日本大百科全書(ニッポニカ) 「桜川(能)」の意味・わかりやすい解説
桜川(能)
さくらがわ
能の曲目。四番目物。狂女能。五流現行曲。世阿弥(ぜあみ)作。桜子(さくらご)(子方。ただし後の場面に登場)は母の貧窮を見かねて人商人(ひとあきんど)に身を売る。人商人(ワキツレ)がその代金と手紙を母(前シテ)に届け、母が嘆きつつ後を追う前段。後段は常陸(ひたち)国(茨城県)、桜川のほとりで僧たち(ワキ、ワキツレ)の花見の場面。狂女となり、日向(ひゅうが)国(宮崎県)からはるばるわが子を尋ねてきた母(後シテ)。名前にゆかりある桜川で、掬(すく)い網を持ち、風に散り流れる落花をすくう場面に詩情のあふれる、物狂い能の代表作。親子再会で締めくくるのは、この種の能の常套(じょうとう)手段である。
[増田正造]
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