梁の形状も、種々の力学的根拠に基づいて考案された結果である。
建築骨組の中の梁は、多くの場合柱と剛接合されてラーメンを形成し、各部重量や積載荷重を支持する働きのみならず、柱とともに骨組全体としての水平方向の風荷重や地震外乱に耐える性能を構成する役割も果たす。梁は材軸線の形状によっても分類される。材軸線が直線である梁を直線梁、それが曲線である梁を曲り梁という。曲り梁は螺旋(らせん)階段を支える梁や曲線箱桁橋などに用いられる。
[中村恒善]